モデル事例にみる IT投資減税活用ガイド

<モデル事例にみる IT投資減税活用ガイド>第19回(最終回) 研究開発減税の積極利用

2003/08/25 16:18

週刊BCN 2003年08月25日vol.1003掲載

 4月から始まった2003年税制の目玉施策である「IT投資促進税制」と「研究開発減税」についての解説も、いよいよ最終回となった。(日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA)税務委員会委員長 税理士 根岸邦彦(監修))

 本連載で、新税制の解説を行ってきたが、まだ十分に理解されたとはいえない状況であろう。特に、ビジネスのテコ入れに、減税を使おうという動きが低調である感は否めない。これは、制度の理解が困難という印象が先行していることが大きな要因だ。

 研究開発費にしても、中小企業では、「当社は研究開発とは縁がない」という意識が強い。しかし、よく実情を調べていくと、「うちは研究開発していない」という意味ではないことが多い。下請けで製品を製造している企業において、通常の製品製造ではなく、「試作」を依頼されることはよくあるだろう。この際、試作に必要な原価を上回る価格で受注できれば問題ないが、親会社から「試作だから」、「予算がない」などで、受託先の原価を下回る価格で受注することも多い。

 この場合、自社で不足分を負担するわけだが、その負担分が税法の試験研究費に該当する場合がある。「製品の製造または技術の改良・考案、もしくは発明に関わる試験研究のために要する費用」が税額控除の対象となるのが、研究開発減税である。「試作品」が製品の製造や技術の改良に該当する内容であれば、対象となるのである。

 パッケージソフトウェア開発企業においても、製品以外のソフト開発を行っているケースは多い。たとえば、新規ハードウェア(プリンタ、ネットワークなど)との接続試験や、新しい規格(第3世代携帯電話、IPv6など)への対応のための開発、新規商品の可能性を検討するためのテスト目的のプロジェクト費用などがそれにあたる。

 では、このような「試作」や「テスト」があるのに、なぜ「試験研究をしていない」という意識になるのだろうか。それは、「試験研究費として計上していない」からにほかならない。これらの費用は、「試験研究費」と認識していなくても、「材料費」、「人件費」、「経費」として会計処理されており、問題なく税務上での「損金」として費用化されている。したがって、「減税対象とする」という必要がない限り、中小企業では「試験研究費」に計上する必要がないと判断されてしまうのである。

 では、「減税対象」とするためにはどのようにしたら良いであろうか。それは税法の基準に合う費用を「試験研究費」に振り替えることである。

 対象となる科目は広範囲にわたる。「試験研究を行うために要する原材料費、人件費(専門的知識をもって当該試験研究の業務に専ら従事する者に係わるものに限る)および経費」と、外注費のすべてに可能性がある。これを「案件」ごとに集計する必要がある。費用は、「勘定科目」ごとに日付順で整理されているので、1つの案件ごとに、これを集計する作業を科目ごとに整理して行う必要がある。

 最近の会計ソフトは、「部門」や「補助科目」、「摘要集計」といった、勘定科目と異なる単位での金額の集計機能を備えているのが普通である。これらの機能をうまく活用すれば、通常の財務会計の処理の中でも減税に必要な数字を引き出すことが可能である。

 これをスムーズに管理するには、まず案件ごとに「原価集計表」を適宜作成する。会計システムで集計した研究開発費を、科目ごとに合計して表を作成する。この合計額を、売上原価や一般管理費から一括して一般管理費の「試験研究費」に振り替える。それを期末に税務申告書に転記して、減税額の計算を行えばきちんとした税務処理となるのである。こまめに行えば、相当の金額が減税対象として拾えるかもしれない。

 このようにして、「流れ」をつくるとともに、社内に「研究開発をしている」という意識を高めていけば、これまで単純に費用にしていた支出を減税の対象にすることができる。また、この研究開発費の合計は決算書に表示されるので、企業として熱心に研究開発をしているというPRにもつながるだろう。中小企業でも工夫次第で、研究開発減税を有効に活用できるのである。
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