OVER VIEW
<OVER VIEW>長引くIT不況の国内ハイテク決算総括 Chapter2
2003/06/09 16:18
週刊BCN 2003年06月09日vol.993掲載
国内総合ITメーカー決算
■営業損益は全社プラスに転換日立製作所、東芝、NEC、富士通の国内総合ITメーカー決算は純損益で黒字転換した日立、東芝と、赤字の続くNEC、富士通に分れた。
日立、東芝は売上高も前年比プラスとなったが、赤字のNEC、富士通はそれぞれ7-8%という大幅な減収が続く。しかし、4社共に売上総利益が前年比プラスとなり、一方、販管費も減少したこともあって、営業損益は前年の赤字からプラスに転じた。
前年は4社ともに営業赤字であったことを考えれば、世界的IT不況の市場環境で人員削減、不採算事業の売却・分離などのリストラクチャリング効果がはっきり見える。しかし、人員削減などは既に限界に達しており、本業の売上高増、総利益増による利益の大幅増大が要求される。
IT業界は世界的に企業付加価値総額である「企業版GDP(国内総生産)」が大きく減っており、このため使用する経費、雇用人員が減少して、国や地域経済への貢献が低下している。
国内総合メーカーのIT部門売上高は富士通が3兆9412億円と突出したトップの位置を確保している。
しかし富士通IT部門売上高前年比は10%以上の減少だ。同比率では日本IBMも7.3%、NECも5.7%減で、日立だけが4%近い増収となっている。日立IT部門の増収は米IBMのハードディスク部門の買収によるところが大きいと考えられる。
富士通、NECはともにわが国を代表するITメーカーであり、この両社がともにIT部門が減収で、全社ベースで最終赤字であることを市場は懸念している。同一国内市場を主力とする国産メーカーと日本IBMを比較すると、IBM利益が10%以上であるのに対し、国産のIT部門営業利益率が4-5%と極めて低いことも懸念材料である。
■ハード売上高は減少、ソフト・サービスは堅調
世界IT市場の縮図となっているのは、全世界でビジネスを展開するIBM決算である。世界のIT市場は00年をピークに、01年、02年と減少が続いている。とくに米国ではネットバブルに煽られて、00年まで米企業はIT投資を大幅に増やしたため、過剰IT資産に悩み、その調整もあってIT投資は大幅に減少し続けている。
とくにパソコンは出荷台数の回復は見られるものの価格デフレによる出荷金額は大幅に減少している。サーバー、ストレージもパソコン以上のデフレによって出荷金額は大幅に減少している。これによって半導体02年世界出荷金額も00年のピーク比31%減(米半導体工業会)となり、半導体部門をもつITメーカーには大きな打撃を与えている。
このようにパソコン、サーバー、ストレージ市場の世界的低迷によって、ハード売上高前年比は米IBM10%、富士通20%、NEC12%と大きく減少した。日立だけはディスク事業買収によって5%売上高を伸ばした。
とくに富士通ハードの売上高減少が大きい。これに関し、同社は「北米、国内テレコムの大幅投資抑制による光伝送システムの売上減少、サーバー、ストレージの大幅減、デスクトップパソコン向け磁気ディスクからの撤退の影響」と説明する。
NECハード売上減少について同社は、「サーバー/ストレージ/ワークステーション18%減、パーソナルプロダクト7%、その他ハード7%とそれぞれ減少した」と説明する。
一方、IT不況下でも低迷するハードに比べてソフト・ITサービスは堅調である。米IBM、日立、NECはともにソフト・サ-ビスの売上高を3-4%伸ばした。しかし、ソフト・サービスでも世界的に米IBMに次ぐ事業規模をもつ富士通だけは当セグメント売上高は3%減少した。
ハード売上減少は世界的動向だが、堅調なソフト・サービスでも売上減少となった富士通の経営は懸念される。富士通は損益面だけでなく財務指標でも疑念材料が多いと、機関投資家から指摘されている。自己資本比率も02年3月期の23.4%から、03年3月期には16.6%と20%を大きく割込んでいる。
また、有利子負債残高も02年3月期の1兆6362億円(売上高比29.8%)から03年3月期には1兆7637億円(売上高比38.2%)と1275億円増加している。また利益剰余金も前年761億円がなくなり607億円の累積損失を抱えた。富士通は本業業績の大幅回復によって財務問題点解決も迫られている。
■IBMに大きく劣る富士通利益率
富士通の売上構成比などビジネスモデルは世界の業界で最も米IBMに酷似している。全社売上高に対するソフト・サービス売上高比はIBMが60%、富士通44%、ハードはテクノロジーを含めてIBMが34%、富士通は電子デバイスを含めて48%だ。
酷似はしていても、富士通はソフト・サービス構成比でIBMとの格差は徐々に拡大している。IT不況でハードが低迷するなか、米IBMはPwCCなどの買収を含めて、サービス売上高を伸ばしているからだ。
また、価格デフレが激しい電子デバイス売上構成比が13%と、IBMテクノロジー構成比5%に比べて大きい富士通は、これだけでも損益で苦しくなる。部門別利益率でIBMソフト・サービスは14%であるのに対し、富士通は8%だ。
さらに電子デバイスやテクノロジーでIBM税引前損益率は22%の赤字で富士通の赤字5%よりは大幅に高い。しかしIBMテクノロジー売上高構成比は小さいため、全社への赤字影響は小さい。
さらにパソコン、サーバーなどハードについて、富士通の利益率がほぼプラスゼロであるのに対し、IBMは7%近くで大きな格差がある。結果的に税引前損益率は全社ベースでIBMの黒字9%に対し、富士通は3%の赤字となった。
富士通の課題はソフト・サービス、ハードともに利益率の大幅改善である。IT不況でITメーカーの売上高はわが国だけでなく、米国メーカーもほとんどが減収だ。しかし、これをリストラクチャリングだけで回復するには当然限界がある。
世界的にはマイクロソフトの新サーバーOS「ウィンドウズサーバー2003」発売にIT業界は期待するが、その市場効果については疑問の声も米国では強い。
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