OVER VIEW

<OVER VIEW>長引くIT不況の国内ハイテク決算総括 Chapter4

2003/06/23 16:18

週刊BCN 2003年06月23日vol.995掲載

 わが国を代表する主カテレコムのNTT、NTTドコモ、KDDIの3社は売上高の微増、微減に苦しみながらも、営業および最終損益で大幅な改善となった。とくにNTTは2002年3月の最終8347億円の巨額赤字から2334億円の黒字へ転じた。超優良テレコムのNTTドコモは増収基調ながら、主力携帯電話加入者の伸びが大きく縮小した。同社FOMA加入も30万強にとどまった。NTTは世界でも突出した巨大テレコムであり、同じ国営から出発した独、仏テレコムに比べると売上高負債比率も低い。(中野英嗣)

主要テレコムの2003年3月決算

■成長力衰えた主力テレコム

 02年3月期、わが国を代表するNTT、NTTドコモ、KDDIのテレコム(通信事業者)3社の売上高は成長が衰え始めたテレコム業界の実態を示す結果となった。

 世界的にテレコムは過剰通信設備と経済低迷による通信需要の鈍化によって苦境に陥っている。米国は大手ワールドコム倒産に見られるように世界のテレコムの先陣を切って不況感が激しくなっていた。

 世界的テレコム不況とは距離を置いていたわが国も、03年3月期決算では、NTTが1952年の旧電々公社発足以来初の減収に見舞われ、携帯電話トップNTTドコモも前年の売上伸び10%を大きく下回る3%の伸びにとどまった。KDDIも前年伸び25%から2%近い減収となった。

 NTTの02年3月期は営業赤字だったが、03年3月には1兆3635億円の巨額黒字へ転じた。NTTドコモ営業利益の伸びも6%と、この面でも収益成長力が鈍ったことを裏付ける。

 KDDIは売上高は減少したが、経費削減や前期末に実施したPDC方式設備の除去による減価償却費の減少で38%という営業増益となった。テレコム業界の増益も典型的なリストラクチャリング効果によるものといえる。

 わが国テレコム業界も世界と同じように固定電話の需要減に歯止めがかかっていない。テレコム業界はブロードバンド化が急速に進展するなど、市場環境が激しく変化している。ブロードバンド市場はIP電話の提供などのサービス面や、料金の激しい下落競争をともないながら、ADSL普及が牽引役となって急速に拡大している。

 従ってテレコム業界の課題は当然、ブロードバンドの波にビジネスモデルをどう適合させるかに集約される。

■EUテレコムに比べれば優位のわが国テレコム

 わが国テレコム業界動向を世界と比較するには、業界形態がわが国と近いEUの業界を対象にするのが適当であろう。

 現在NTTは若干の減収とはいえ、売上高でも世界で突出する巨大テレコムである。またEUを代表する独、仏のテレコムはNTTと同じ旧国有企業から出発という企業背景も同じだ。

 NTT、独、仏テレコムの決算を比較すると、NTT売上高は当然トップであり、純利益も2334億円であるのに対し、独、仏はともに巨額赤字に沈んだままである。

 さらに独、仏テレコムを苦境に陥し入れた要因として、年商を大きく上回る巨額有利子負債が指摘できる。NTT負債が売上高比62%の6兆8008億円であるのに対し、独テレコム負債は年商を14%、仏テレコムは47%も上回る。

 この巨額負債発生の一因は、それぞれの政府が徴収した巨額な第3世代(G3)携帯電話事業免許料である。この巨額免許料を支払いながら、G3サービスの本格展開はまだ先の話だ。

 この巨額負債のため、独、仏テレコムともに再度の一時的国有化も政治的課題となっている。仏テレコムには既に03年3月、仏政府が90億ユーロ(1兆2510億円)を引き受けた総額150億ユーロ(2兆850億円)の増資が決定した。一方携帯電話分野では売上高、加入者数双方で英ボーダフォンの突出振りが目立つ。

 売上高ではNTTドコモがボーダフォンに次ぐが、加入者数では独仏テレコム系のJ-モバイル、仏オレンがNTTドコモも上回る。わが国で善戦するKDDIのauサービス加入者は、独、仏2社に大きく引き離されている。

■FOMA普及が課題のNTTドコモ

 NTTセグメント情報によると、同社売り上げはほど同額4兆8000億円の地域通信と移動通信が支えている。

 同社2003年3月セグメント別売上高前年比は、地域通信が3.6%、長距離・国際通信が7.4%、データ通信1.4%といずれも減少した。NTTドコモの移動通信のみが中枢事業として唯一2.9%の成長であった。

 このような経営環境のもと、NTTは02-04年度にわたる「NTTグループ3か年経営計画」にもとづき、ADSLや光アクセスなどの料金低廉化やサービス地域拡大、IP電話加入サービス拡充に取り組んでいる。

 NTTは04年3月決算に関しても厳しい見方をしており、同決算売上高は前年比0.3%減、税引前利益も12.1%減と予想している。NTTドコモのサービス別契約者数は携帯自動車電話が前年比7.0%増、iモードは17.4%と大きく伸びている。しかしG3「FOMA」サービス契約は前年比4倍弱であるが、まだ契約数は33万という少数にとどまっている。

 NTTドコモによると、04年3月の各サービス契約者数は、自動車携帯電話が1.8%の微増、iモードも5.9%と伸びが大きく縮まる。FOMAはようやく普及期を迎え、03年3月の3倍強の146万を予想する。

 KDDIセグメント情報でも、国内・国際通信・インターネット接続、ハウジングなどネットワーク&ソリューション売上高は7.4%と大きく減少し、携帯電話伸びも3.3%にとどまっている。この結果KDDI売上高でも携帯電話依存が高まっている。

 しかし営業利益率はネットワーク&ソリューションが9.2%と高いのに対し、携帯電話は2.8%と低い。国内テレコムの損益改善はリストラクチャリング効果と見るべきだろう。

 NTTで見ると02年3月の純損益は海外出資企業ベリオなどの株式評価損で2兆円超の特別損失を計上したため8347億円という巨額赤字であった。03年3月期決算の利益増の大きな要因は巨額特別損失が発生しなかったことと、構造改革にともなうコスト削減であった。

 02年5月に、業務受託する新会社に10万人強の社員を転籍させたことで、NTTは人件費を2300億円削減できたからだ。さらにNTTには減損会計適用が大きなリスクとなることも懸念される。それはNTT電話網資産価値は10兆円と推定されるが、固定電話事業の赤字が慢性化すれば、この巨額資産は巨額の不良資産化する公算も高いからである。

 固定からIP、モバイルへのトランスファーにどう対応するのか、世界テレコム共通の課題だ。
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