コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第42回 富山県
2003/09/08 20:29
週刊BCN 2003年09月08日vol.1005掲載
市町村合併の実施が先決、電子化のペースアップが課題
県は来年4月に電子申請サービスを開始
■富士通と県職員が連携してシステム開発富山県が2004年4月本稼動を目標に導入を進めているのが、主に電子申請システムとその基盤となる庁内の文書管理システム。両システムとも、すでにテスト稼働を始めており、県民ホール「県民共生センター」の利用予約と道路や橋など県政の現場をバスで見学する「県政バス教室」の予約申し込みの2つでテスト導入を行っている。
県の申請書類は全部で約4000種類。これらの電子化にも県民共生センターや県政バス教室の仕組みを応用する。富山県の坂本政嗣・経営企画部情報政策課電脳県庁推進班長は、「04年4月までに申請書類の大半を電子化する」と、膨大な作業に追われている。
このシステムを受注した富士通富山支店では、急ピッチで申請書類の電子化を進めている。だが、約4000種類もの申請書類と帳票類を富山支店だけで電子化していたのでは納期に間に合わない。そこで、富士通本社と連携して、「富山県用の帳票作成ツール」を開発した。今年10月から富山県の各課に配布し、帳票の電子化を富山県の職員の力も借りながら進めていく。
富士通富山支店の中村全支店長は、「この方式は昨年10月に富山県が発案し、これを富山支店で受け、富士通本社にソフトの開発を依頼した。簡単な帳票制作ツールだが、すべてベンダー任せでやるのではなく、職員総出で自分たちが使いやすいシステムを構築するという意思の表れ。他県ではあまり例がない」と話す。
県では、この電子申請の仕組みを市町村と共同で使う方針を固めている。県が富山県市町村会館管理組合にデータセンターの運用を委託し、このデータセンターを中心に、県内35市町村が県と同じ仕組みの電子申請システムを使うことになる。しかし、県と市町村とでは業務も書式もまったく異なるため、申請書類を別途作り直す必要がある。
県と県内35市町村は今年10月、総合行政ネットワーク(LGWAN)接続される。このインフラは県内約10社あるケーブルテレビ網を接続してつくりあげた地域高速ネットワーク網「とやまマルチネット」の一部を活用する。基幹回線の伝送速度が毎秒1ギガビットあり、光ファイバーを使った本格的なブロードバンド網だ。ただし、市町村に接続する支線は毎秒100メガビットの回線となる。
しかし、市町村の反応は複雑だ。32万人の人口を擁する富山市は、05年3月末までに周辺6町村と合併し、人口42万人の都市になる。
富山市は、これまで富士通のメインフレームを使っていたが、合併のタイミングを踏まえて、ウィンドウズやLinux、UNIXといったオープン系の基幹システムに移行する方針だ。
■合併問題と費用負担がIT化阻害の可能性も
富山市と周辺6市町村の住民基本台帳システムなどの基幹システムを統合し、なおかつオープンシステムに移行するための再構築・統合費用は、ざっと見積もっても40-50億円。
県は、04年4月から電子申請システムを稼働させるものの、合併を控えた富山市として、すぐに反応できない事情がある。
富山市の友坂義介・企画管理部情報統計課IT推進班長は、「1つは05年3月末までには合併するため、今、富山市単独では県の共同アウトソーシングに入れないことと、もう1つに費用負担の在り方が不透明である点」を問題として指摘する。
県主導の電子申請システムにおける市町村共同アウトソーシングシステムは、富山県のケースで、年間の維持費がおよそ3億円程度かかる見込み。
合併後の富山市(名称未定)の人口は約42万人。富山県の人口約112万人の38%近くを占める。仮に人口比率で負担率を決めたとすれば、新生富山市の年間費用は約1億円を超える。「1億円あれば、独自で同様のシステムを開発しても経費は大して変わらない」(関係者)というのが本音だ。
県内で最も早いペースで高度情報化を推し進める福光町も、04年11月には周辺7町村との合併で、人口6万人の新市「南砺市」となる。電子申請システムの共同アウトソーシングの導入に関してネックになるのは、やはり合併問題と費用負担の2点である。福光町の市川孝弘・企画情報課情報係長は、「他の市町村と歩調を合わせると、南砺市の情報化のスピードが落ちることも考えられる」と、合併がIT化を阻害する可能性を指摘する。
福光町を含む8町村は、合併後もそれぞれの庁舎を残し、南砺市の行政業務を分散させる。それぞれの庁舎を高速ネットワークで結び、市内どこに住んでいても、同じ行政サービスを受けられるようにするためだ。情報システムは8町村のうち7町村がインテックのオープンシステムを採用していたため、結果的にインテックが15億円で受注した。
富山県は、富士通がリードしているように見えるが、NECも負けてはいない。NEC富山支店の薙野純司支店長は、「インテックとの連携が基本戦略。市町村合併や電子申請システムだけがビジネスではない。市民生活に密着する防災ネットワークや医療、消防など、合併後の新体制ではさまざまなIT投資が考えられる。公共の医療機関や消防関連の案件は、市町村合併のビジネスに劣らない規模だ」と、周辺の各業務システムをターゲットにした戦略で事業拡大を狙う。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
インテック
■地元企業の強みを存分に発揮インテックは、富山県を中心に約50市町村に住民基本台帳・税システムなどの基幹システムを納入する。一部の業務システムの納入も含めると県内外で約100市町村に達する。県外では、宮城、愛知、石川の各県でシェアを拡大しつつある。自治体など公共ビジネスの構成比率は、インテックの売上高全体のうち約2割を占める。
同社は取引メーカーを固定しないマルチベンダー方式を採用しており、「市町村の意向を確認したうえで、最適なシステムを設計する。メーカーは問わない」(竹田勝・常務取締役行政システム事業本部長)のが基本方針だ。
当面の公共ビジネスの中心は、(1)市町村合併にともなう電算システムの統合、(2)市町村合併に不可欠な広域ブロードバンド網の構築、(3)電子自治体に関わるシステム構築および市町村共同利用型のASPサービス――など。
富山県では、ほぼすべての領域でインテックが関わっており、地元企業の強みを発揮している。
ただ、富山県は、全国的に見ても、市町村合併が進んでいる地域であり、商談相手となる自治体の数が、今後、大幅に減少する可能性がある。今のままで推移すれば、県内35市町村が半分以下の14市町村程度に減る見込みだ。
「合併後の新しいビジネスモデルの構築も急務」ともなっている。
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