大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第105話 二胡

2003/11/03 16:18

週刊BCN 2003年11月03日vol.1013掲載

水野博之 高知工科大学総合研究所所長

 最近、二胡という楽器の演奏を聴いた。これは不思議な楽器である。二つの弦の間に弓が挟まっている。弓が上の方の弦に当たるとき高い音を出し、下の方に当たると弱い音が出る。この楽器の由来を聞いていて驚いた。安祿山の名が出てきたからである。すでに述べたように安祿山は胡人である。

 胡というのは異民族のことである。唐の時代は西域との交流が盛んであったから多くの胡人が流れこんだ。その頃にこの楽器はやって来たので胡弓といわれた。玄宗の頃は、唐は世界の大国で、各国の人材が集まったのである。日本から行った留学生、安倍仲麻呂(698-770)もまたその才を玄宗に愛され一生を中国で終えた。有名な「あまの原、ふりさけ見れば、かすがなる、三笠の山に出でし月かも」という有名な望郷の歌は皆さんもよく御存知であろう。

 国が活力に富むときは、いろいろな国の人々が集まってくるのもだ。現在のシリコンバレーもその1つの例であろう。こうして胡の楽器は唐に伝えられたが、その原型といわれるゾグド族の楽器はすでにないといわれるから、技術の伝承というのは難しいものだ。ゾグト族というのは、イラン系であるといわれるからイランにはいまだに胡弓の原型が残っているかもしれない。

 ただ、楽器は進化する。現在、日本でいう胡弓は原型は同じものであったのだろうが、二胡とは形は全く違う。諺によれば600年前頃に、胡の楽器は二胡と京胡と胡弓の三つに分かれたといわれる。いずれが原型をとどめるか、というのは興味のあることではあるが、ここでは、技術というのは時とともに変わっていく、ということを述べれば充分である。我が青春の頃はやった蘇州夜曲なども、この二胡できくと、まことに嫋々として哀切きわまりないものに聞こえた。不思議なものである。(コナミ・ホールにて)
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