コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第43回 石川県

2003/09/15 20:29

週刊BCN 2003年09月15日vol.1006掲載

 合併の嵐が吹き荒れている。石川県内の合併協議会は10にも達し、41市町村が3分の2程度に減るといわれる。合併を見据えた基幹系システムの商談は盛んで、中小市町村を中心に、オープン化の手段としてウィンドウズサーバーを導入する自治体も多い。一方、2004年2月には県内市町村のすべてが総合行政ネットワーク(LGWAN)への接続を完了。来年度以降、電子申請など市町村共同で利用するシステムを立ち上げる。(安藤章司)

総合行政ネットワークの徹底活用を指導 市町村合併でメインフレーム離れが進む

■好評な「広域行政情報共有システム」

 来年2月、県内市町村すべてがLGWANへの接続が完了する。その後、電子申請など電子自治体の仕組みを順次導入する。だが、県ではその前に、LG WAN本来の活用を市町村職員に浸透させる必要があると強調する。そもそもLGWANは、国や県、市町村との情報伝達を電子化する基盤ネットワークとして機能するものだ。LGWANを敷設しても、本来の活用がされなければ、電子申請など、より高度な活用は望めない。

 石川県では、今年4月に「広域行政情報共有システム」を導入した。県内のシステムインテグレータ、三谷産業が開発したグループウェアをもとにシステムを開発。今年4月から、先行的にLGWANに接続している県内市町村と実証実験に入った。導入後、参加市町村にアンケートを実施したところ、次のような回答が返ってきた。

 「広域行政情報共有システム」を使った感想として、某市の市民課では「住民基本台帳月例報告業務で共有フォルダを使い、回答が迅速に実施できた」、障害福祉課では「転入、転出時の事務処理にメーリングリストを使い、業務を簡素化できた」、道路建設課では「石川県道路建設課の市町村道担当者との情報交換・共有に電子掲示板を使い、迅速で秘密性の高い情報のやり取りが可能になった」などだ。

 石川県の内藤秀幸・企画開発部情報政策課電子県庁推進室長は、「アンケートでは、おおむね“利便性が高まった”との回答が得られた。民間企業では当たり前のグループウェア機能だが、広域行政の世界ではこれまで浸透していなかった。まずはLGWAN本来の役割を市町村職員に実感してもらうことが先決だと考えている。電子申請など応用部分は、これら基礎の上に積み上げることが大切」として、一歩一歩段階を踏まえながら市町村の電子化を指導する姿勢を示している。

 今後、すでに導入が決まっている電子申請システムでは、県と市町村が共同でデータセンターを開設し、LGWANを使ったASP(アプリケーションサービスの期間貸し)方式で、電子申請システムを利用する。まだ業者選定は済んでないが、三谷産業や石川コンピュータ・センターなど有力システムインテグレータがデータセンターの受注競争に参加する見込みだ。

■共同利用のカギを握る金沢市

 県内最大の約45万人の人口を擁する金沢市が、電子申請などの共同利用に参加するかどうか不透明なのが、目下の課題となっている。石川県全体の人口は約117万人。金沢市は全体の4割近くを占める。金沢市が共同利用に参加しない場合、データセンターなど一連の設備投資を残り約6割の人口で負担しなければならず、負担金が増える。

 金沢市は早くからIT投資に取り組んできた。8月に発行を始めた住民基本台帳カード(ICカード)に通ずる仕組みも、すでに独自のシステムで稼働している。カードの名称は「金沢市市民カード」(磁気カード)で、96年に発行を開始した。このカードで住民票や印鑑証明、税証明などが受け取れる。市役所内で使う文書管理システムも今年4月に稼働している。

 金沢市の桶田光一・都市政策部情報政策課担当課長補佐は、「共同利用に参加するかどうか、今年度中にも結論を出す。金沢市民にどれだけメリットがあるのか、よく検討する必要がある」と説明。共同利用に参加しなければ、金沢市単独で同様のシステムを導入することになる。

 一方、金沢市や小松市などの一部市町村を除き、大半の市町村は合併を検討している。県内では、現在約10の合併協議会が発足しており、七尾市、能美市、かほく市など、すでに合併後の新しい市名が決まった自治体もある。これら市町村合併に関連する基幹系システムの再構築ビジネスが活発化している。

 1市3町が合併する新生・七尾市では、旧・七尾市で使っていたNEC製メインフレーム「ACOS(エーコス)シリーズ」を取りやめ、ウィンドウズをベースとしたIA(インテルアーキテクチャ)サーバーに切り替える。七尾市IT推進室では、「メインフレームの信頼性は代え難いものがあるが、オープン化の流れと再構築の費用を考え、今回の選択になった」と話す。

 NECの坂井俊夫・北陸支社長は、「政令指定都市や中核市規模でない比較的小規模な自治体には、ウィンドウズベースのIAサーバーを提案している。合併によるシステム統合や電子自治体への対応など、柔軟性と拡張性が求められているなかで、あえてメインフレームを使う必要はない」と語る。

 富士通でも今年1月、石川県庁で税務と給与システムをオープンシステムで受注した。それまでは、両システムともに日立製作所のメインフレームで稼働していたが、今回は、税務はUNIXで、給与はウィンドウズ2000で納入した。NEC、富士通ともに積極的なオープン化を進めている。

 富士通の西村正・北陸支社長は、「いまの焦点は、市町村合併や電子自治体に伴うIT投資。投資全体の構成比は、住基・税務が約4割、市町村内部で使う財務会計・人事給与などの情報システムが約3割、地域の通信インフラが約3割。仮に競合他社に住基・税務を押さえられたとしても、その他の領域で受注できれば総受注高で勝てる」と意気込む。

 石川県では、県庁や金沢市など主要自治体の中核部分は富士通陣営が押さえ、その他市町村の約7割をNEC陣営が押さえるという激しい競争が展開されている。


◆地場システム販社の自治体戦略

石川コンピュータ・センター、三谷産業

■合併ビジネスとオープン化を視野に

 石川県で公共分野に強いシステムインテグレータは、石川コンピュータ・センター(ICC)と三谷産業だ。

 NECとタッグを組み、県内約7割の市町村に基幹系システムを納入するICCは、ウィンドウズをベースとしたオープンシステムを提案する。1市3町が合併する新生・七尾市にも、ICCがウィンドウズを基盤とした基幹系システムを納入する。

 ICCの市野雅裕・専務取締役は、「ここ数年、自治体向けの各種アプリケーションソフトのプラットフォームをウィンドウズに一本化した。技術的、コスト的に競争力があるのが理由だ。一方で、ウィンドウズに代わるもう1つの切り口はアウトソーシング」と、ウィンドウズかアウトソーシングのいずれかで営業を強化する。今年3月、ICCは経営破綻した石川銀行の事務センター(総床面積約1600平方メートル)を約3億円で買収。このうち約500平方メートルをデータセンターに改修し、自治体向けのアウトソーシング需要を取り込む考え。

 富士通と組む三谷産業も、ICCへの対抗意識をあらわにする。同社では今年12月、床面積約550平方メートルのデータセンターを増設・稼働させる。すでに稼働している既存データセンターに比べ3倍近い面積となる。新しいデータセンターの建設にあたっては、土地・建物含め13億円を投じた。

 今年3月には、自治体向けの情報共有システム「パワーエッグ自治体版」を、子会社のディサークルを通じて開発。三谷産業の間嶋能正・執行役員情報システム事業部長は「独自の自治体向けアプリケーションや、データセンターを駆使したアウトソーシングなど、“攻め”の営業をかける」と意気盛んだ。
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