OVER VIEW
<OVER VIEW>世界のIT業界、緩やかな市場成長へ Chapter2
2003/12/08 16:18
週刊BCN 2003年12月08日vol.1018掲載
業界変動、再編を加速する数々の要因
■基幹技術から利用技術の開発競争へ入ったIT業界1960年代にインテル創業者のゴードン・ムーア氏が予言したムーアの法則に沿って、IT業界は半導体高度集積から、より高速・大型のコンピュータ開発競争を長い間続けてきた。しかし、00年からのIT不況からの脱出期となった03年に世界のIT産業では、ITの活用技術開発が中核になったことがはっきりした。それはこれまで急激に発展してきたITのもたらしたいろいろな課題が、不況でIT投資が削減されたユーザーで露呈してきたからである(Figure7)。
そして、安くて使いやすいIT開発へとベンダーが一斉に走り始めた。ユーザーの要求は厳しく、初期投資だけでなく運用コストが安いことや、システム複雑性が隠されるユーザーがより使いやすいITを要求する。さらに安定稼働の接続やセキュリティが万全なことも求める。そして社内に乱立した部門最適化と全社最適化をシステム的に整合化することで、失われつつある企業のITガバナンスを再度強化できることも要求する。これらはITの投資効果の明確化を迫り、究極的には企業が展開するビジネスとITの一体化を求める。このような技術開発視点が変化しつつあることを見抜く米国機関投資家と経済アナリストは、これらの動きは業界再編の前兆であると捉えている(Figure8)。
米モルガン・スタンレー証券などは、すでにITセクター技術は十分に発展したため、基幹技術開発による市場拡大の期待は小さくなったと分析する。さらにインターネット上でビジネスプロセスを展開するウェブサービスなどのeビジネスの本格的な普及の時代は、個々のIT機器ではなくネットワークの市場支配力がさらに強まると予想し、これを「マネージドコンピューティング」時代と呼ぶ。
さらにコモディティ化したIT商品を量販するベンダーと、すべての企業ITビジネスをワンストップ型で提供するという新しいベンダーの競合軸の明確化も指摘する。そしてオープンスタンダード普及が市場拡大を牽引する一方、利用技術面ではベンダーのプロプライエタリ(専有)開発意欲も高まって、両領域の境界綱引きも強まるというアナリスト観測も目につく。
いずれにしても緩やかな成長時代には、世界的にソフト、ソリューションプロバイダ(SP)、そしてベンダーの数が絞り込まれる再編劇が活発化するという点では、多くの見解が一致しつつある。
■固有領域、共有領域の強い綱引き
ユーザーからの要求に応える、安くて使いやすい新しいIT利用に関する技術開発に多くのベンダーが参加し、それぞれに多額の研究開発費(R&D)を投入し始めた(Figure9)。
ビジネスとの一体化や柔軟なITでは、オンデマンド、アダプティブなどとベンダーが呼ぶ新ITコンセプトが多数提唱され、これらはダイナミック・エンタープライズ・システムと米国で総称される。システム間の相互運用性確保のため、オープンスタンダードが普及し始め、複雑性を隠す自律型機能の開発競争も激しくなり、これに加え過剰投資抑制も狙う仮想化技術も各社が発表した。
また、処理性能限界のないシステムや従量制料金で利用できるe-ソーシング向けには、システム間で余剰パワーを融通し合えるグリッドコンピューティングのコマーシャルユースも始まった。さて、これらの動きから見て、これからIT業界では特定ベンダーのプロプライエタリ技術による個有領域と、オープンスタンダードの共有領域の境界線の綱引きも激化するとエコノミスト誌は観測する(Figure10)。
この両領域併存はIT業界が発展するためには必須の条件だ。共有領域が拡大し過ぎれば、ベンダーのR&D投資インセンティブが小さくなり、逆に個有領域が広がり過ぎれば、互換性や相互運用性が失われ、システム連携がとりにくくなってしまう。従って、この併存は二律背反である。
そして開発体力のないベンダーは共有領域だけに閉じ込められて、コモディティ化競合の激しい波にもまれることになり、多くは体力を消耗する。この二律背反も業界再編の引き金になると見る業界関係者は欧米で多い。
■きわめて対照的な、IBMとデルの戦略
IT不況下でも独り高い成長を持続したデルは、業界標準のインテル、ウィンドウズ、またはLinuxだけを使うコモディティ戦略で成功し、直近ではAV(音響・映像)セクターの音楽プレーヤーや薄型テレビまでを手がける。
さらに同社のマイケル・デル会長は、IBM、ヒューレット・パッカード(HP)、サン・マイクロシステムズ、そして富士通、NEC、日立製作所が開発しているスケールアップ方式とは異なる大型スケールアウト方式サーバーで大企業データセンターまでを狙う宣言を行った。こうしてデルはパソコンをベースにIT、AVの横へ自社市場領域を拡大しつつある。これと対照的な縦型ベクトルで自社市場拡大を狙うのがIBMだ(Figure11)。
IBMは世界の大企業・中堅企業に焦点を定め、ハード、ソフト販売からITサービス、そして最近ではビジネスコンサルティングまでをワンストップ型で提供する総合ベンダーへと変身した。ある米アナリストは、「IBMはもはやITベンダーではなく、ハード、ソフト、サービスまでを一体化して提供するコンサルティング企業」と見るべきだとも語っている。
こうして対照的な2大ベンダーの戦略にもまれて、自社戦略ベクトルが不明確なベンダーは迷走し始め、これも業界再編の引き金となる。このように、高度成長からIT不況、そして緩やかな成長へと変化してきた世界ITセクターには、多くの業界構造変化を加速する要因が現れた。デルとは対照的な戦略を推進するIBMソフト部門のスティーブ・ミルズ上級副社長は、ソフトビジネスの立場で「企業ITをつくり替える」というビジョンを公表した(Figure12)。
同ビジョンはきわめて単純明確に「ユーザー企業が自社のコアコンピタンスだけに集中できるIT環境の整備」と説明される。03年後半世界ITセクターではっきりしてきた多くの業界変動要因によって、04年以降、ハイテク業界はIT、AVセクターを巻き込んだ激しい業界再編劇の展開が予想される。
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