視点

勝者は明確な事業移行軸を

2003/10/27 16:41

週刊BCN 2003年10月27日vol.1012掲載

 直近の米ビジネスウィーク誌はひとつのIT業界分析を掲載した。「これから厳しくなるのは、プレミアム価格で売れた専有技術でビジネスを展開してきた企業だ。例えば、ストレージのEMC、ネット機器のシスコシステムズ、UNIXのサン・マイクロシステムズ、OSのマイクロソフトなどだ。一方、ITコモディティ化の波に乗るデルも、ノンブランドという強敵に脅え続ける」との指摘だ。

 アナリストのロバート・ホフ氏も、「今後、特定分野だけのカテゴリーキラーの生き残りは難しい」と主張する。長びくIT不況が回復基調のなか、これらの主張を裏付けるようなITメーカーの動向が顕著になった。1つはカテゴリーキラーのデルに代表される動きだ。デルはパソコンからサーバーへと対象を広げ、さらにネット機器、PDA(携帯情報端末)、プリンタとカテゴリーを拡大し、デジタルテレビ、音楽再生機という、これまでITの領域でないAV(音響・映像)機器にも手を伸ばす。

 もう1つはエンタープライズ市場を独走するIBMの動きだ。IBMは企業市場に絞り込んで、そこでの数少ない垂直統合型ベンダーとして再び巨人として復帰した。IBMは絞った対象エンタープライズの上流にあるコンサルティング、それも市場の変化に敏捷に対応できるオンデマンドへとトランスフォームさせるコンサルティングに注力するため、プライスウォーターハウスクーパース(PwCC)を買収した。IBMのビジネス上流はこのコンサルティングとITサービスのワンストップショッピングだ。

 このような2社の事業ベクトルは、デルが水平指向、IBMが垂直指向と対照的違いが見られる。デルは水平指向でカバーするカテゴリーを増やし、そこに得意のデルモデルを持ち込む。IBMは利幅の小さくなったハード、ソフトの下流ビジネスを、利幅の大きな上流でカバーすることを狙う。この勝ち組2大ベンダーのような明確な事業移行軸をもたない多数のベンダーは、左右や上下の乱れた拡散移動を繰り返すうち、体力を使い果たした者から市場退出やM&Aによって消滅していく。不況脱出後のハイテク市場は、このようにさらに厳しくなることも想定される。

 今回のIT不況は需要循環サイクルによるものではない。不況によって、業界構造がもつ矛盾、現行ITが抱く数多くの課題露出が加速され、市場の投資マインドも大きく変わった。業界再編は否応なく進みそうだ。
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