OVER VIEW
<OVER VIEW>オンデマンドコンピューティングの幕開け Chapter4
2003/09/22 16:18
週刊BCN 2003年09月22日vol.1007掲載
移行には相当長期間を要するオンデマンド
■エンタープライズアーキテクチャを背景にもつオンデマンド環境や需要動向の変化に敏捷に対応できるオンデマンド経営モデルが、現代の経営に求められる1つの理想像であることに異論はない。しかし、これは簡単に実現できるモデルではなく、それに向うため経営の強い意思が要求される。さらにこのモデルを支えるのは新しいITシステムであり、新しい視点に立った積極的IT投資も要求される。
IT業界が一斉にオンデマンドコンピューティングを提唱するのと同時に、企業ITシステムを経営の視点から問い直す「エンタープライズアーキテクチャ(EA)」を米国に続いてわが国の大企業、中央官庁で採用する動きが活発化したことに注目すべきだ。
EAは企業各部門が一定のルールもなく、部門最適化システムを乱雑に導入し、類似のシステム乱立によって、全社的IT投資効果が著しく低下したことから注目された概念である。
「企業部門最適化システムの集合は、全社最適化ソリューションにならないこと」を多くの企業が経験した。このため部門最適化と全社最適化の目的を達成するために、「経営の視点からITを使いこなすための基準」を策定するEAが急速に注目されるようになった。EAは経営のあるべき姿を具現化したうえで、これを実現するITシステムを投資効率高く構築運営するクライテリア(基準)を創り出すのが狙いだ。オンデマンドの考え方も全く同じで、まず変化に敏捷に対応する経営モデルを実現するためにITシステムを追求する。
このように、オンデマンド概念の背景にはEAが強く影響していると考えるべきだろう。IBMはオンデマンド経営の実現を目指す企業は次のような条件が課せられると説明する(Figure19)。
●目指すビジネスモデルへの転換と、これに沿うようビジネスプロセスを変革する。
●このためのITインフラとしてはオープンスタンダードを全面的に受け入れる。
●市場競争で優位に立てる先端ITの採用
オンデマンド経営は即応性、柔軟性、集中化、回復力という4つの特徴をもつ。当然ユーザー企業がオンデマンド経営を目指す場合には、この4つのビジネス特性が発揮できるように、多くの課題解決が要求されることになる(Figure20)。
■オンデマンドソリューションの1つは、ユーティリティコンピューティング
オンデマンド経営を目指す企業は、まず数多くの現行ITのもたらす課題解決を迫られる。それと同時に、中・長期的に考えた場合、企業ITのあるべき将来的姿も模索しなければならない。
現在まで企業が利用するコンピューティングは、最初の集中処理から、クライアント/サーバーを主体とする分散コンピューティングへと変遷してきた。しかし、現在の分散コンピューティングについても多くの課題が顕在化してきた。現在IT業界では、集中、分散と変化してきた企業ITの次の姿がグリッドコンピューティングであることの認識が定着してきた(Figure21)。
グリッド(Grid)とは、元々電力の発電システムを指す言葉である。多くの発電所を擁する電力システムでは、ある配電所の需要電力が通常の配電能力で間に合わない場合、余剰電力をもつ発電所、配電所から電力を補給する。これをグリッド網と呼ぶ。
これと同じように、多くの分散設置されたIT資源をネットで連携し、コンピューティングパワーを相互に融通し合えるように仕組まれるコンピューティングネットワークがグリッドコンピューティングである。この場合、連携するIT資源が社内である場合にはイントラ-グリッド、パートナー企業の資源まで連携範囲が拡大されたネットワークはエキストラ-グリッドだ。そしてITサービスベンダーのIT資源まで連携が拡大されたのがインターグリッドだ。ITサービス事業者のデータセンターと接続され、処理パワー不足の問題が完全解決されたインターグリッド上で、ユーザーのIT利用量に応じた従量制料金で提供されるITサービスが、ユーティリティ(公共的)コンピューティングである。
世界の有力ベンダーは、ユーティリティコンピューティングが現行ITが惹起している多くの問題を解決すると同時に、変化に柔軟に対応できるオンデマンドコンピューティングを実現する1つの姿だと把え、一部の先進ユーザーからこの形式のコンピューティングサービスを受託し始めた。ユーティリティコンピューティングではスケーラビリティ確保、複雑性解消、回復力強化をユーザーも納得する従量制課金で実現する(Figure22)。
■オンデマンド実現には長期間を要する
企業は敏捷性・柔軟性・集中化・回復力をもつ経営を実現するため、オンデマンドコンピューティングを構築することになる。これは社内に所有するか、あるいはITサービス事業者の提供するeソーシング(ネットワークを介するアウトソーシング)を利用するかの選択肢をもつことになる。
IBMオンデマンド戦略担当、アービング・ダラウスキーバーガーGMは次のように語る。
「オンデマンド経営を支えるITは、eソーシングを利用するスタイルに統一されると考えるユーザーが多いが、これは誤解だ。レストランがビジネスとして誕生したからといって、すべての人がいつも外で食事をするようにならなかったことを考えてほしい。オンデマンドコンピューティングも、所有するITインフラを利用することでも実現できるし、eソーシング利用も1つの選択肢となる」
ユーザーがオンデマンド時代を迎えるには、IT業界自体もそれに対応できるようサービス、商品を一新する必要がある(Figure23)。
もちろんオンデマンド経営を提唱したIBMのサム・パルミザーノ会長は、「オンデマンド時代には、ユーザーのITに関する多くの問題は解決される」というビジョンを示す(Figure24)。
しかし、「IT業界が一斉に提唱したオンデマンドには未だ未解決の問題が多く、ユーザーがこれに向って準備を急ぐ必要はない」と、多くの米アナリストはアドバイスする。さらにアナリストは、「ITシステムが1ベンダーに囲い込まれてしまうこと」を懸念するユーザーも多くなると指摘する。
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