OVER VIEW
<OVER VIEW>緩やかな回復基調にある米国IT市場 Chapter4
2003/10/27 16:18
週刊BCN 2003年10月27日vol.1012掲載
デジタルコンバージェンスが加速
■本格的になったデジタルコンバージェンスへの動き
さらに今世紀になって、これまで世界IT市場拡大を牽引してきたパソコンやサーバーのサチュレーションが顕著になると、これらに代わってハイテク市場の牽引車がデジタルTV、デジタルカメラ、カメラ付き携帯電話などデジタル家電、デジタル携帯端末に移る動向が明らかになった。
さらに通信環境でブロードバンドが普及すると、これら多様なデジタル機器とブロードバンドが牽引するユビキタスコンピューティングが次世代ハイテクの主力市場になるという認識が世界的に定着した(Figure19)。

IBM、東芝、ソニー共同開発のチップ「Cell(セル)」、あるいはAMDの64ビット「Athlon64」などはいずれもデジタルAVも狙う。また松下電器産業、ソニーなどが共同でAV向けLinuxを開発するフォーラムを設立したことは、AVが完全なコンピュータに転身したことを示した。マイクロソフトはトロン開発団体に加盟し、ウィンドウズとトロンの統合を狙う。これはマイクロソフトといえども、OS利用領域が拡大したことで1社では主導権を取れないことを認識したと理解できる現象だ。
さらにデルはパソコンのカテゴリーキラーとして出発し、その守備範囲をサーバー、通信機器、PDA(携帯情報端末)、プリンタと広げ、そして遂にデジタルテレビ、モバイル音楽再生機というAVの本命まで領域を広げた。
ソロモン・スミス・バーニー証券は次のように分析する。「マイクロソフトのトロン連合との提携、デルのデジタルテレビ市場への参入は、これらはともにIT市場での独走的勝者であるので、IT市場の成熟を物語ると同時に、ハイテク業界におけるデジタルコンバージェンス現象が加速されていることの証だ。これからの主戦場はユビキタス市場である」
■有力ベンダーが、デジタルコンバージェンスを活発化

IT、AV業界もユビキタスに向けてデジタルコンバージェンスを加速する。ハイテクではまずIT、AV、モバイル機器の技術からコンバージェンスが始まり、この技術的目途が立つと、ベンダーの相互乗り入れによる業界構造のコンバージェンス、そしてAVとコンピュータの融合した各種の商品コンバージェンス現象が加速している(Figure22)。

一方、エンタープライズITの雄、IBMもユビキタスを睨んで早くからこれを「パーベイシブコンピューティング」という独自の表現で動きを強めていた。IBMのサム・パルミザーノ会長は次のように語る。「当社がテレビやオーディオ市場にエンドユーザー商品をもって参入することはない。IBMブランドではソニーやパナソニックに勝ち目はないからだ。しかしIBMは半導体や基幹ソフトでパーベイシブ時代の裏方の技術の主役になる」

米商務省は狭義のITに通信、AV機器を加えた広義の世界ハイテク製品生産額をその白書「デジタルエコノミー」で発表している(Figure23)。
これによると、日本のシェア17.1%は米国に次ぐ第2位で、欧州の先進3か国ドイツ、イギリス、フランスの合計16.8%より大きい。とくに国内業界はITおよびAVの両分野で多くの世界的大企業を擁する唯一の国であることが大きな特徴だ。米国にはAVの大企業は皆無で欧州にはIT国内資本企業がない。
米商務省は米IT業界に次のような警告を発している。「これまでのITでは、米国がすべての標準を発信してきた。しかし、デジタルコンバージェンスが起きたハイテク市場では米国の優位性は一気に崩れる公算が高い。代わって日本、欧州が標準仕様発信の基地になる」

それはシングルカテゴリーが市場拡大を牽引する時代から、多様な機器、ソフト、サービスが入り乱れて新しいユビキタスを先導するからだ。ここでは米国IT企業に代わって多くの国内AVベンダー、あるいは国内ベンダー連合が世界をリードする時代到来も夢物語ではなくなる公算も高い。
- 1