コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第51回 長崎県

2003/11/10 20:29

週刊BCN 2003年11月10日vol.1014掲載

 離島や半島、過疎地を多く抱える長崎県のIT化は、地理的ハンデを克服し県民サービスを向上することに主眼が置かれている。一昨年に策定された「e県ながさき戦略(長崎県情報化推進計画)」には、こうした考えを色濃く示した。また、福岡、佐賀両県と同様に「地元IT企業」の優先施策が随所に見られるのも特徴だ。長崎県は、県庁システムの「オープンソース化」を急ピッチで進める一方、県が作成したシステムの詳細な仕様書、オープンソースのノウハウを地元IT企業に提供する試みを始めている。(谷畑良胤)

「e県ながさき戦略」で県民サービス向上へ、離島や半島のハンデをITで克服
オープンソース化を県が主導

■ITで「生活シーン」を革新

 長崎県では、離島や半島など、地理的ハンデの克服や県民サービスの向上を目指し、県のIT化を促進してきた。「ITは県民の豊かな暮らしを実現する道具」(松山芳之・長崎県総務部情報政策課電子県庁推進班課長補佐)と、電子県庁の進捗が今後の地域活性化を左右するほどの重要政策だと認識する。

 長崎県は2001年10月、県民の視点に立ち生活シーンごとの具体的課題などを示した3か年の情報化戦略「e県ながさき戦略」(02-04年度)を策定した。この戦略が他県の情報化戦略と様相を異にするのは、通信回線などのインフラ整備だけに主眼を置かず、ITをツールとして捉え、コミュニティや教育文化、保険医療など「生活シーン」をどう革新できるかというソフト面を重視した点にある。

 「住民サービスなどを県民に提供するには、それを支える個別のシステムが必要。このシステム基盤を提供するのが電子県庁」(松山課長補佐)と、県庁主導を印象づける。

 電子県庁では、電子申請などの導入に向け当面、電子文書と紙文書が混在する。長崎県では、これまで県庁に出向いて行っていた申請・届出を、自宅のパソコンや携帯電話などによるインターネット接続で、24時間申請可能な住民サービスを検討中だ。

 このため、紙中心の従来の業務フローを電子化すべく、昨年4月、「e県ながさき戦略」の初年度に、業務プロセス改革(BPM)を含む情報化戦略やデータベース(DB)基盤の整備などを統括的に指揮する「CIO(最高情報責任者)補佐官」的な役割として、「参事官」を民間シンクタンクから招聘した。

 参事官を中心に昨年度からは、文書作成サーバーを用意して、内部庶務事務や県民からの電子申請を同じ文書処理として、文書管理システムで統合的に扱えるシステムの構築を進めている。個々の業務プロセスの効率化は、文書処理と分離したサポートシステムで実施。サポートシステムからの情報は、データ連携の形で庁内統合DBに蓄積する。決済結果は庁内統合DBやホスト(財務会計オンライン)に反映させる。

 従来、こうしたシステムの変更時には、大手ITベンダーの業務パッケージソフトを活用した「1社一括導入」が主だった。これに対し、現在長崎県では、オープンソースを用いてDBや共通基盤の開発を進めている。電子決裁や申請、各種行政手続などのシステムは仕様書が公開され、これらの構成モジュールは個別に発注・調達する方法を取り、「1社一括導入」の弊害解消を狙っている。

 長崎県は、オープンソースを用いたシステム開発を「財源の効率的な執行が行える」(松山課長補佐)手法として、合併を急ぐ市町村に提供する計画だ。今年9月には、LGWAN(統合行政システム)の共同利用を検する市町村の情報担当者による「県市町村電子自治体推進連絡協議会」にシステム開発手法を提案した。

 こうした働きかけに対し、同協議会に参加する原大策・長崎市企画部情報システム課長は、「共通基盤を構築する方法の選択肢は増えたが、大手ITベンダーが持つ業務パッケージの方が負担が少ないとの声もある。一概に県の方針に乗るかは不透明」と、方針を決めかねている様子だ。

