OVER VIEW

<OVER VIEW>緩やかな回復基調にある米国IT市場 Chapter2

2003/10/13 16:18

週刊BCN 2003年10月13日vol.1010掲載

 長びく世界のIT不況には若干の回復も感じられるが、全体的に市場は相変らず厳しい。この環境にあって、IBM直近の決算は2ケタ増という売上高の大きな伸びを示し、世界のエンタープライズ市場でIBMの独り勝ちの様相が強まっている。この高い伸長は従来型ITの需要回復では説明できない。IBMが提唱した市場環境に敏捷に対応して変化する経営を支える「オンデマンドコンピューティング」が世界市場に新しいIT需要を生み出しつつあることを、IBM決算は示しているといえよう。(中野英嗣)

IBM直近決算に見られるITの新しい需要

■IT不況下、売上高が大きく伸びるIBM

photo 2000年中盤からの世界的IT不況に、ITの巨人IBMも少なからず影響を受けていた。その売上高も01年から前年度比2-3%の減少だった。しかし、02年度決算発表で、同社のサム・パルミザーノ会長は03年度からIBMが大きく成長することを株主に約束した。

 このコミット通り03年に入ると、IBMは売上高、利益ともに大きく伸び始めた。03年1-6月決算の売上高前年同期比はこれまでの減収から脱し10.7%という大きな伸びを示し、当期間の純利益も前年同期比2.5倍、30億8900万ドルとなった(Figure7)。

 この決算発表で、パルミザーノ会長は次のように自社躍進の理由を語った。

photo 「厳しい世界IT市場の環境は変わっていない。しかし当社は、新しい事業展開でシェアを急速に拡大し、競合他社に比べて有利な地位を獲得しつつある。とくに当社が提唱した『オンデマンド経営とこれを支えるオンデマンドコンピューティング』が多くのユーザーに受け入れられつつある実態を当決算が明確に示したことに、自分は自信を深めた。さらに、当社が重点市場とした世界のSMB(中堅・小企業)市場での当社売上高が17%と高い伸びを示した。オンデマンド市場とSMB市場が当面IBMの売り上げ拡大を支える」

 03年1-6月期のIBMセグメント別決算はこれから伸びる市場を明確に示している(Figure8)。

 前年同期比の売上高では、グローバルサービスが23.2%というきわめて高い伸びを示し、これまで年々売上高が減っていたサーバー、ストレージ、ネットワーク機器のエンタープライズシステムも前年同期比8.3%という堅調な伸びを見せる。また、メインフレームやUNIXなど自社独自OSとeビジネスソリューションの中核ミドルウェアも7.1%の増加だ。

 一方のパソコンは、幅は小さくなったものの相変らずの減少であり、半導体やOEM主体のテクノロジーは30%近い大きな減少を示している(Figure8)。

 IBMセグメントで売上高を伸ばしたのは、いずれも売上高規模が大きく、減っているパソコン、テクノロジーは売上額が小さいので、全体として2ケタ成長をIBMは実現した。

photo 一方、IBMとエンタープライズシステム世界市場で覇を競うヒューレット・パッカード(HP)、サン・マイクロシステムズはこの分野で当期間相変らず売上高が減少しているので、これまでの主力の従来型サーバーやストレージの重要が回復したとは考えにくく、新しい需要がIBMを支えていると考えるべきだろう。

■IBM事業の両輪、サービスとソフトウェア

 03年1-6月期決算の売上高と税引前利益のセグメント別構成を分析すると、IBMビジネスを支えるのはITサービスのグローバルサービスおよびWebSphere、DB2、Lotusなどのミドルウェア中心のソフトウェアであることが明白になる(Figure9)。

 売上構成ではサービスがちょうど半分の50%、これに15.9%のソフトウェアが続く。エンタープライズ関連は14.1%、パソコン12.3%、テクノロジー3.4%だ。この結果、サービスとソフトウェアのノンハードが全売上高の65.9%を占め、ハードは30%弱となった。パルミザーノ会長の前任者、ルイス・ガースナー時代にIBMは、それまでのハードウェアのフルラインアップ主体のベンダーから脱し、サービス主体へ転換し、再び世界ITの雄に復活した。パルミザーノ会長はガースナー路線を引き継ぎ、その脱ハード戦略をさらに強化している。

photo 利益面で見るとこの傾向はさらに強く、構成比でサービスは48.4%、ソフトウェアは33.5%で、ノンハードでは81.9%と、ハード全体の8.8%を大きく凌駕する。ハードの利益貢献度がきわめて小さいのは、パソコン、テクノロジーの両ビジネスが赤字であることによる。こうしてIBMセグメント情報では売上高でサービスが大きな貢献をし、利益面では売上高の小さいソフトが、全利益の3分の1を稼いでいる実態が明確になる。IBMビジネスではITサービス、ソフトが両輪の役を果たしているのだ。

■オンデマンドITが、新しい需要を創出

 IBMビジネスの牽引車、サービスでの構成はアウトソーシング、コンサルティング、システムインテグレーション(SI)がそれぞれ40、30、30%というバランスを保っている。さらにその伸びはコンサルティングがプライスウォーターハウスクーパースコンサルティングを買収したことで66%ときわめて高い伸びを示した(Figure10)。

 また、IBMは03年1-6月決算の投資家向け資料で、売上伸長を支えたサービス、商品を具体的に説明しており、これによってこれから需要が伸びる新しいITを示唆している(Figure11)。

photo サービスでは、経営をeビジネスあるいはオンデマンド型へ転換するコンサルティングと、ネットワークを介してユーザーのデータセンター運営全体を委託するeソーシングも大きな伸びを示す。このeソーシングユーザーはいずれ、電力、ガスのように従量制課金でサービスされるユーティリティコンピューティング利用へ移行するとIBMは説明する。

 ハードではデータ処理量の増減に合わせ従量課金でプロセッサを増減できる「on-offキャパシティオンデマンド型サーバー」、そしてコンピュータの自己管理機能を搭載した「オートノミックUNIXサーバー/メインフレーム」も需要が顕在化している。また50年間の無故障を誇示する超大型メインフレームや、仮想化技術強化のストレージも大きな伸びを示す。さらにミドルウェアではeビジネスおよびLinuxシステム向けが大きく伸びた。また、低価格のミドルウェア「Express版」とSAPなどアプリケーションの統合ソリューションがSMB市場の17%という大きな伸びを牽引している。

photo こうしてIBMの2ケタ成長を牽引する新しいITは、IBMの提唱した「オンデマンド戦略」と密接に関連するサービスと商品である(Figure12)。

 IBMの考える新しい売上増伸の基本は「コンサルティングとITサービス」の一体化であり、これを競合力の強いエンタープライズシステムが支える。
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