OVER VIEW

<OVER VIEW>次世代ITの姿を探るベンダー Chapter3

2003/11/17 16:18

週刊BCN 2003年11月17日vol.1015掲載

 IBMは大手コンサルティング会社PwCCを買収することで、顧客企業のビジネスプロセスを、市場の変化に敏捷に対応して変えるオンデマンド型へ転換させるコンサルティング能力が強力になった。IBMは経営とITの一体化を推進するうえで、自社のもつコンサルティング機能とIT構築力を一体化したサービス提供がきわめて重要だと主張する。このコンサルティングとITサービスの一体化は、世界の有力ITベンダーのなかでもIBMが初めて採った戦略だ。これは同社がこれまでのIT企業の領域を越えて事業を拡大しようとする試みでもある。(中野英嗣)

IBM、コンサルティング機能強化で企業価値経営を訴求

■全世界6万人のコンサルティング部門

 IBMは「オンデマンド戦略」で顧客のビジネスモデル変革と一体化する新しいコンピューティングスタイルを強く訴える。米経営誌ビジネスウィークは、「IBMは変貌した」と次のように説明した。

「IBMはルイス・ガースナー前CEOによって、eビジネス=IBMという図式を世界に定着させて、再びコンピュータのIBMとして復活した。ガースナー前CEOの後任のサム・パルミザーノCEOは、コンピュータのIBMから脱却して、顧客ビジネスモデル革新リーダーとして、全産業に君臨することを狙っている」

 ITと経営の一体化を目指すIBMは、自社のビジネスコンサルティング機能強化を目的として、2002年秋にコンサルティング業界大手のプライスウォーターハウスクーパースコンサルティング(PwCC)を35億ドル(3800億円)を投じて買収した。この買収でIBMは自社サービス部門「グローバルサービス」内に「IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS)」を組織した。国内ではこれを独立会社「IBCS株式会社」として設立した。

photo 全世界でIBCSは6万人のコンサルタントを擁する世界最大級のコンサルティンググループとなった。IBCS日本法人の清水照雄社長は自社の位置づけについて次のように説明する。

 「当社は顧客の事業戦略立案から、業務改革、これを支えるITソリューション構築サービスまでをワンストップで提供する。これで上流コンサルティングまでを狙う。例えばアクセンチュアと、下流IT構築を専業とするNTTデータ両社の機能を合わせ持つサービス会社が誕生したと理解してほしい」

 IBMの「eビジネスオンデマンド」戦略の営業第一線で活動するのは当組織員だ。IBCSは、「これまでの経営改革は80年代の製品中心から始まり、90年代にはファイナンス中心となり、現在は顧客指向へと変遷してきた」という(Figure13)。

photo これは言い換えれば「やり方を工夫する改善から、やり方を変える改革、そしてやることそのものを変える変革である」とも説明する。この上でIBMは「企業価値経営」を強く訴える(Figure14)。

「これはブランド資産などの『最大化』、サプライチェーンなどの『最適化』、そして経費などの『最小化』を目指す経営である」と説明する。

■コンピタンス経営の選択を迫るIBM

photo IBMはビジネス革新には自社の強さをどこに求めるかを明確化するための「企業のコンピタンス経営への選択肢」を明示する。IBMが説く勝ち残る選択肢は「製品力」、「価格優位性」、「顧客親密性」の3つである(Figure15)。

 企業はこのうちのどれかを企業優位性確保の基盤として決定し、後はこれに集中する「コアコンピタンス経営」に挑戦すべきだと提言する。IBCSは変革のプロセスについて、次のように解説する。

 「まず現状の不採算部門などのリストラ、閉鎖によってコストを削減する。ここで終わる企業が多いが、これでは企業がダウンスパイラルに入ってしまうだけだ。課題はコスト削減で浮く資金を企業の新しい姿を描いたうえで、そこに投資することにある」

 この未来への投資について、IBCSは次の3プロセスを提案する。

●新たなビジネスモデルの構築
●業務プラットフォームの再構築
●効率的な運用、運用プロセスの確立

photo このプロセスでは、「PL、BS、CF(キャッシュフロー)の具体的数値効果目標の設定と達成度測定」を怠ってはならないという。これら変革には常に「企業内部のバリューチェーン」とこれを外部に延長した「産業内バリューチェーン」という視点が必要だ。このバリュー最大化を目指し購買調達→製造→物流→販売→顧客管理というチェーンおよび、人事、会計、ITなどの横断的機能を含めてコアを選び、これ以外は外部にアウトソーシングすることを勧め、この受託のためにBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)も強化している。

 IBMは経営とITの一体化を狙うため、ビジネス領域のビジネスモデル/プロセスから、IT領域のアプリケーション開発やこれらの統合までを「やることを変える」という視点で変革することを顧客に助言する(Figure16)。

photo■コンサルティングとITサービスの統合

 IBMは経営とITの一体化を「オンデマンド経営」と「オンデマンド環境」という2つのベクトルで示す(Figure17)。

 「オンデマンド経営」ベクトルは1プロセス内から企業内全体、そしてバリューネット全体の最適化を経て、即応性、柔軟性、集中化、回復力という特性をもつオンデマンド経営確立に向う。一方オンデマンド環境のベクトルはこれにともなうITの洗練度を表わし、部分、統合から動的(ダイナミック)なオンデマンドコンピューティングが実現する。

photo IBMはこの経営変革ベクトルと、コンピューティングスタイルを意味する環境変革ベクトルが常に連動することで、経営とIT一体化の具体像に近づけると説明する。IBMはオンデマンド戦略を同社のコンサルティング機能とITサービスが一体化する組織をもって推進する(Figure18)。

 この事業領域はこれまでそれぞれコンサルティング専業会社とITサービス会社が受け持つ全く異なった市場だ。これをIBMが初めて統合して、ワンストップショッピングの型で提供することになった。これに関し世界のIBCSトップを務めるジニー・ロメッティ氏は次のように語る。「IBMが唱える事業変革は、最先端のITシステムと強力なビジネスコンサルティング能力が融合して、顧客に従来とは全く異った形のサービスを提供するというまったく新しい挑戦である。この領域はもともと別々の専門能力をもつ企業が受けもっていた。従ってITベンダーから見れば、このコンサルティングサービスは対象ではない。しかし、IBMは企業の経営とITの一体化という困難な課題解決に向けて、ITベンダーの枠を越えて挑戦していると理解してほしい。このコンサルティングとITサービスを融合できるのはIBMだけで、これがIBMの競合他社との最大の差別化ポイントである」
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