OVER VIEW
<OVER VIEW>次世代ITの姿を探るベンダー Chapter2
2003/11/10 16:18
週刊BCN 2003年11月10日vol.1014掲載
HPのコンセプト「アダプティブエンタープライズ」
■IBMを意識し、オンデマンドモアを強張「経営とITが乖離している」という、ユーザーとIT業界が共通して認識している課題の解決に向けて、有力ITベンダーが一斉に2003年から新しいコンセプトを提唱しはじめた。
この提唱が最も早かったのが、IBMとHPだった。IBMが「eビジネスオンデマンド」、HPが「アダプティブエンタープライズ」と呼ぶコンセプトだ。
HPはIBMを最強コンペティターと考えている。そこでHPは新コンセプトでもIBMを越えるという意味を込めて、アダプティブエンタープライズでは「オンデマンドモア、オンデマンドのその先へ」というフレーズをキャッチとして使い、わが国でも積極的キャンペーンを展開している。
乖離縮小を狙うIBM、HPはともにこれから求められる経営モデルそのものを提唱している。例えば、HPは、これから求められる経営は「プロアクティブ(積極的)なビジネス戦略を求められ、これを支えるのがHPが提供するIT基盤だ」と強調する(Figure7)。
プロアクティブ戦略では、市場創造、ビジネスモデルの転換、根本的オペレーション改革をHPは主張する。そしてこのIT基盤では何よりも「柔軟性」が一番重要だと説く。さらに当戦略ではビシネスアジリティ(俊敏性)を強く押し出す。
そしてHPは、日本は世界で最もユビキタスネットワーク基盤が充実しているので、ビジネス戦略展開ではこれを有効に活用することが大切だともいう(Figure8)。
日本HPの樋口泰行社長は、現行ITでは「ITへの過度な期待からの反動」が見られ、さらにこれまでの「新技術中心」施策から脱却して、「多面的なビジネス戦略への回帰が必要だ」と主張する。同社は「オンデマンドモア」キャンペーンの「アダプティブエンタープライズ」では、次のようにIT構築をサポートすることで経営とIT乖離解決に役立てると説明する。
●アカウンタビリティ(顧客に対するトータルソリューションの責任)
●アジリティ(ビジネス環境変化への俊敏な対応)
●RoIT(IT投資効果の最大化)
■IBM戦略とは明確な一線を画す
HPはプロアクティブ戦略を展開する経営モデルを強調するが、このような経営体へトランスフォーメーション(転換)するためのビジネスコンサルティングには手を出さないという。
IBMは変化に敏捷に対応できるビジネスプロセスへのトランスフォーメーションのコンサルティングに本格的に参入するため、02年秋にコンサルタント大手のプライスウォーターハウスクーパース(PwCC)を35億ドル(4000億円)で買収した。この点がIBMとHPのビジネス戦略上の大きな違いだ。
コンサルティング分野に参入しない理由をHPのカーリー・フィオリーナCEOは次のように語る。
「その領域は多数のプロフェッショナルコンサルタントを擁するアクセンチュアなど専門企業の事業領域であって、ITベンダーが手掛けるべきITサービスのビジネスではない」
HPは企業のIT-ROI最大化のためには、従来からコスト管理、IT品質向上、リスク低減が課題として残されていたという。新しいITではこれら課題解決に加えてアジリティ向上が求められるというのがHPの主張だ(Figure9)。
コスト管理では、運営費、購入費削減、固定費管理を、品質では可用性、応答のレベル向上、そしてエンタープライズ全体のサービスレベル拡大を謳う。リスク面ではセキュリティ強化とビジネス継続性を強調している。
HPが強調するのは、ビジネス戦略と一体化したソリューションを実現するアダプティブITインフラ間のフィードバック線を強化してビジネス環境の変化に俊敏に対応し、再度ビジネス戦略にフィードバックできるようにすることだ(Figure10)。
■ダーウィンの「種の起源」を参照
HPは、アダプティブエンタープライズ戦略の策定では、生物進化論のダーウィンの著書「種の起源」にある次のようなダーウィン説を参照したという。
「生き残る生き物は、大きいもの、強いもの、頭のよいものではなく、変化に順応できるものだ」。HPはこれを引用して「HPダーウィン・リファレンス・アーキテクチャ」を公表している(Figure11)。
当アーキテクチャでHPはビジネスプロセスでの拡大と連携、ITインフラでの構築後の統合を強く打ち出している。このITインフラではHPの強力な自動管理ソフト「HP Openview」、ダイナミックな資源配置を実現する「UDC(ユーティリティデータセンター)」、そして堅牢なプラットフォームである自社UNIX「HP-UX」と障害発生を排除した「NonStopサーバー」利用をリコメンドする(Figure11)。
さらにHPはアダプティブエンタープライズによってITによる企業競争優位性構築まで言及する(Figure12)。
例えば企業のビジネスサイドは拡大志向であり続けるためハイリスクは避けられないが、これをコストサイドのIT部門ではローリスク指向でカバーする必要があると説く。
そしてこれからのITに対する企業の期待は、「ITがビジネス戦略を支える」ことと、また逆に「進化したITによって新戦略を可能とする」ことであると説明する。
日本HPの樋口社長は、「ITは強い企業への変革を導く」ことから、経営とITの一体化を推進しなければならないと繰り返えし強調する。さらに同社長は、これからの環境はデジタルコンバージェンスが進展し、これまでの業種区分がボーダーレスになることで、企業の優位性確保はますます難しくなるともいう。
さらに技術進歩がもたらした「技術付加価値の減少」によるブレークする新技術が生まれにくい環境ともなっているので、ITと経営の一体化による新しい「企業戦略の策定がさらに重要になること」を補足する。
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