モデル事例にみる IT投資減税活用ガイド

<モデル事例にみる IT投資減税活用ガイド>第13回 ハードウェアの修繕、保守の費用

2003/07/07 16:18

週刊BCN 2003年07月07日vol.997掲載

 IT投資減税を規定した租税特別措置法第42条の十一には、対象となるハードウェアとソフトウェアは、「その制作の後事業の用に供されたことのない情報通信機器等ならびにソフトウェア」となっている。つまり、ハードとソフトともに、「新品」でなければならないというわけである。中古のコンピュータを購入し、会社の事業に利用しても減税の対象とはならないのだ。(日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA) 税務委員会委員長 税理士 根岸邦彦(監修))

 では、「修繕」や「改良」についてはどうであろうか。現実のシステムでは、データの処理量が増えて現有のハードの能力では不足し、機器の増設やサーバーの追加などが頻繁に行われるのが当たり前だ。ハードディスクがクラッシュして、ドライブ装置を入れ替えたり、定期的な保守計画によって、ドライブ装置を交換することも多い。これらの支出を検討した場合、IT投資減税の対象となるものはあるのだろうか。

 たとえば、ホストコンピュータの能力増強のためのCPU増設や、ウェブサイトのアクセス数が増えたためのサーバー増設、ハードディスク装置(HDD)を交換・増設した場合、IT投資減税の対象とすることができるのか。

 法人税法施行令第132条によると、「修理、改良その他いずれの名義をもってするかを問わず、その有する固定資産について支出する金額で、(1)当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額、(2)その支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額は、損金に算入しない」としている。

 このような場合の会計処理は、同第55条で、「第132条の規定により損金の額に算入されなかった金額は、取得価額に加算する」とされている。

 このような支出は、「資本的支出」と税務では呼ばれる。新規の固定資産の取得ではないが、既存の固定資産の価格に加算することにより、期間費用ではなく減価償却を行って費用化すべき支出となるのである。資本的支出は、既存の資産の価額に加算されるわけだから、当然IT投資減税の対象とはならない。すると、既存のハードに関わる支出の中で、IT投資減税の対象となるのは、「単独で作動する電子計算機を新たに取得した」場合に限られることになる。

 サーバー増設のように、独立したサーバー本体を新たに設置した場合、既存のネットワークに接続し、これまでのソフトやデータを再配置しても、税法の規定が電子計算機の用途を問わない以上、これは問題なく減税対象資産となる。

 問題は、既設のラックに収まっているコンピュータ本体にCPUを増設したような場合である。これは、新たに単独で動作する電子計算機の取得とはいえないので、既存の計算機の価額を増加させる金額ということになる。従って、既存の電子計算機の帳簿価格に加算する処理を行うべきものとなり、IT投資減税の対象にもならないことになる。

 HDDの交換・増設は、内容と規模を併せて判定しないと「修繕費か資本的支出か」の区分ができない。故障したHDDを交換した場合には、電算機の性能を元に戻しただけであるので、「価額の増加」とはいえない。しかし、「使用可能期間の延長」とされているかもしれない。そこでこのような場合には、交換の費用が「重要なものかどうか」を加味して判断する。

 その判定には次のようなチェックポイントがある。(1)金額が20万円以上か、(2)おおむね3年以内に繰り返される保守・修繕か、(3)内容的に修繕であると規定されているものか、(4)60万円未満もしくは取得価格の10%以下か。これらのいずれかを満たすと、「修繕費」として扱われる。修繕費は期間の費用であり、固定資産に加算しないから、IT投資減税の対象にもならない。

 この見地では、HDDは、金額基準で60万円を超えるものは資本的支出になり、既存の資産(電子計算機本体)に加算することになる。「新規の単独の電子計算機」ではなく、そのようなものに付属して同時に設置されるものでもないので、IT投資減税の対象とはならないわけである。
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