コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第34回 岩手県(下)
2003/07/07 20:29
週刊BCN 2003年07月07日vol.997掲載
27か所の県立病院をネットワーク接続 医療情報システムで生活向上へ
■「いわて情報ネットワーク」で地域間格差是正岩手県では、2000年度から県内の情報ネットワーク開設に着手。02年度末までに「いわて情報ハイウェイ」を構築した。県庁を中心として県北の二戸市と久慈市、海岸部の宮古市や釜石市、大船渡市、県央の遠野市、県南の一関市を経由する8の字型の基幹回線を備え、さらに14か所のアクセスポイント(AP)から、岩手医科大学や中核的県立病院など11か所のほか、大学や産業および教育関連の支援機関、県立学校、市町村など県内施設205か所をネットワーク接続した。
このうち病院や産業・教育支援機関はATM(非同期転送モード)接続を行っており、市町村や一部の県関連施設は毎秒128キロビットのISDN(総合デジタル回線網)で接続を行っている。
もともとネットワーク接続を行ってきた医療情報分野では、「遠隔医療支援のための高精細なテレビ会議システムや医療画像情報データベースなどに活用されており、他のアプリケーションに比べ3倍程度の活用状況」(森達也・岩手県地域振興部IT推進室主任IT推進主査)という。やはり情報活用という点で直接のニーズが発生しているアプリケーションの使用頻度が高いようだ。
岩手県民の情報リテラシーは遅れている、というのがIT推進室の抱えている大きな問題だ。「民間の調査データによると、岩手県のパソコン世帯所有率は31.6%、インターネットの世帯普及率も36.3%と低い。県民アンケートの結果では、盛岡地域では32.5%がインターネットを利用しているが、二戸地域では15.6%にとどまる」(古舘慶之・IT推進室主任IT推進主査)というように地域間格差も激しい。
こうした状況も、県土が広いことに加え、東北新幹線や東北自動車道が走る県内陸部と、北上山地を挟んで太平洋に面した海岸部に分かれるという地域の特異性もありそうだ。
三陸沿岸では漁業、山地では林業、内陸部は農業といったように自然を相手にした第1次産業が主力で、製造業など労働集約型の産業が少なかったことも情報活用が進んでこなかった理由の1つだ。
しかし、「いわて情報ネットワーク」が整備され、県は情報化を重要政策に掲げている。行政の情報化をはじめとして、さまざまなサービスが提供されることで、むしろ岩手県の地域特性である広い県土や地理的条件による地域間格差が是正されることにもつながると期待しているからだ。
■市レベルでの積極的な情報化も
このため岩手県では、普及が進む携帯電話や無線LANによるアクセスなど、モバイル・インターネットを重視した戦略を立てている。すでに、01年度から県北の大野村で、50人のモニターを募集しモバイル・インターネットの実証実験を行っている。
実証実験では、行政情報配信サービスだけではなく、農産品で生産者向けに双方向の産直サービスやハウス農家向けに農業用ハウスの温度・湿度の情報を提供するサービス、子供を保育所に通わせている家庭では保育所や園児の様子を画像配信するサービス、施設予約、道路情報提供などのサービスを携帯端末向けに行っている。
これまでの実証実験を通じて、モニターに参加している住民の半数がサービスに満足しているとアンケート回答している。こうしたサービスを広く展開するためには、山間地など携帯電話の電波不感地帯の解消が必要だろう。
県がリーダーシップをとる新たな電子化の取り組みだけではなく、市レベルでの積極的な情報化も一部では進んできた。
富士通ユーザーの水沢市は、県内でもIT化の進んでいる市の1つ。00年5月には通信・放送機構(TAO)が実施する「都市コミュニティ研究成果展開事業」として水沢市に対し、ICカードを利用したインターネット対応総合行政情報システムを納入している。
岩手県内では地元システムインテグレータが圧倒的に自治体システムのシェアを確保しているため、富士通にとっては他県と同様の自治体戦略を進められない状況だ。しかし水沢市に限っては、「IT化に対するビジョンが明確でバランスの取れたシステム構築を進めている」(和田俊一・富士通岩手支店長)と、富士通の自治体ソリューションがそのニーズに応えていると胸を張る。水沢市の事例が他の自治体へ広がる期待もあり、岩手県内の他市町村への波及も予想する。
一方、県庁所在地の盛岡市は4年計画で進めてきた1人1台のパソコン配備が今年7月にも完了し、8月からは総合行政ネットワーク(LGWAN)接続も始まる。文書管理システムの導入について、各課での対応が不揃いなことから延期せざるを得ないという状況もあるが、「全国の自治体では4番目と聞いている」(沼田秀彦・盛岡市役所企画部情報企画室主査)というホームページの音声読み上げシステムの導入や、05年度の導入を検討している電子投票システムなど、住民の利便性を高めるためのシステム開発、導入に意欲を見せる。
しかしその一方で、財政の問題など、市町村でできることには限界がある。盛岡市には2か所の図書館を結んだ蔵書検索システムがあるが、同じ盛岡市内にある県立図書館とは相互乗り入れしていないというのも不便だ。
「その意味ではセンターの共同利用など、岩手県全体で取り組んでいこうという動きには期待をもっている」(沼田主査)と、情報化を重点施策に据え、IT施策を専門的立場から進める「IT指導監」のポストを今年度設置した岩手県庁のリーダーシップに期待を寄せている。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
IBCソフトアルファ
■デジタル放送ニーズに加え自治体向けも「地上デジタル放送への移行を控えて、放送関係のシステム構築ニーズが急速に立ち上がっている」と語るのは、岩手放送(IBC)グループのIBCソフトアルファの中島厚志・業務本部長。IBCのコンピュータシステム部門が発展してできた企業だけに、放送関連システムについては深いノウハウを持つ。このためIBCだけでなく、デジタル放送システム構築では、テレビ神奈川といった関東圏のテレビ局からもビジネスを受注している。
一方で、地域密着ビジネスとして拡大を図っているのが自治体ビジネス。それも大手の手がけない、ニッチな部分を狙って積極展開を図っている。「自治体のIT化と言っても、しょせんパイの大きさは決まっている」と語り、ライバルの多い分野で競合するのではなく、電子印鑑システムといった特徴あるシステムで自治体ビジネスの拡大を目指す。
岩手県内の市町村レベルに売り込みをかけている最中で、「使いやすさを評価してもらえそう」と手応えを感じている様子だ。
テレビ局向けビジネスの拡大のために、富士通のパートナーになったばかりだが、自治体関連でも大手ベンダーから電子印鑑システムの引き合いがきているという。さらには地元大手ベンダーとの協力など、電子自治体向けビジネスの拡大も着実に進めている。
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