コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第49回 福岡県(下)
2003/10/27 20:29
週刊BCN 2003年10月27日vol.1012掲載
ITの「利活用」に舵を切る段階へ 北九州市は独自路線、福岡市は業務最適化を先行
■電子自治体の共同利用を本格検討へ福岡県のIT政策は、麻生渡知事提唱の「ふくおかIT戦略」が策定された2002年6月以降、急速に進展した。加えて、00年から順次整備が進む「ふくおかギガビットハイウェイ」構想により、情報基盤の構築はほぼ終えたといえる。
市町村の行政サービスは、同構想を受け、庁内の情報化や医療福祉サービスなど「利便性が格段に上がった」(溝江言彦・福岡県企画振興部高度情報政策課情報企画監)。市町村の電子自治体化政策で残す課題は、情報システム再構築に伴う財政、技術、人材各面の障壁を解決することにある。
福岡県は02年度、これらの課題に向けた対策として電子自治体システムの「市町村共同利用センター」を設置。昨年には、同センターの運営方針を検討する県内66市町村(今年10月末現在)加入の「ふくおか共同運営協議会」(任意協議会)を立ち上げた。05年度までに、LGWAN(総合行政ネットワーク)のインターネットデータセンター(IDC)共同利用や、電子申請などの汎用受付システムといったアプリケーションをASP方式で共同利用・開発・調達する計画だ。
この施策を軌道に乗せることで、「自主財源で役所などのIT化が困難な市町村が抱える悩みの多くは解決できそうだ」(溝江企画監)という。
同様の共同利用は、北九州市など福岡県北東部地域でも、福岡県の同協議会とは別に独自の自治体間連携として計画が進む。同地域の行橋市や豊前市など17市町村は今年2月、「北九州地区電子自治体推進協議会」を設立。8月には共同利用に賛同した日本テレコムが母体となり、サーバーやストレージを有するIDC「北九州e-PORTセンター」を稼動させ、10月には希望する自治体がLGWANやインターネット接続の利用を開始している。
北九州市の梅本和秀・総務市民局情報政策室情報政策課長は、「財政力に乏しい自治体は今後、IT資源の共同利用により、ホストコンピュータなど基幹系システム以外、業務系のソフトウェアなどは自前で持たずASPなどで賄う時代になる」と予測する。同推進協議会では近く、複数の自治体で文書管理や電子入札など、共同利用可能な行政アプリケーションに関する検討を開始する予定だ。
■県が商取引サイト「電脳商社」を開設
その北九州市では、3か年の「北九州市IT推進アクションプラン」が今年度で完了する。今年度中には、財務会計や出退勤、庁内イントラネットなど「庁内の『ホワイトカラー』に関する基幹システムや住民への情報発信システムの整備がほぼ終了する」(神野洋一・北九州市総務市民局情報政策室情報政策課主査)という。来年度は、新3か年計画を策定。文書管理などの本格稼動を来年度中の計画として盛り込む。
北九州市の庁内情報システムや住民サービスなどの情報化戦略が、ここ2、3年で急速に実を結んでいる理由は、00年に市長直属の庁内組織として設置された「高度情報化調整会議」の存在が大きい。助役や知事部局の財政、人事、情報に関わる代表者による同会議では、情報政策室などが打ち出すIT施策のROI(投資対効果)を短期間で分析、導入の可否を決定する。「システム化の決定プロセスが明確化し、迅速な対策を取ることが可能になった」(梅本課長)という。
北九州市役所のメインフレームやシステム運営・管理は現在、日立製作所に委託している。だが、「今年度中に旧システムをウェブシステムに移行する。許容量を超えつつあるメインフレームは、再構築の時期にあるが、大手ベンダーの一括導入による再構築はしない場合もある」(梅本課長)と、福岡県の「大手ITベンダー依存からの脱却」方針を市レベルでも具現化し、福岡県内の地場IT企業に委ねていくことを示唆する。
福岡県と北九州市に比べ、「電子自治体の構築スケジュールが1年ほど遅れている」(小林保彦・福岡市総務企画局情報化推進室情報企画課主査)というのは、県都・福岡市。02-04年度の3か年計画「福岡市情報化プラン」により、庁内1人1台のパソコン配備や公共施設の予約システムの導入は、県内他市町村をリードした。
しかし、財政事情から、文書管理や電子決裁システムなど一部の本格稼動が05年度以降にずれ込む。「庁内では、『決裁や投票は人海戦術の方が効率的で安い』という認識がある」(荒牧正豪・情報化推進室情報システム課管理係長)と、システム論議の前にITの投資対効果や電子自治体の目標を達成するための業務内容の最適化を図ること、言い換えればBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)が優先課題になっているという。
福岡市は同プランが完了する04年度までは、富士通のメインフレームを継続利用するが、「軽いサーバーを何本か立てれば、同様のスペックが確保でき、コスト削減もできる」という声も庁内幹部から出始めているようだ。
一方、電子自治体の共同利用や「大手ITベンダー依存から脱却」のスキーム、情報基盤など一連のIT化が一段落した福岡県では、地場IT産業を含めた県内中小企業のIT化推進を県レベルで支援するなど、ITの「利活用」施策を講じ始めた。
その1つが福岡県の外郭団体「福岡県中小企業振興センター」が運営する電子商取引サイト「電脳商社」の開設。中小企業IT化の“呼び水”としてホームページ作成を無料で提供し、同サイトに掲載する。
同サイトには現在、1万4500社が登録、月間アクセスは298万件に及ぶ。「発注側・受注側の出会いの場を提供し、販路拡大に貢献している」(溝江企画監)。さらに、これら企業のデータベースをアジア地域に発信するため、経済産業省と県が運営の国際電子商取引市場「Nextr@de(ネクストレード)」に載せ、昨年6月から実際に商取引が始まっている。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
麻生情報システム
■医療・学校・製造業で経営安定を総務省の「ITビジネスモデル地区」に指定された県中央部の飯塚市など、筑豊地区の自治体に強みを持つNEC系の麻生情報システムは、市町村合併の影響で自治体ビジネスが転換期にある。飯塚市など2市8町の合併協議会はこのほど、富士通や日立製作所など市町により異なる基幹系システムをNECに一本化することを決定。自治体の電算化にノウハウを持つ同社は、データ移行を担当する。合併後は、「毎年のシステムメンテナンスなど運用を一手に預かりたい」(中村信行・社会公共事業部部長)と意欲的だ。
だが、大手ITベンダーの一括導入では、「市町村合併でどう転ぶか分からない」(同)そうだ。現段階の見通しでは、「収支はややプラス」(江藤泰之・AIS戦略研究所次長)だが、今後、自治体ビジネスは縮小傾向にあると分析している。
同社は、従来からのフィールドである製造業や医療、学校では順調に業績を伸ばし始めている。特にグループ内に病院を抱えるため、医療で「健康管理システム」などオリジナルソフトウェアも多く、「地域を問わず、医療システムを外販する」(中村部長)方針だ。
筑豊地区は65歳以上の高齢者率が高いため、「自治体の医療・福祉システム分野で、当社の特色を生かせる。システム構築を通じ社会貢献したい」(同)と、得意分野で安定的な経営体質を作る考えだ。
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