OVER VIEW
<OVER VIEW>次世代ITの姿を探るベンダー Chapter1
2003/11/03 16:18
週刊BCN 2003年11月03日vol.1013掲載
経営とIT一体化でEAがクローズアップ
■経営とITの乖離を、再び提起したIT不況2000年中盤からの世界的IT不況は、03年夏以降、若干の回復が感じられるようになった。この不況で世界のユーザーはIT予算が削減されるなか、これまでのITシステムのあり方、あるいはIT投資についての厳しい反省を迫られた。
03年5月には、ハーバードビジネスレビューが、ニコラス・カール氏の「IT Doesn't Matter(ITは経営戦略上、もはや重要ではなくなった)」という論文を掲載し、世界的にITの効用について論議をまき起こした。この論議のなか、世界最大規模のITスタッフ4000人を擁するGE(ゼネラル・エレクトリック)のギャリー・ライナーCIOは、ユーザーの立場から現行ITの問題点を提起した(Figure1)。
ライナーCIOは、パソコンなどのウィンテルアーキテクチャは管理技術が未成熟で、システムの複雑性を増大させた問題の元凶と指摘した。また企業内に乱立した部門システムやアプリケーションを統合化する思想やツールの不足によって、「経営とITを有効に整合化できず、この間の乖離を拡大してしまった」と不満をぶつけた。
このような問題を整理したうえ、同CIOは、「ユーザーが期待する新しいIT像」について提言した。そこで同CIOが強調したのは「異種アプリケーションの連携による全社最適システムにアプローチできる新しいIT」であった。これを実現するためには、「どのベンダーにも属さないオープンな技術の誕生と普及」が急務と述べた。ライナーCIOが指摘する「経営とITの乖離」は長い間のITユーザー共通の課題で、この解決へのソリューションをIT業界が示せないまま今日まで来てしまった。
同時期、米ビジネスウィークも「現行ITが抱える問題」として、戦略やビジネスモデルとITの乖離、未完のアプリケーション連携技術、低いIT資産利用、ITスタッフ人件費膨張などを指摘した(Figure2)。
これらの論議は、「ITが経営に真に役立っているか」の疑問に、業界が回答を示せないことへの不満が大きいことを示す。
■採用が活発化するエンタープライズアーキテクチャ
国内最大のシステムインテグレータであるNTTデータの浜口友一社長は、「ITの今後の目標として、eコラボレーション実現」を強調する(Figure3)。
浜口社長は、システムの連携、分散したIT資産をユビキタスネットワークで結合して有効利用できるITを提案する。システム連携は社内から始まって、企業間、企業と官庁、コミュニティ、ITリソースにまで広がると予測。これは次期ITの狙いが、利益を共有するバリューチェーン全体のシステム連携にあり、これら連携によってネットを介する協業である「eコラボレーション」概念が具体化する道だと説明する。
eコラボレーションの対象は、組織だけでなく、IT資産まで拡大され、これはIT資産が処理性能を融通し合うグリッドコンピューティングまでを包むと説明する。そしてeコラボレーションの進展によって、企業ITはいずれ「所有から利用」へのパラダイムシフトを起こすと解説する。
このように、現行IT問題解決を迫られるユーザーでは、システムの全体最適化重視のプロセスで、「経営とITの一体化」に迫るEA(エンタープライズアーキテクチャ)採用の気運が高まってきた。わが国中央官庁もe-Japan電子政府システム構築でEAを採用する動きが強まっている。EAの源流は87年にIBシステムレビューに発表されたジョン・ザックマン氏の論文だ。当論文でザックマン氏は、ビジネスとITの関連性を多様な視点から分析することの重要性を強調した。そしてEAは90年代に米政府での採用が本格化した。EAはITの現状整理から始まって、システムの統合連携によって全体最適化を実現する手法を体系化したものだ。EA採用の狙いはいろいろな角度から述べられているが、その最終目標は「経営とITの乖離防止」にある(Figure4)。
経済産業省もEAに関し「システムの縦割り構造から脱却する最適手法」、「EA手法でIT構築を継続すれば全体最適化へアプローチできる」と高く評価、民間での採用を推契する。
■IT投資・設計意志決定のフレームワーク
日本の官庁、企業でもEA採用が活発化しており、これを手掛けるIBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS)はEAの定義を「ビジネス目標を達成するための、ビジネスとIT両面から投資と設計意志決定を支援するフレームワーク」と説明する(Figure5)。
また、EAは要約すれば「全体最適の視点からIT投資を制御する仕組み」とも考えられるという。IBCSはEA採用プロセスの始点は「企業が目指す経営の方向性の明確化」であり、これに続くのが「ITガイドラインの設定」だと説明する。
いずれにせよ企業IT構築は長期間を必要とする。従ってこの間、ガイドラインを全社的に遵守するチェックを怠ってはならないと説く。ガイドラインの遵守によって、自動的に現行ITの問題点である部門毎の重複開発も避けられるという。
EAには1つの決められた手法があるわけでない。しかし多くのEA採用ケースでは企業ITをビジネス、データ、アプリケーション、ITインフラの4段階アーキテクチャに分類し、今後構築するITシステムに関し社内で標準を設定する。そして将来的にあるべきIT像(To be)に向かって、設定された社内標準に沿って移行プロセスを始動する(Figure6)。
もちろん、1回の移行プロセスで理想を実現できるわけでなく、何回か繰り返して徐々にあるべき姿に近づくというのがEA採用プロセスで、当然長期のプロジェクトとなる。国内ユーザーのEA採用を支援してきた日本IBMの富永章専務も「EA導入プロセスは単一ではない。大規模にも小規模にも進められる。例えば小規模ならデータ・アーキテクチャを整理しておくだけでもシステム寿命がぐんと延び、投資効果が大きくなる」と説明する。
EA採用の是非はともかく、企業では「自社ビジネスモデルの成果を高めるIT導入」を今後のシステム構築時の狙いとする。国内のITベンダーも、このようなユーザーの要請に応える概念や手法を発信し始めた。
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