OVER VIEW
<OVER VIEW>長引くIT不況の国内ハイテク決算総括 Chapter8
2003/07/21 16:18
週刊BCN 2003年07月21日vol.999掲載
ソフトバンクグループ2003年3月期決算
■相変わらず3重構造の巨大企業グループ一時は「時価総額経営」、「ネット財閥」を盛んに打ち上げたソフトバンクの孫正義社長。しかし現在は、すべての経営資源をブロードバンド、とくにADSLサービスに注ぎ込む姿勢を強めている。
ネット財閥の銀行部門として買収した「あおぞら銀行」の全株式(48.87%)も米投資ファンド「サーベラス」に売却することを決定した。売却額は1011億円で、このほとんどをブロードバンド事業に投じることも発表している。
ADSLサービスに傾注するソフトバンクは加入者数が300万人に近づき、シェアトップを維持しているが、店頭での顧客獲得コスト負担が重く、03年3月でソフトバンク最終損益は999億円という過去最大の赤字となった(Figure43)。
ソフトバンクグループの最有力企業ヤフーの売上高は、ブロードバンド(BB)事業の伸びで前年度比88%増、最終利益も2倍以上の120億円に達した。また同グループでソリューション構築を手掛けるソフトバンク・テクノロジーの売上高も前年度比39%増、最終利益も同15%増となった。
ネット財閥を標榜したソフトバンクは相変わらず連結子会社269社、非連結関連会社など116社、合計で385社を擁する巨大企業グループである(Figure44)。
各事業会社グループは、BBインフラ、イーコマース、イーファイナンス、メディア・マーケティング、インターネット・カルチャー、放送メディア、テクノロジー・サービス、海外ファンドなどの各事業分野に位置づけられ、ソフトバンク・ファイナンス、ソフトバンク・ブロード・メディアなど事業統括会社の傘下企業となっている。ソフトバンクは本社を純粋持株会社、その下に事業統括会社と各事業会社という3重構造を形成している。
■約1000億円の巨額赤字
純粋持株会社ソフトバンク本体も、BBインフラからその他事業までの9事業分野に分けられ、それぞれの売上高、営業損益が公表されている(Figure45)。
また最有力子会社ヤフーもYahoo! BBからオークション事業など6セグメントの売上高、営業損益が公表されている(Figure45)。
ソフトバンク本体で売上高が圧倒的に大きいのは、同社が伝統的に継続してきたパソコンのソフト、ハードの流通を主体とするイーコマース事業で、当事業売上高は全社の62%を占める。しかしパソコン市場低迷によって当事業売上高前年度比は5%減で、営業利益もセグメント間を含めた売上高比で僅か1%未満で、1000億円近い巨額赤字を補填するまでに至っていない。
同社セグメントで黒字はこの他にインターネット上の広告などを手掛けるインターネット・カルチャー事業、テクノロジー・サービス事業、海外ファンド事業のみで、それぞれ営業利益も僅かだ。
一方、BBインフラの他にも赤字事業はイー・ファイナンス、メディア・マーケティング、放送メディア、その他の事業である。これからのソフトバンク経営の主力はBBインフラ事業であり、この事業の巨額損失をできるだけ早く解消しなければならない。
本体は巨額赤字だが、ヤフーは売上高も大きく伸び、しかも売上高純利益率も21%ときわめて高い超優良子会社である。ソフトバンク本体各セグメントが赤字、黒字が入り乱れるなか、ヤフー各セグメントはいずれも大幅黒字事業ばかりだ。
とくに営業利益が大きいのはBB事業、オークション事業、リスティング事業で、それぞれの売上高営業利益率は30、75、55%ときわめて高い。(Figure46)。
ヤフーのBB事業は68億円の営業利益を計上するが、これを支えるソフトバンク本体のBBインフラ事業は962億円の巨額赤字だ。本体とヤフーのADSL事業を合算して考えるならば、ソフトバンクのグループのBB事業は膨大な加入者を擁しながらいまだ巨額赤字事業であるといわざるを得ない。
ソフトバンクはこれまで多くの投資株式の売却を繰り返してきたため、現在手持ちの主力カードは日米ヤフー株だけとなった。従って、ソフトバンクとしてはヤフーを超優良子会社として維持しなければならない。それが表裏の関係にあるソフトバンクとヤフーのBB事業の巨額赤字・黒字に反映されているともいえよう。
■巨額有利子負債、BBの黒字化はいつか
ソフトバンクの有利子負債は減少傾向にあるものの、03年3月末で残高は3407億円と巨額だ(Figure47)。
さらに同時期にソフトバンク社債残高も1634億円で、この残高がゼロになるのも08年3月期と同社は説明する。
BB事業に傾注するソフトバンクが黒字に浮上するには、BB事業の損益分岐点をどう分析するかがきわめて重要だ。同社は新規顧客獲得費考慮前ではその分岐点を課金加入者200万人と分析する(Figure48)。
しかし、ADSL事業ではこの顧客獲得費用が黒字化への大きなポイントである。またこれまで最大12メガ程度だったADSL速度も最大20メガ超時代に突入した。総務省は03年5月末国内BBサービス利用者数は1048万と発表した。このうちADSLなどが75%、799万を占める。しかし、次世代に期待される100メガで低価格化の進むNTT、電力各社の光ファイバーサービスも加入者を増やし始めている。
わが国BBでは光ファイバーが本命視されているが、05年度末位まではADSL優位が続くと考えられている。ソフトバンクのADSLの1人当たりの顧客獲得費は02年に2万円といわれていたが、直近では3万7000円程度と大きく膨らんでいる。この街頭キャンペーンを停止すれば、経費の大幅圧縮は可能だが、一方でADSL加入者の光への移行も促進されてしまう。
資本力の大きいNTTや各電力会社とソフトバンクとのBB事業での本格競争はこれからが本番だ。ネット財閥からBB事業へと舵を切り直したソフトバンクだが、その事業基盤安定とBB事業のシェア獲得にはまだ大きな課題が山積している。
また、これまで同社を支えてきたコマース、出版などのメディア・マーケティング事業の苦戦が目立つので、これを支えながらBB事業へ傾注しなければならないソフトバンクだ。
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