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<OVER VIEW>世界のIT業界、中堅・小企業開拓が最大の課題に Chapter1
2003/08/04 16:18
週刊BCN 2003年08月04日vol.1001掲載
ベンダーとチャネル間で強くなる不協和音
■中堅・小企業に焦点を当て、チャネル重視へ
IBM全社の売上高は、00年をピークに01年は前年度比2.9%減、02年も同2.3%減となって、世界市場の縮小を裏付ける。IBM部門別では、とくにパソコンと、半導体などのテクロジーが大きく減少している。サーバーやストレージなどエンタープライズシステムも減少が目立つ。しかし、ITサービスのグローバルサービスとソフトは2年連続でプラス成長となっている(Figure1)。

しかし、世界市場は04年になってもピーク時(00年)より3%も減少のままだ。このように世界市場の落ち込みは、とくにハード需要減と、ハード価格デフレという二重の打撃による。そして世界的に、この投資削減を率先したのは大企業であった。
一方、これまで大企業のようにIT投資を活発化できなかった世界の中堅・小企業(SMB)が、これからは大企業に代わってIT投資回復の牽引車になることを、世界有力ベンダーがこぞって認めている。
このため、03年に入ると、IBM、HP、マイクロソフトや富士通、NEC、日立製作所は一斉にSMB(スモール・ミッド・ビジネス=中堅・中小企業)市場開拓の戦略を発信し始めた。SMB開拓にはチャネルパートナーに全面依存しなければならず、世界有力ベンダーのSMB政策の中心はチャネル重視戦略だといえる。
■膨大な数の中堅・中小企業市場

一方、マイクロソフトは自社SMB戦略をグローバルに展開するため、SMBをパソコン導入台数、従業員、ソフト予算などの条件で5段階に細分化している(Figure4)。
この区分けで、マイクロソフトは中堅、小企業それぞれに中核(コア)企業を設定し、これら企業を主対象に市場開拓を推進する。
IBMによると、世界で大企業は3万社、そしてソフトの市場規模は110億ドルで、1社当たりのソフト予算は36万ドル(4400万円)だ。中堅企業数は全世界で40万社、ソフト市場は150億ドル、1社当り3万700ドル(450万円)である。小企業数は世界で1億社と膨大な数となる。ソフト市場は一番大きく220億ドルであるが、1社当たりは220ドル(2万6000円)と極端に小さくなる(Figure3)。

しかしベンダーのトップがチャネル重視を打ち出しても、直販部門との完全協業を実現するのは現実的にきわめて難しい。直販部門も独自販売予算をもっており、不況で大企業市場縮小が明確になると、直販とチャネルの不協音が多発するようになる。
03年春、IBMグローバルビジネスパートナー部門GMを長らく務めたピーター・ローリィ氏は定年退職時に次のように語った。
「直販とチャネルとの協業・競合(コ・オペティション)問題は、ベンダーが直販部門を擁する限り、永遠に解決しない課題だ。自分も長い間苦労したが、その解答を見つけることはできなかった」
■中堅・小企業に戦略的IT投資の積極化を

これからの企業は規模にかかわらず、「固定的IT経費」と「戦略的IT投資」の比率を大きく改善することが重要だと指摘されている。固定的経費とは日常的運用や保守、業務部門からの要求によるシステム修正などの、この支出を停止した場合には企業活動に支障をきたすような経費である。
戦略的IT投資とは、企業が業績を向上させるために、戦略的目的をもって、非定常的になされるIT投資である。ネットを活用したCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)やSMC(サプライチェーンマネジメント)構築などは戦略的投資だ。

直販部門がこれまで主力としてきた大企業予算削減によって、ルールを無視してチャネル市場に乱入するからだ。米市場ではHPの直販とチャネルの顧客争奪が目立つ。IBMはチャネル市場分離を明確にしてバッティングは排除したものの、直販との実効ある協業が疑問視されている。マイクロソフトは伝統的リセーラと、ソリューション指向のビジネスソリューションパートナーの不協和音に悩まされている。
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