コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第52回 宮崎県(上)

2003/11/17 20:29

週刊BCN 2003年11月17日vol.1015掲載

 都市部と過疎地といった地域間格差を是正し、情報の共有、産業の振興などを図るためには情報インフラの整備が重要になる。日本全国自治体で情報ネットワークの整備・拡充が活発に行われている。宮崎県でもIT化の基本として情報インフラの整備にまず着手し、県内の情報ネットワーク「宮崎情報ハイウェイ21(MJH21)」を2002年8月に完成した。現在は、第2段階ともいえるインフラの利活用の部分への取り組みが、徐々にスタートしている。その1つとして、総務省が今年4月に横須賀市や岡山市など全国8地区を指定した 「ITビジネスモデル地区構想」で宮崎市と清武町も選ばれたことで、「MJH21」を利用してITビジネスモデルの創出を図り、経済の活性化につなげようという活動も始まった。(木村剛士)

地域間格差の是正目指し、情報インフラの利活用段階へ 民間企業の情報活用を積極支援

■県と44市町村すべてを光ファイバーで結ぶ

 宮崎県が、県内の情報ネットワークインフラである「宮崎情報ハイウェイ21(MJH21)」を完成させるのに投じた費用は約14億円。県内8か所のアクセスポイントを拠点とし、「全国で初めて県と44市町村すべてが光ファイバーで結ばれた」(甲斐丈勝・宮崎県企画調整部情報政策課地域情報化主幹)上に民間開放を盛り込んだのがポイントだ。

 8か所のアクセスポイント間では、2.4ギガビットの超高速バックボーンを使用し、44市町村すべて最大155メガビットの伝送速度で接続している。また、ネットワークは、リング構成で万一、障害が発生した場合でも、0.05秒以内に経路の切り替えが可能で、さらに24時間365日の保守運用体制を敷くなどネットワークの安全性を高めている。

 甲斐主幹は、「完璧な“高速道路”は整備できた。このインフラをどのように活用していくかが今後の課題」と話しており、今後の情報政策の中心はITの利活用に向けた取り組みに移行してきている。

 利活用の施策として、まず公共分野では、(1)教育・研究、(2)行政、(3)医療・福祉の3分野を軸に、情報化を推し進めていく。

 特に、教育分野では公立の小・中・高・大学、その他各種教育機関などがすべてネットワーク接続されていることを生かし、大学や高校などが共同で研究を行ったり、地域情報の共有データベースシステムを構築したりしている。これも「MJH21」をベースに活用した新たな教育スタイルの創出というわけだ。

 県内で最も人口の多い宮崎市は、特に教育関連の情報化には力を入れており、「九州一の情報教育都市づくりを目指す」(金丸富太郎・宮崎市総務部情報政策課長)と、九州の他の自治体と教育面の情報化でリードしていく考えを持っている。

 まず01年までに、県内全公立小中学校53校に約4800台のコンピュータを導入。さらに、全教職員がコンピュータの操作をできるように、情報教育のアドバイザーを学校へ派遣し、教職員への指導などを定期的に実施している。

 行政分野では、データセンターを拠点として、電子申請や施設予約などの電子自治体関連のアプリケーションを複数の市町村が共同で提供する行政ASPサービス実現に向けて活動が始まった。

■「ITビジネスモデル地区構想」で企業誘致

 公共分野で「MJH21」の利活用策が練られている一方で、民間企業の活用においては、「試行錯誤の段階」(甲斐主幹)だという。

 ケーブルテレビ(CATV)業者などがサービスエリアの拡張のために利用することや、県内に複数の拠点を持つ企業のイントラネットとしての利用などを促しているが、甲斐主幹は、「今はまだ順調に立ち上がっている段階ではない」と民間企業の腰の重さを指摘。特に、都市部と町村部の情報格差が大きいため、県内のインターネット環境向上のために、ISPなど接続事業者の利用も求めている。

 情報格差という点では、宮崎市に代表される都市部と県の北西部に位置する山間部の格差が激しく、山間部ではADSLを含めブロードバンド回線が整っていない市町村が多い。

 「人口が少ないだけに、通信事業者がなかなか山間部までサービスエリアを拡大してくれないが、『MJH21』のメリットを訴えることで、カバー率を広げていきたい」(甲斐主幹)という。

 今年4月、宮崎県は総務省がITビジネスの振興に積極的な地方自治体を指定し、ITビジネスの地域構想のモデル構築と地域経済の活性化を推進する「ITビジネスモデル地区構想」の指定を受けた。

 指定を受けたのは、宮崎県のほか、宮城県仙台市や、神奈川県横須賀市、岐阜県、岡山市など、主にIT先進地域と呼ばれる合計8自治体。

 この指定により、宮崎県はアプリケーション開発やIT技術者育成のための助成金を手に入れた。人材育成費用として150万円、民間活用モデル事業として2500万円を03年度に交付される。

 宮崎県では、この2500万円を利用して「MJH21」を活用したITビジネスモデル事業を民間企業から募集した。今年10月、応募18社、29件の中から、4件を決定。遠隔地からのデジタル検診診断システムや、マルチメディアコンテンツ流通システムなどを採択し、実用化につなげる計画だ。

 甲斐主幹は、「ITビジネス地区構想で指定を受けたことによって、他県よりもさまざまな取り組みを行うことができる。成功例を創り出し、企業誘致や地場企業の活性化に結び付けていきたい」と、民間企業のIT利活用施策を積極化させ、宮崎県経済の地盤沈下を食い止める産業振興の一助にしていくという。


◆地場システム販社の自治体戦略

NEC宮崎支店

■地場のIT企業と連携

 NEC宮崎支店の自治体向けビジネスは、宮崎県内の44市町村のうち、11市町村の基幹システムの構築などで、全体の売上高の約70%を占める。

 医療分野や大企業の地域拠点、金融機関などは比較的好調に推移しているというものの、「民間企業のIT投資は相変わらず低迷しており、上昇の傾向は見られない」(永井裕二・NEC宮崎支店長)ことから、自治体ビジネスに頼らざるをえない状況が続いている。

 今年度の売り上げは、宮崎県内の市町村合併が進んでいないことから、新規案件がほとんどなく、昨年度の売上高の約30億円と同レベルで推移すると予測している。

 永井支店長は、「宮崎県内の自治体ビジネスは、当社と富士通の一騎打ちの状態。だが、人口規模の多い自治体を富士通が手がけており、やや劣勢を強いられている。今後急速に進むであろう市町村合併で盛り返す」と、合併を機にシェア拡大に意気込んでいる。

 ただ、「市町村合併が全国でも最も遅れているのではないか」(永井支店長)という懸念があり、合併に集中しようにもし切れていない様子。

 案件が一定の時期に集中し、人的リソースを確保できないことも不安材料だ。

 永井支店長は、「NECグループの総合力で対応することになる。しかし、それだけでは賄えない状況になる。地場のIT企業と連携を取ったビジネススタイルが必要になる」と話す。

 地場企業との協業体制を確立し、合併案件の受注に挑む方針だ。
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