OVER VIEW
<OVER VIEW>緩やかな回復基調にある米国IT市場 Chapter3
2003/10/20 16:18
週刊BCN 2003年10月20日vol.1011掲載
米国中堅・小企業(SMB)がLinuxの大市場へ
■既に米中堅企業基幹業でLinux採用は20%近くに03年に入ると、IBMは1-6月前半期のSMB向け売上高が前年同期比17%増となり、IBM全売上高の23%の構成比になったと発表した。これまでエンタープライズを重点的にマーケティングを行ってきたIBMすらも、売上高の4分の1近くがSMB向けになったことで、SMBがITの大市場であることをあらためて印象づけた。
このなかでIBMはLinux版「ウェブスフィア Express」など廉価版ミドルウェアとSAP、シーベルなどのアプリケーションの統合ソリューションが大きく販売高を伸ばしていると説明した。このSMB向けLinux販売状況を見て、8月にサンフランシスコで開催されたLinuxワールドエキスポで、IBM、ヒューレット・パッカード(HP)、デル、レッドハット、SuSE(スーゼ)など世界の有力Linuxベンダーは一斉に、SMB向けLinux拡販プログラムを発表した。
これでLinux販売の主力がこれまでの大企業基幹業務から、SMBの基幹業務も一挙に包含するようになった。米メタグループも、IT市場におけるSMBの占める割合が大きいことを発表した(Figure13)。
03年世界SMBのIT投資は3000億ドルとなり、全投資8520億ドルに占める割合は35%に達する。とくに世界BtoBのeビジネスに占めるSMBの割合は41%に達し、05年には57%に達する。これだけSMBでも本格的eビジネスソリューションの需要が高くなっている。
IDCは03年8月、米国で出荷される全サーバーの30%はLinuxサーバーで、その主体はインテルベースであるので、きわめて多くのLinuxサーバーがSMBに向けられていると説明する。一方ガートナーは03年6月、米国中堅企業の17%はLinuxを基幹業務に採用済みで、これに28%がこのための社内トライアルを実施中であると発表した(Figure14)。
この結果、05年末に米国中堅企業の35%が基幹業務でのLinuxユーザーになるとの予測を発表した。
■SMBへLinux普及の条件整う
フォレスターリサーチはこれまでのLinux普及の経過を整理している(Figure15)。
90年代後半、Linuxが台頭すると同時にまずSMBのウェブサーバー、メールサーバー、ファイアウォールなどフロントエッジから普及が始まった。同時にオラクル、レッドハット、SuSEなどはエンタープライズLinuxや関連ミドルウェア開発を急ぎ、Linux主力市場は、UNIXからの大量移行や、UNIXサーバーのサーバーコンソリデーション(サーバー統合)需要もあって、一挙に大企業に普及し始めた。
そして、03年からこれらLinuxベンダーは大企業とあわせてSMBもLinux大市場として狙い始めた。Linuxカーネル開発者のリーナス・トーバルズ氏は次のように語る。
「通常新しいITインフラを構成するプラットフォーム普及には早くて7-8年、一般には10年以上を要する。これに対しLinuxはわずか3年で基幹業務プラットフォームとしての1つの有力選択肢の地位を獲得した。それはLinuxが堅牢なOSであることを多くのユーザー実例が示したからだ。この結果有力ソフトベンダーも一斉にLinuxに注力し、売り手も買い手もLinux採用へ一挙に動いた」
フォレターは、米SMBにLinuxが普及するためユーザー側にウィンドウズオルタナティブ(代替)の要求、新しいITソリューション需要の顕在化と、市場環境整備の3条件が揃ったと説明する(Figure16)。
ウィンドウズオルタナティブとしては、OSライセンス料の低減、安定OSへの要望、NTサポート停止による次の選択が迫られていることをあげる。またSMBでもTCO削減からサーバーコンソリデーションがLinuxベースで積極的に行われている。そしてSMBにとって影響の大きい大企業での実績もSMBの反応を加速する。
■SMB対象パートナーへ思い切ったLinux拡販策を
Linuxワールドでは、IBMをはじめ、マイクロソフトとの絆を太くしているHP、デルも一斉にLinux拡販プログラムを発表した。いずれもLinuxソリューション販売の仕切り率の大幅優遇が目玉だ(Figure17)。
IBMはその仕切り値引き率をこれまでの30%から倍の60%にすることで、システムインテグレータ経営者の注目を集めた。同時にIBMはこれまでの自社パートナーだけでなく、マイクロソフトのビジネスソリューションパートナーと、自社所有UNIXソースコードを無断でLinuxに転用したとしてIBMを訴えたSCOのUnixWareパートナーもLinux陣営に加わることを積極的に勧誘し始めた。とくにウォールストリートのアナリストたちは、マイクロソフト盟友のHP、デルがSMB向けLinux拡販に注力していることに関心を寄せる。
HPのLinuxビジネス担当マイク・バルマ氏は、「旧コンパックコンピュータのウィンドウズサーバー・ユーザーからLinux要求が強まっている。マイクロソフトとの提携は、ユーザーの要求するマイクロソフト以外のソリューション提供を拒むものではない」と語る。
またデルは、「SMB向け中核サーバーをシンサーバーにすることで、この市場の主力OSはLinuxになる」と次のように説明する。
「SMB向けではイニシャル投資が少額であることが条件となる。通常のスケーラビリティの大きいサーバーでは初期投資が高額になる。それに対し、簡単にラック内に増設できるシンサーバーは初期投資が小さい。従ってこれからのSMB向けソリューションで初期投資の大きいスケールアップ方式よりも、小さいスケールアウト方式が適合する。この方式ではサーバー台数が膨みOSライセンス料が高くなるが、これはLinux搭載で解決される」
ガートナーのミカ・クラマ副社長は、「SMBへLinux普及で見逃せないのは、エンタープライズLinux導入経験のあるシステム技術者がSMB対象の中小SIerに多数移って、SMBサポート体制が整ったことだ。基幹業務でウィンドウズを使っているSMBは、大企業より安定したOSを要望しているという理由からLinuxの大市場になる」と強調する(Figure18)。
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