中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>45.信頼関係は契約書の中に

2003/11/24 20:43

週刊BCN 2003年11月24日vol.1016掲載

 前号では、中国へのアウトソーシング事例として、NECのケースを取り上げた。改めて考えてみると、バンキングシステムという最もミッションクリティカルな分野でも、中国が台頭してきているのだ。NECはシステム稼働後の保守作業に関しても同じ中国企業に委託しており、国内ソフト産業の大きな構造転換を示している。ただ、こうした構造転換が実際に起きているなかでも、「中国企業に委託するのは恐い」と考える業界関係者は依然多い。その理由を聞くと、「中国の商慣習は特異で、問題が起きても対処できない」との答えが多い。(坂口正憲)

 確かに、中国へのアウトソーシングで手痛い経験をした企業は少なくないようだ。「要求した仕様や納期を順守してくれない」、「予期せぬ追加費用を請求された」などの声がよく聞かれる。その結果、「中国企業はどうしても信頼できない」となる。しかし、中国も今や自由主義経済へシフトし、立派な輸出立国となった。日本だけでなく、欧米各国との貿易量が急増している。信頼関係に基づいたビジネスが成り立たないはずがない。この場合の“信頼”とは、日本企業同士が好む「暗黙の信頼」ではない。明文化された契約書上の信頼である。中国企業は欧米型のビジネス慣習を吸収している。つまり、条件と対価の関係を細かく明文化して取り交わす契約文化が根付き始めている。

 打ち合わせと簡単な契約書の取り交わしで、「それでは宜しくお願いします」で通じる日本の特異な商慣習を押し付けても、後々に食い違いを来すだけだ。例えば、ソフト開発の準備段階で重要な工数見積もり。日本では大まかに見積もり、狂いが生じた場合の費用や作業の負担は、「その時点で検討する」とあいまいにしておくことが多い。この文言の中には、「工数が多少増えても我慢してくれ」との発注側の要求が込められている。ところが中国企業からすれば、契約書で取り交わした部分のみを請負義務と考える。明文化されていない「我慢してくれ」の部分は通じない。アウトソーシングにおいて契約の在り方は大きな問題なので、次号でも取り上げて考えてみる。
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