テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>19.電子カルテの標準化

2003/12/08 16:18

週刊BCN 2003年12月08日vol.1018掲載

 構造改革と新価値創造――。e-Japan戦略IIで打ち出された2つの改革の実現に向けて、医療分野での取り組みが活発化している。厚生労働省は今年度からスタートした「標準的電子カルテに関する研究」の中間報告会をこのほど、日本医療情報学会と共同で開催。電子カルテに関連して業務フローから個人情報保護まで幅広いテーマで研究発表が行われた。「医療に関する透明性、効率性、質の向上に対する国民の権利意識の高まりに医療分野のIT利活用は重要な戦略となっている」(田中博・日本医療情報学会会長)。(ジャーナリスト 千葉利宏)

12のテーマで研究発表

 厚生労働省では、2001年12月に「保険医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」を公表し、電子カルテの普及に向けた事業をスタートしている。しかし、標準化を含めて電子カルテ導入の基盤はまだ十分に整っていないのが実情だ。このため今年4月から標準的な電子カルテに関する研究をスタートするとともに、研究途中の成果も積極的に情報公開していくことで電子カルテ導入も促進していくことにした。11月には医療分野のIT化について厚生労働省と経済産業省が緊密に連携していくことが局長レベル会合でも合意され、セキュリティなどの分野で協力が進むという。

 報告会で発表された研究テーマは12(表参照)。内容は非常に多岐に渡る。まず1では、電子カルテに必要な機能は何か、それらをどう連携するかなど情報モデルの検討が進められている。情報モデルの調査・分析を行うために「業務フローに対応する機能」、「情報管理における法律的要求事項」、「診療記録として必要な情報」など8つの視点を設定した。この情報モデルや、国際標準HL7(医療情報交換のための標準規約)の動向を踏まえながら、電子カルテの機能モデルを開発していく。5では、現在の業務フローを分析した上で、電子カルテ導入によって実現できる新たな業務フローモデルの検討を進めており、3で、このモデルに基づいた電子カルテを開発するフレームワークの開発をめざしている。

 医療行為を支援する新しい機能を実現するための研究も進んでいる。4は、病名やプロブレムを診療行為の論拠や事由として関連付けたり、その変遷を記録したりする機能の実現をめざす。6は、処方時に薬の間違いなどをチェックできるように、通常ではありえない薬の組み合わせなどをデータベース化して警告を発することで処方設計ミスの低減を図るシステムだ。

 電子カルテに最も期待される情報の共有化や連携を支援する機能では、8でのHL7だけではカバーし切れず独自に設定したデータフォーマットなどを調査し、情報の相互運用が可能な環境を整備。2では、患者の医療画像データを含めて紹介状を電子化する研究や、院外薬局での調剤ミスなどを防止するため二次元バーコードを使って処方箋内容の情報提供をめざす。

 「電子カルテシステムの導入効果をどう測定するか。医療の質向上をどのように評価するのか」――。今回の報告会で多くの出席者から問題提起された課題だ。10で、医療分野でも注目の自己評価手法BSC(バランススコアカード)の研究が報告されたほか、質向上を測るクオリティインディケーターの必要性も提言された。電子カルテ導入による効果を国民に判りやすく示していくことが新しい医療への期待を高めていくことになる。

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