OVER VIEW
<OVER VIEW>オンデマンドコンピューティングの幕開け Chapter1
2003/09/01 16:18
週刊BCN 2003年09月01日vol.1004掲載
IT弊害是正技術が次世代コンピューティング基盤へ
■垂直統合、水平分散に続く新しい業界構造の模索IT業界を振り返ると、業界構造が垂直統合から水平分散へと変化して約20年経過している。
垂直統合とは、1社のシステムベンダーがプロセッサ、OS、ミドルウェア、アプリケーション、そしてシステム開発などITサービスまでをすべて独占する業界構造である。
1960年代から80年までの約20年間は、世界のコンピュータはIBMメインフレームに席巻され、IBMの世界シェアは最盛期には70%を上回った。メインフレームはすべてIBMプロプライエタリ仕様で、IBMアーキテクチャが世界のコンピュータを支配した。この時代、IBMを追いかけるベンダーは限定され、多くのユーザーは「安心感」を買うためIBMブラントを選択した。しかし、独占は価格の高止まりを招き、コンピュータは大企業と中堅企業への普及にとどまった。この垂直統合を打破したのが80年代に出現したパソコンである。
パソコンはインテルのプロセッサとマイクロソフトのOSによって構成され、その他パソコンに必要なメモリなど半導体、データベースなどのミドルウェア、そしてアプリケーション専業のサードベンダーも多数誕生した。これらパソコン構成部品はいずれも市販されたため、多数のパソコンベンダーが輩出した。この業界構造は、1社のシステムベンダーがすべてのシステムスタック(システム構成要素)を独占するのではなく、スタックベンダーが横一列に並ぶため、水平分散型と呼ばれ、これが現在主流の構造となっている(Figure1)。
垂直統合時代のメインフレームは、集中処理という形態をもたらした。しかし、パソコンに続いて、このアーキテクチャを踏襲したパソコンサーバー(インテルサーバー)が登場すると、クライアント/サーバーが主要な処理形態となった。この2世代はいずれもIBM、インテル、マイクロソフトという特定ベンダーのアーキテクチャが市場を席巻した時代だった。
しかし、90年代後半からLinuxを代表とするオープンスタンダードが出現し、さらに現行ITの弊害も数多く指摘されるようになった。ビジネスプロセスとITインフラが統合されると、経営モデルの変化に柔軟に対応できるITシステムが求められるようになって、03年にはこれがオンデマンドコンピューティング概念として多くのベンダーから提唱された。
新しいコンピューティングはオープンスタンダード主導となって、これを基盤に各システムベンダーは新しい業界構造も模索し始めた(Figure2)。
■現行ITシステムの弊害が顕在化
90年代後半から普及したインターネットは、この上でビジネスプロセスを展開するeビジネスを開花させた。情報公開とブラウザによる簡便なアクセスを実現したeビジネスの第1フェーズは、ネット上で商取引を行う第2フェーズに突入し、現在世界の多くの企業はこの段階にある。
eビジネスの提唱者IBMは、第2フェーズをビジネスプロセスとITインフラ統合の「エンタープライズインテグレーション時代」と呼ぶ(Figure3)。
第2フェーズに続く第3フェーズでは、ネットを介して他企業のビジネスプロセスと連携するウェブサービスが主力アプリケーションとなる。このeビジネスを支える経営は、市場変化や需要動向変化に敏捷に対応することが要求される。
当然このビジネスを支えるITソリューションも変化に即応することが要求され、オンデマンド概念が提唱された。新しいオンデマンドコンピューティングを模索すると同時に、現行ITがもたらした数多くの弊害を是正することをユーザーが求め始めた。ユーザーが最も強く指摘するのは、システムの複雑性増大への対応である(Figure4)。
システムベンダーにとっては、インテルサーバーではOSがマイクロソフト一任であるため、ベンダーが顧客システムの完全な保全機能を喪失してしまったことへの反省もある。また、水平分散によってIT価格デフレが続き、安くなったITを企業が各部門システムとして全社的整合性を欠いて導入したことも、ユーザー側の反省材料となった(Figure4)。
この業界側、ユーザー側から指摘される弊害克服と、新しいオンデマンドの追求が入り混っているため、次世代ITシステムの動向がきわめて判断しにくくなっているといえるだろう。
■現行問題点是正が次世代ITの技術基盤へ
現行ITシステムに関するユーザーからの要求はきわめて多様化している(Figure5)。
00年後半からの世界的経済低迷によるIT予算削減によって、ユーザー側ではTCO削減やROI(投資対効果)が厳しく追求されている。
9.11テロによってITのディザスタリカバリやリジリアンシー強化も強く叫ばれるようになった。24時間連続運用のeビジネスソリューションのため、障害発生のない高度なアベイラビリティやトランザクション処理ピークにも対応できる性能限界排除を求める声も強くなった。このユーザー要請に応えるため、ITベンダーは新しい技術開発やITサービスの提供を活発化している(Figure6)。
新技術では管理コスト低減やTCO削減に効果があるバーチャリゼーション、コンソリデーション技術が誕生し、これを採用するユーザーも増えている。ITベンダーはシステムの複雑性を削減するため、自己管理機能をもつオートノミック技術、処理性能限界を排除するグリッドコンピューティング開発競争に突入している。また、トランザクション処理量に合わせてプロセッサ数を従量課金で増減できる「オンデマンド型サーバー」も出荷され始めた。さらに、ユーザーのアウトソーシング需要に対応するeソーシングやBPOサービスも提供されている。
企業モデルをオンデマンド型へ移行させるトランスフォーメーションコンサルティングとITサービスの一体化もベンダーは狙う。システムベンダーはユーザーが指摘する現行IT問題点を解決するバーチャリゼーションやオートノミック機能が、同時に次世代のオンデマンドコンピューティング具現化の重要な技術基盤になることに気付いたのである。
新しい技術追求の延長線上にオンデマンドコンピューティング構想が具現化する。
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