中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>26.中国ビジネスのリスク (4)モチベーション管理

2003/07/07 20:43

週刊BCN 2003年07月07日vol.997掲載

 日本のソフト会社が中国に進出し、開発拠点を運営する場合、人材がポイントになる。人材を定着させ、高いモチベーションを引き出せるかどうかが、中国ビジネスの成否を握る。これは産業に関係なく普遍的なテーマなので、IT業界以外の取り組みも参考になる。例えば、金属加工業の岸本工業(静岡県)の岸本学社長はこう語る。「中国は歴史的に現場主義が強い。現場に権限と責任を与えることで、メキメキと成長する」。(坂口正憲)

 岸本工業は1997年から中国に進出、金型生産を手掛けてきた。「技術難易度の高い金型は日本製に限る」と言われるなかで、あえて中国人社員を技術指導。品質を着実に向上させてきた。その結果、現地の大手電機メーカーからの受注が急増している。岸本社長は、「中国人社員には、現地法人はわれわれの子会社ではなく、パートナーだと訴えてきた。現地法人の社長は将来、中国人社員から選ぶとも明言している。それが彼らのやる気につながっている」と話す。実際、中国人社員の技術吸収は予想以上に早かったという。

 岸本工業の取り組みは、ソフト業界にも適用できるはずだ。ある中国ソフト会社の日本人幹部はこう指摘する。「中国に進出している欧米系と日系の違いは、現地の中国人社員を信頼し、重要な仕事を任せているかいないか。責任と報酬の関係が明確な欧米系では、中国人社員が前向きで、潜在能力を発揮している」。中国人はプライドが高い。「安いだけの労働力として下に見る意識があれば、それを敏感に察して、気持ちが離れてしまう」(中国に進出する国内ソフト会社幹部)。

 もともと中国でITエンジニアを目指す若者は、上昇志向が強い。一般の勤労者と比べて何倍もの賃金を得ながら、さらに上へ登る機会を狙っている。そうした若者を安いだけの“労働力”として処遇したり、日本的な平等主義に押し込めたりすると、モチベーションは確実に下がる。あるソフト会社経営者は、「現地法人の社員には、株式上場を含めた中長期計画を公開している。われわれが中国ビジネスに本気で取り組み、中国人社員を重要な戦力と見ていることを、示すためだ」と語る。
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