■「調整機関」設置で地元IT企業を育成

 長崎県では、こうした市町村の反応を見越して、「電子自治体構築支援システム」の整備を進めている。大学などによる「品質検査機関」と「オープンソース供給機関」を設け、県のオープンソースにより構築したシステムの品質検査を実施し、県内市町村にオ-プンソースの需要を喚起する予定だ。

 また、セキュリティホール(安全上の欠陥)やプログラムの品質検査を行ったうえで、地元IT企業に仕様書などを提供する。地元IT企業は、オープンソースでの業務システム構築のノウハウを享受することで、これまで入札すら参加できなかった市町村の業務システム構築を請け負うことが可能になる。

 長崎県が03年度当初予算で発注した情報システム関連の落札企業は、こうした諸施策が功を奏し、地元IT企業が約半数を占めた。今後はシステム専門家らによる「調整機関」(仮称)を設置し、地元IT企業がシステム開発に専念できるよう県や市町村、大学との仲立ちをしたり、市町村のDB共通化を調整を通じて行う。

 この「調整機関」は、将来的には中立的スタンスで運営させるため、NPO(民間非営利団体)法人化する計画だ。

 長崎県庁のIT化は他県に比べ進展が早いものの、合併問題に揺れる県内市町村の電子自治体化に関する方針は、合併協議会により対応が違う。

 1市6町による合併を控える県都・長崎市は、昨年度に「ようやく庁内LANを完成させた」(原課長)が、「共通基盤を作りたくても、合併によってどう情報施策が動くか不透明。今年度はIT化の進捗度は鈍っている」(同)という。今年度は、年度途中の9月に「横須賀方式」の電子入札システムを予算計上したほどで、業務システムの構築も手探りの中で行われている印象が強い。

 一方、長崎県は一昨年から、離島の地理的ハンデを克服しようと、画像・映像を使った公共サービスの実現に向け高速情報通信網の構築を急いでいる。民間事業者の光ファイバーを借り上げ、離島と本土をつなぐ公共アクセポイントを設置。今後も民間のインフラを活用しながら同通信網は構築される。県庁主導と民間インフラの活用を使い分けた長崎県の施策が、今後どう進展するのか注目される。


◆地場システム販社の自治体戦略

NEC長崎支店、オフィスメーション

■LGWAN受注に向け熾烈な争い

 NEC長崎支店では、長崎県内市町村のLGWAN(総合行政ネットワーク)の整備が遅れていると判断。「これが今後、需要を喚起する」(梁井法夫・NEC長崎支店長)と、個別に市町村を巡回し始めた。長崎県でも「地元IT企業」を優先する傾向にあることから、自治体のシステム構築だけでなく、「当社で強みを持つ社会インフラの整備に力を入れたい」(同)と方向転換を図っている。

 長崎県は58の離島を抱え、無医村も多数存在することから、福祉・医療で市町村の調達に食い込もうとしている。「地元IT企業とのコンソーシアムによる自治体向け情報システムの構築や、高度医療の面で公立病院に狙いを定めた営業など、生き残る道は多くある」(同)と自身を示す。

 一方、富士通系のオフィスメーションは、オ-プンソースの仕様書を個別調達する長崎県の動きに合わせ、同社が中心になり、長崎県情報サービス産業協会(NISA)のメンバーらで「オープン化の案件を請け負う『受け皿』機関」(石橋洋志社長)として任意団体を10月に設立した。

 だが、石橋社長は「長崎県のシステム構築案件は、単価が安く粗利益も出ない。適正な価格設定をしないと、地元IT企業はもたない」と危惧する。

 オフィスメーションは、長崎県で課題とされるLGWANの受注に向け昨年10月、同社内にインターネットデータセンター(IDC)を設置。すでに、県内大手金融機関や農協、一部自治体のIDCを預かっている。「今後は合併をにらみ、市町村からの受注を増やす」(同)方針だ。
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