コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第40回 北海道(上)
2003/08/25 20:29
週刊BCN 2003年08月25日vol.1003掲載
産官学が共同で情報インフラ拡充へ IT産業の振興と道経済活性化をターゲットに
■情報化推進で役割担う「DOIT5」北海道庁の電子化を推進する体制として、知事が本部長を務める「IT戦略本部」があり、その中にIT企画専門委員で構成する「情報戦略タスクフォース」、個別の課題を調査するためのプロジェクトチームが存在する。ここまでは庁内の体制。さらに、北海道IT施策推進連絡会議=DOIT5(ドゥイット・ファイブ)会議と、産業界の団体や学界などによる北海道地域情報化推進会議がある。
「電子自治体実証プロジェクト協議会」は、大手ベンダーや地域のシステムインテグレータが参加し、道がすでに表明している自治体システムでのオープンソース利用に対応し、技術研究や道への提案を行う組織で、今年度までの3年間は道からの補助金と会員企業の会費で運営されている。
この中でユニークなのが「DOIT5」。「北海道経済産業局が提案してスタートした」(多田好克・北海道経済産業局産業部情報政策課課長補佐)というその組織は、北海道開発局と北海道運輸局、北海道総合通信局が参加し、道が事務局を務めている。発足の趣旨は、道内の情報化について意見交換や協力、共同施策の推進にある。
縦割り行政の弊害で、各省庁の連携が取れている地方は少ないが、北海道では協力体制が実現した。これも北海道開発庁の廃止など国の政策が変化し、また、北海道拓殖銀行の破綻など道経済の行き詰まり感も影響しているようだ。
市町村との連携では、2002年6月に北海道電子自治体推進会議を設置し、同年8月から電子会議室を運営してきた。この連携をベースに出てきたのが「北海道電子自治体プラットフォーム(HARP)」だ。
目下、多くの自治体で、電子化のためにシステムの共同利用や運用計画が固まりつつある。HARPでは、電子申請や施設予約、電子調達といった個別システムに対して、電子認証、電子決済、セキュリティなどを共通化しようとしている。これにより、道および各自治体が業務システムごとに基盤機能まで構築する手間とコストを省くというわけだ。
02年夏に地方自治情報センター(LASDEC)が実施した共同化の調査費補助にも、このHARPで手を挙げた。「総務省からも共同利用に対する方向性が示されており、北海道としてどのような共同化を図るべきか」(近藤晃司・北海道総合企画部IT推進室情報政策課情報企画グループ主査)という検討の結果、選択された独自のスタイルだ。
「これにより、道内の自治体の電子化コストも低減できる」(近藤主査)とメリットを強調するが、212もの自治体と共同歩調を取るのは困難だ。道内の地元システムインテグレータの担当者は、道内の自治体のIT化について、「突出して進んでいるところは少ない。札幌市をはじめとして市レベルでは電子化を急いでいるが、町村レベルはこれからの状態」という。HARP構想の中でも、全ての自治体が同じレベルで参加できるかどうかは未知数だ。
■「北海道ブロードバンド構想」で「無線」も検討
HARPは、道および利用する自治体が運営費用を負担する。費用負担の割合は、「従来の広域事務組合のように、人口比というのがなじみやすいし実績がある」(藤野一清・北海道総合企画部IT推進室情報政策課主幹)。共通プラットフォームの開発と運営にかかわる費用は、自治体数が多くても少なくても大きな差はない。もし、人口180万人、北海道の3分の1の人口を占める札幌市が利用しないということになれば、小さな自治体の費用負担は大きくなる。
「8月から各市町村に出向いて説明を始める」(近藤主査)としており、秋には開発準備会を立ち上げる予定だが、やはり212もの自治体を束ねるのは大変な作業になる。
実際、道の情報ネットワーク「赤れんがギガネット」は、道内14支庁を結んでいるが、各自治体まではそのネットワークでカバーされていない。つまり、地域の高速ネットワークの整備状況が遅れていることも、自治体の意欲を鈍らせる要因になりかねない。
そこで、道と北海道総通局は02年11月に「北海道ブロードバンド構想」をまとめた。広大な土地に住宅が点在する酪農地帯のような場所では、ADSL回線を引き込むことは通信事業者の負担が大き過ぎ、利用者も高速ネットワークの恩恵にあずかれない。
このため、全国で初めて無線アクセスシステム(FWA)を採用することも検討されている。05年度にはアクセス系のブロードバンド網を構築する予定だが、採算性など課題は多い。
道ではHARP導入のメリットの1つに、共通プラットフォームで基盤機能を提供することで、各モジュールにそうした機能が不要になり開発が容易になる点を挙げる。そうすることで、地元システムインテグレータが受注するチャンスが生まれるという。
実際、3000万円以下のプロジェクトについては、受注実績がないようなベンチャーでもコンソーシアム形式で参加できるようにする「IT産業チャレンジモデル推進事業」を02年度からスタートし、今年度はジョイントベンチャーによるシステム開発参加のルール化を図った。
「これまでのシステム開発は、どうしても大規模になりがちだった。共通プラットフォームの上に乗るシステムならば、開発コストも作業も少なくなるため、専門性を生かしてベンチャーでも受注できるようになる」(藤野主幹)というわけだ。北海道庁自身、基幹システムは地元1社に委託しているが、今後、オープンソース利用という方針もあり、道庁の業務電子化に合わせてベンチャーのコンソーシアムが受注するケースが出てくる可能性もある。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
北海道電子計算センター
■市町村合併にらんだ2面作戦富士通系の地元システムインテグレータ、北海道電子計算センターの顧客自治体のうち、基幹システムユーザーの約20自治体はオフィスコンピュータを活用している。伊丸岡毅志・公共営業部シニアマネージャーは、「北海道内では早くから、Net Wareの時代からC/Sシステムベースで独自開発、提案している」と、ウェブベースの業務システムのノウハウを蓄積していると自信を示す。
幸い北海道では市町村合併が進んでいないため、今、合併案件で混乱はないというが、「合併にともなう情報システム統合の準備はしておかなければならない」。「局地戦」と表現するその合併案件とともに、「合併には関係しない部分で業務システムを受注する『ゲリラ戦』も展開していく」と、自治体の電子化を睨んで事業拡大を図っている。
しかし、HARP構想もあるため、「フロントオフィス部分はどうなるか、状況を見極めていかなければならないものの急いではいない。それより、税や住民基本情報など、バックオフィスを重要視している」と、ニーズに迅速に対応することが重要という。
「北海道の自治体の情報システムは、委託より自己導入が多い。加えて、通信インフラの問題もあって自治体システムのIDC(インターネットデータセンター)利用は現実的ではない」とし、市町村単位での電子化プロジェクトは増えると見る。
そのため、市町村合併の「局地戦」と個々の自治体をターゲットにした「ゲリラ戦」の両面展開は欠かせないのだという。<
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