WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第163回 「ITは重要か」

2003/07/28 16:04

週刊BCN 2003年07月28日vol.1000掲載

 2003年5月、米有力経営理論誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」に、同誌編集長のニコラス・カール氏は、「IT Does't matter(ITはそんなに重要ではない)」との論文を載せ、米IT業界に大きな波紋を起こした。カール氏の主張のポイントは、「革新的技術といわれ続けたITも、すでに電気、鉄道、ガスのように産業界の隅々にまで普及してしまった。従って、巨額のIT投資をしても、ITが他社との差別化にはつながらない」ということだ。

議論呼ぶハーバード・ビジネス論文

 同氏は論文で、「企業が注意しなければならないことは、ITベンダーの誘惑にかられて過剰ITをしてしまうことだ、それよりも現行の既存システムの稼働率が低いことに注目して、これ以上の投資をしないことを決断することが大切だ」と強調する。このカール論文にはITベンダーのマイクロソフト、インテルが反論ののろしをあげる一方、多くの米大企業のCIOやアナリストは、「心して自社ITの反省に取り組むべきだ」と賛同発言をした。

 その1人、モルガン・スタンレーの主席企業業績アナリスト、レベッカ・ランクル氏は、「私は『IT自体が役立たず』とは認識していない。そのかわり私は、『市場要求の変化にもかかわらず、相変わらず旧式のITを堂々と売り込むベンダーが多いことが問題』ということを提起したい」と発言した。ランクル氏は、「ユーザー企業を取り巻く環境変化があまりにも急激であるため、ベンダー自身とこれと協業するパートナーが変化についていけていないことにユーザーIT部門は注意すべきだ。

 そして真に自社に役立つITを提案するベンダーだけを選択できるよう見識を高めよ」と忠告する。カール論文は、IT神話やネットバブルに踊らされ続け、IT投資を膨らませた米大企業には耳の痛い警告となった。米大企業経営者はカール論文を目にして、自社ITの再評価を命じたところも多いと、ニューヨーク・タイムズ紙は報じた。ある企業ITスタッフの次のような新聞投稿もあった。

 「大切、重要なことも時と共に変化する。パソコンが1万ドルもした時代には保守契約は極めて大切だった。しかし、今やパソコンは400ドルで、高い保守料を払い続けるより、買い替えの方が得だ。古い概念を捨て、重要か重要でないかを機敏に見分けられるかが、ITの有効活用に関して大切なのだ」

 ロッキード・マーチンのポール・ファーガソンCTOは、「IT市場で生き残れるベンダーは、顧客環境を適切に分析して革新的ITを提供し続けるという厳しい条件をクリアしなければならない。その数は少ない。一方、消え去るべきベンダーやソリューション・プロバイダは極めて多い」と語り、次のように続ける。「ITの複雑性を解消できない店ざらしになったIT商品を途方もない価格で売り続けるベンダーが多い。これらのベンダーの言い分は、自分たちのマージンがいかに適切であるかの言い訳ばかりで、顧客が生み出せるITバリューの分析には何ら触れられていない。こんなベンダーには市場退出のプレッシャーを皆でかけるべきだ」(中野英嗣●文)

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