視点

メールが届かない

2003/09/22 16:41

週刊BCN 2003年09月22日vol.1007掲載

 うろ覚えだが、こんな童謡があった。「白ヤギさんからお手紙ついた。黒ヤギさんたら読まずに食べた。仕方ないからお手紙書いた。さっきの手紙のご用事なあに」。現代のお手紙、電子メールがこの童謡と同じ状態になりかけている。7月から8月にかけてDIONユーザーからAOL会員にあてたメールが配信不能になる事態が起きた。その前から、スパム対策が行き過ぎてメールが届かないという事態が米国やオーストラリアで相次ぎ、訴訟も起きている、という話は聞いていたが、やはり日本でも起きた。

 AOLはスパムが発生した場合、発信元のプロバイダーに対し、情報開示を求め、正当なサーバーを区別するためホワイトリストに登録する。リストに登録されていないサーバーからスパムと性格の似たメールが来た場合はスパムとみなし遮断する。ところがDIONは、守秘義務を理由に情報開示をせず、逆にスパム発信源のメールアドレス開示をAOL側に求めた。この行き違いがメール配信不能を長引かせる背景になった。ホワイトリスト方式はスパム対策として有効だが、正当なサーバーすべてを登録することは不可能だから、正しいメールが配信不能になる恐れがある。世界最大の会員を抱えるAOLはスパムの絶好の対象だから、会員の利益を守るには仕方がないにしても、こういう方式が広がると、正しいメールが配信不能になる可能性は高まる。しかもスパム対策で遮断されると配信不能になったかどうかも知らされない。

 米国AOLは会員からスパムメールをボタンひとつで報告してもらう機能をもったメールソフトを配布し、報告に基づいて個別にスパム指定する対策を進めている。自社の無料メールがスパム発信源になっていたMSNもさまざまな対策をとり始めたが、決め手はまだない。メールが届いたかどうか確認する手段に開封確認があるが、これからは相手に嫌がられても開封確認を求める必要があるかもしれない。80年代、米国は郵便事情が悪く、郵便が着いたかどうか分からないから、追っかけで確認の電話を入れる、という話をものの本で読んだことがある。電子メールがこの時代に逆戻りし、ヤギさんメールになったら、IT社会は根本から見直しが必要になる。
  • 1