OVER VIEW

<OVER VIEW>長引くIT不況の国内ハイテク決算総括 Chapter5

2003/06/30 16:18

週刊BCN 2003年06月30日vol.996掲載

 富士通、NEC、日本IBMの各有力ソリューションベンダーの03年3月決算は明と暗に分かれた。NEC系のNECフィールディング、NECソフトは売上高の伸びが順調に推移したが、富士通と日本IBM系列は苦戦した。ハード売上高比率の高い富士通ビジネスシステムや日本ビジネスコンピューターは、国内ハード市場の低迷に大きく影響された決算となった。しかし、e-Japan関連や市町村合併によるシステム需要増加という強い追い風が、この分野に強い富士通、NEC関連企業には吹いている。(中野英嗣)

メーカー系ソリューションプロバイダの03年3月期決算

■明のNEC系と暗の富士通、IBM系列

 富士通の主力ソリューションプロバイダ連結関連会社、富士通サポートアンドサービス(Fsas)、富士通ビジネスシステム(FJB)、富士通BSC3社の決算は、親会社である富士通のソフトウェア・サービス事業を支える柱だ。

 富士通連結および単独決算書によると、同社のソフトウェア・サービス連結売上高の50%は関連会社による。自社単独売上高は半分に過ぎない。従って、主力関連会社の売上高が低迷すれば、本体の当セグメント売上高も自ずと低迷する。

photo 03年3月期合計の富士通系3社売上高は前年度比4.2%減で、親会社の当セグメント売上高も2.9%減となった。富士通主力3社の売上高前年度比はFJBが10.6%、富士通BSCが同6.9%、そして前年まで躍進を続けたFsasも同0.4%といずれも減少となった(Figure25)。

 一方、NECのSIサービス/ソフトウェア、インターネットサービス/サポートの03年3月期売上高の前年度比は4.1%増だ。これにはNECソフトの21.9%、NECフィールディングの5.7%という大幅増収が影響している。

 現在のIT不況下でも、ハード出荷低迷や価格デフレによる売上高減少を補うのはITサービス、ソフトであるとの認識は世界共通だ。この分野も売上高が低迷する富士通は苦しい。日本IBM系の日本ビジネスコンピューター(JBCC)も売上高が6.2%減、経常利常利益も42.1%という大幅減益となった。JBCCはこの売上大幅減の理由を次のように説明する。

 「インテルサーバーは20.8%増と順調に伸び、iSeries(旧AS/400)もハイエンド機を中心に健闘したが、パソコン販売およびpSeries(UNIXサーバー)の落ち込みで、ハード売上高が前年度比8.2%減となった。前年度比でソリューションは3.2%増、保守やアウトソーシングのサービスも6.5%増だったが、ネットワークはとくにブロードバンド対応機器の低価格化で17.9%という大幅落ち込みとなった」

■利益率で米IBMに大きく劣るメーカー系プロバイダ

photo NEC、富士通、および日本IBM系列のビジネスモデルが似ているのは米IBMのサービス部門、グローバルサービス(IGS)だ。このIGSとわが国のベンダー利益率を比較すると、わが国ベンダーの弱点が明確になる(Figure26)。

 IGSサービス売上高総利益率は26.3%と高いのに対し、20%以上のメーカー系有力国内プロバイダはFsasの21.9%のみで、他はすべて10%台と低い。これにともなって売上高税引前利益率もIGS9.3%に対し、これに肩を並べるのはNECソフトのみで、JBCC1.4%、FJBはプラスゼロの0.7%に過ぎない。

 わが国IT、AVはメーカーでも総利益率がIBMに比較すると総じて10ポイント程度低く、これがわが国ハイテク産業の大きな弱点となっている。とくに総利益額の減少が大きいのは富士通BSCの13.5%減で、FJB、JBCCの11.8%減だ。

photo 総利益額減少は企業付加価値総額の減少を意味し、これで一定利益確保を目指せば、研究開発費や人件費削減に直結する。ITサービス、ソフト事業は、IT業界牽引力であり、ここでの研究開発費や人件費抑制は将来の力貯えに悪影響を与える。

 わが国有力ITサービスの総利益率が低いことは、売上原価の大きな部分を含める外注費が高く、外注勢力の使い方に問題があるからだと指摘できよう。

 富士通は秋草直之社長時代、自社ITサービス利益率改善のため、外注コスト一律10%減を断行したが、その影響が主力関連企業に大きく響いたともいえよう。とくに富士通BSCは同社売上高の3分の2を占めるソフト開発が前年比14.5%という大幅売上減少となったことが大きく影響した。

photo■ハードは不調、サービスとサポートが伸長

 NECフィールディングの5.7%の増収を支えたのはフィールディングソリューションの9.2%という高い伸長だ(Figure27)。

 当セグメントでもインストレーション、ネットワーク施設のサービスは6.6%減だったが、ソリューションサービスは43.9%という高い伸長率を示した。これは新パッケージングサービスメニュー導入と運用支援などのビジネスが大きく伸びたことによる。また同社はサービス店舗であるアクティブワンを通して個人向けサプライサービスを伸ばした。NECソフトが21.9%という高い伸びを実現したのは26.0%の売上伸長となった売上高の大きいシステムインテグレーションおよびシステムサービスのセグメントだ(Figure28)。

photo これに大きく寄与したのはe-Japan関連の電子自治体システムである。同社はe-Japan、市町村合併にともなう受注が拡大していると次のように説明する。「自治体向け電子調達、電子入札、文書管理システム受託が好調、市町村合併によるシステム統合需要増により売上高が大きく伸びた」。また医療分野の電子カルテや電子レセプトの売上高が堅調に推移していることも同社は説明する。

 民間市場でもERP(基幹業務システム)、EIP(企業情報ポータル)ビジネスも堅調だった。また同社ソフト開発ではストレージ統合に向けたミドルウェア開発ビジネスが堅調であることもNECソフトの伸長を支えた。好調なNEC系と対比した時、富士通系Fsas売上高は微減、富士通BSCは7%近い減収と苦戦である。Fsasは自社情報サービスはe-Japan受注拡大で伸びたが、民需の落ち込みで微減になったと説明する(Figure29)。

 また富士通のハード販売でも大きな影響力をもつFJBは、ハード販売の情報システムは30%近い落ち込みとなったため、photoソフト、サービスが20%以上伸びたが同社売上高を支えることができなかった(Figure30)。

 一方、FJB数年間の決算を検証すると、同社売上高に占めるハード割合の低下とともに、12%前後だった総利益率が15%台まで伸びたことがわかる。しかし、これはハード市場縮小にともなうセグメント売上高構成の変化によるものであって、総利益額の減少には歯止めがかかっていない。

 ソリューションプロバイダで多くのセールス支援要員を抱えるFJBやJBCCの14-15%台の総利益率は低過ぎると指摘できよう。
  • 1