中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>34.日中韓共同構想の意義と課題

2003/09/08 20:43

週刊BCN 2003年09月08日vol.1005掲載

 前号で中国政府がLinux普及を強力に推し進めていると書いたところ、日中韓の3か国でLinuxをベースとした次世代OSの開発に取り組むとのニュースが飛び込んできた。現段階で発表されている内容は、「3か国が共同でオープンソース・ソフトウェア(OSS)の推進機関を立ち上げ、OSS開発に取り組む民間企業を支援していく」という大枠のレベルだ。(坂口正憲)

 そのため、3か国が“同床同夢”でアジア発のOSづくりを目指しているのか、それが民間の実ビジネスにどれほどの影響力を持つのかは不明である。しばらく成り行きを見守らないと、3か国の真剣度合は見えてこない。しかし、そこをあえて先走りして、「日中韓共同構想」の意義と課題について触れてみたい。まず、3か国の政府、民間企業がOSS開発に取り組み、GPL(General Public License=一般公有使用許諾)の精神で成果物をシェアすることができれば、それはそれで意義がある。優れたOSやアプリケーションの再利用が進めば、3か国内ではIT化がより活発になるだろう。

 理想論かもしれないが、共通の技術基盤があれば、3か国内では今以上にIT製品やサービスのやり取りが促進される面もあるのではないか。EU(欧州連合)は共通通貨によって経済の一体化を進めているが、3か国の場合は共通の技術基盤でIT産業の一体化を進めるのだ。どの国でも経済政策の上で、IT産業の振興が重要課題になっている。ウィンドウズ、欧米勢に席巻された自国のIT産業に危機感を抱くのも無理はない。政府が率先してOSSを推進することで、自国のIT産業に“独自技術”指向を呼び起こす。その考え方は十分に理解できる。

 ただ、日本は本当にOSSを推進することができるかという疑念がある。ここ数年来、Linuxは話題に事欠かないが、国内で実際にLinuxを理解する技術者は驚くほど少ない。中国では技術者の半数がLinuxでの開発経験があるのと対照的だ。政府がOSSを推進しても、民間企業がそれに対応できなければどうなるか。公共システム開発の実働部隊(下請け)は中国や韓国に移る。現にそれが起こり始めている。政府は自国の技術者育成にも力を入れるべきだ。
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