コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第47回 長野県
2003/10/13 20:29
週刊BCN 2003年10月13日vol.1010掲載
広がるブロードバンド利用可能地域 行政ネットワークの拡充に課題
■軽井沢に“SOBO”を誘致山に囲まれた広大な県土を持つ長野県。過疎地も多いが、意外にもADSLやCATVなど、ブロードバンドネットワークのインフラ整備では他県を圧倒している。今年9月1日の段階では県内118市町村のうち、まったくブロードバンドネットワーク接続の手段がない町村は21か所。それが今年度末までには7か所に減る。それ以外の111市町村では光ファイバーやCATV、ADSLなどでサービスを受けることができる。
ブロードバンドネットワークが発達したのは、「JA長野が運営するプロバイダーのJANISや、システムインテグレータの電算が運営するプロバイダーのavisが競ってインターネットの環境整備を進めてきた」(伊東和徳・長野県企画局情報政策課情報化推進チーム地域情報化グループ企画員)ため。サービス提供地域ではIP電話サービスも開始している。
地域のインターネットサービス環境は充実してきた。課題はそれをどう利用していくかだ。長野県は、2001年12月に「地域情報通信ネットワーク会議」を設け、昨年10月に現状と課題をまとめた報告書を作成。これに基づき、長野県としての情報化施策を進めるために信州大学工学部の不破泰助教授ら3人の総括ディレクターを置き、(1)ユーザーの需要喚起、(2)地域間格差の解消、(3)バックボーンの整備・運営――の3分野で具体的な取り組みを今年度からスタートさせた。
その中の1つ、ユーザーの需要喚起のために行っているのはブロードバンド活用モデル事業で、軽井沢町、栄村、飯田市の3か所が対象地域。軽井沢町では、「リゾート地へのSOHO、SOBOを誘致するために、別荘地でFTTHを設置し、駅やレストランなどにホットスポットを設ける」(伊東氏)実験を行っている。
SOBOのBは「別荘」の頭文字を表す。東京から長野新幹線で約1時間という近さをアピールして、ベンチャーを誘致するのが目的。また、新潟県との県境に位置し豪雪地帯で有名な栄村では、健康管理やオンラインショッピングなど高齢者の日常生活を支援する事業を、飯田市では製造業復活のために大学との連携による開発支援や、企業連携による協同受注や協同生産をブロードバンド活用によって支援していくプロジェクトだ。これら3か所合計の今年度予算額は約2100万円で全額を県で負担する。
民間のインターネットインフラが整備されて行く中で、課題となっているのは行政専用のネットワークの貧弱さ。長野県が県内10か所の合同庁舎と結んでいるネットワークは、毎秒1.5メガビットの無線ネットワーク。「誰かが膨大な画像データを送り始めたら、それで一杯になってしまう」(伊東氏)。大量のデータ送信などには容量が足りず、迅速な情報伝達のネックになっている。
その一方で、10か所を結んだテレビ会議システムには専用回線を使用している。田中康夫知事が、県央の塩尻市にサブオフィスを設けたこともあり、記者会見にもこのシステムを活用している。ただ、ネットワーク会社と県との契約がテレビ会議システムでの利用となっているために、分割して他の情報伝達に活用できないのが欠点ではある。
■県は電子入札システムを独自開発
長野県でも総務省の方針に従って、システムの共通化や共同運営の検討がスタートした。「長野県の場合、県内に10か所の広域連合をベースにした共同意識がある。そのため、県全体での共同化という点でも積極的」(坂口秀嗣・長野県企画局情報政策課情報化推進チーム電子自治体グループ企画員)なのだという。
今年3月に発足した共同化を検討する組織、「長野県電子自治体協議会」には、その10か所の広域連合を含め130の自治体、団体が参加している。まずはLGWAN(総合行政ネットワーク)の共同受注を図り、各自治体の負担を減らすことを目論んだ。
同協議会の幹事会会長は、長野市の駒津善忠・情報政策課長が務める。協議会でLGWANの共同発注を図り富士通が落札したが、長野市はこの共同発注には参加しなかった。駒津課長によれば、「もともと長野市の基幹系システムのベンダーは富士通。もしLGWANだけ他のベンダーが受注した場合、今後の電子自治体構築まで影響が出かねない」という判断が働いたからだという。
結果的に共同発注に参加したのは6割程度の自治体だった。ちなみに電子自治体協議会の会合は、松本市で開かれている。県庁所在地の長野市ではない理由は、「松本市が長野の中心に位置しているから」(同)。県北部の長野市では、県内市町村の担当者が集まりにくいのだそうだ。
その長野市は、財務会計システムのダウンサイジングを計画している。予算と決算、過年度会計があるため複数年度にわたるプロジェクトになるが、まずは今年度中に基幹系システムから情報系システムへの移行をスタートする予定になっている。
財務会計を情報系システムに移行することで、今後、「税や住民記録なども検討の対象にしていく」という方針を固めている。ただ、財政の厳しい状況はさらに深刻の度合いを増しており、「情報化は必ずしも最優先の項目ではない。来年度予算についてはさらに圧縮が求められている」(駒津課長)と、電子自治体化を阻むことにもなりかねない。
長野県は、98年の冬季オリンピック・バブルが弾けて長く経済の停滞期にある。長野市内の目抜き通りには、シャッターを下ろしたままの百貨店もある。「企業は建設業を中心に非常に厳しい。IT投資もままならず情報化が進んでいるとはいえない」(齊藤裕人・NEC長野支店長)状況だ。
住基ネットの是非とともに、田中・長野県知事は県が発注する公共工事の談合問題にもメスを入れた。今後、電子県庁化の中で「電子入札システムについても独自開発する」(坂口氏)とし、国土交通省方式のCALS/ECは採用しない。「早ければ来年4月にも一部で導入する」(同)と、改革のニーズのある部分からIT化を図っている。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
電算
■.NETを機軸にシステム提案長野県のほとんどの自治体をユーザーに持つ地元システムインテグレータの電算。長野県ばかりではなく新潟県や山梨県といった隣接する県、沖縄県にもユーザーを持つ。
その電算がいま取り組んでいるのは、.NET戦略。「これまでオフコンユーザーの切り替えでC/S化を進めた。現在は、レガシーシステムから数えて4世代目のシステム提案として、.NET戦略を推し進めている」(黒坂則恭専務)。
「電子自治体化で自治体のシステム運営コストが拡大する。それを抑えるためにも.NETの活用が必要」(酒井敏夫・取締役自治体事業本部長)という考えだ。.NETを基軸にしながらも、顧客の要求に応えオープンソースへの対応にも備えている。
酒井取締役は、「信頼を得ることが自治体ビジネスでは特に重要」として、自治体の顧客に対しては長野市、松本市、新潟市などで定期的に自治体セミナーを開催。「常にホットな話題を提供している」という。
これら自治体の顧客に対しては、アウトソーシングの提案も開始した。長野市内に約30億円を投じてIDC(インターネットデータセンター)を設置しており、「セキュリティの問題でIDCを活用するケースもある。実質的に(アウトソーシング契約を)決定している案件もある」(黒坂専務)と、自治体情報システムのアウトソーシングも動き出す気配を見せている。
もちろん、長野県の市町村全体でのシステム共通化、共同利用についてもこれまでの実績を生かして、このIDCを活用して受注することを狙っている。
- 1