OVER VIEW

<OVER VIEW>長引くIT不況の国内ハイテク決算総括 Chapter1

2003/06/02 16:18

週刊BCN 2003年06月02日vol.992掲載

 わが国を代表するIT企業のNEC、富士通の業績低迷が大きな話題となっている。しかし、IT不況は世界的動向で、IBMやヒューレット・パッカード(HP)など米国有力ITメーカーの売上高も2001年以降減少し続けている。ハイテクの一方の牽引力であったITが不況に苦しむなか、デジタルカメラ、プラズマTVなど「新・三種の神器」をもつわが国AV機器メーカーは本業の業績回復が目立っている。IT業界にはAV業界のようなパソコンを代替する新しい戦略商品が見えていない。このため世界のハイテク牽引力はITからAVへ移ったという観測も米国で強くなった。(中野英嗣)

日米ともに苦戦するIT有力メーカー

■デル以外は日米ともに売上高が大幅減少

 02年も世界のIT業界は長びく不況からの出口は見付けられなかった。日米有力ITシステムメーカーの02年(国内メーカーは02年3月決算)売上高で、ピーク時の00年比で大きく伸びたのはウィンテル市場で独り勝ちするデルのみだ。

 デル以外、IBM以下の米国有力メーカーはそれぞれ売上高を大きく減らしている。00年比減少幅はIBMが8.2%で、サン・マイクロシステムズと旧コンパックコンピュータを買収したHPはともに20%以上だ。

 一方、わが国メーカーでは日立製作所が2.7%、東芝は5.0%と減少幅は小さいが、NECは13.2%、富士通は15.8%と、ともに2ケタの減少である。

 わが国ではNEC、富士通といったIT専業メーカーの業績不振が叫ばれている。しかし、今回のIT不況はわが国メーカーだけでなく、米国有力メーカーをも巻き込んだ世界的現象だ。

 一方、ウィンテル専業のデルは有力パソコンメーカーのHP、旧コンパックコンピュータ、IBM市場を大きく浸食し、1社だけが出荷台数を大きく伸ばしている。

 デルは米欧市場だけでなく02年国内パソコン市場でも出荷台数を前年比40%も伸ばし、NEC22.2%、富士通21.2%、ソニー11.1%に次ぐ、4位の8.1%を獲得した。国内ウィンテル市場でも、デルによるカニバリズム(共食い)現象を無視できなくなった(数字はマルチメディア総研)。

 02年の日米韓有力ハイテク企業の売上高を比較すると、世界的IT不況環境でも、日本メーカーが上位に顔を揃えていることがわかる。

 売上高15兆円以上のGEが不動のトップの座を確保しているが、IBM、HPに次いで日立以下の日本メーカーが並び、これをデル、サムスン電子(韓国)が追う形となっている。

 デル、サムスンはともに売上高を大きく伸ばしているので、遠からず日本メーカーの一角を崩すことも想定される。マイクロソフト、インテルの2社は三菱電機とキヤノンの間に位置している。一時はネットバブルの追い風を受けたサンは01年に182億5000万ドル(2兆1900億円)の売上高だったが、大幅な売上高減少によって、1兆5000億円以下となった。

■国内IT主体は苦戦、AVメーカーはV字回復

 国内ハイテク企業をIT主体、AV機器主体に分けると、02年度決算は明暗を分けた。IT、AV双方を手掛ける日立、東芝はともに売上高、純損益でV字回復を果たしている。

 しかし、IT主体のNEC、富士通はともに純損益で大きく回復はしているものの、赤字からは脱出していない。富士通の赤字は1000億円以上と相変らず大きい。さらにこの2社の売上高は、01年から連続して大きな右肩下がりで、売上減少に歯止めがかかっていない。

 一方、ソニー、松下電器産業などAVメーカーの決算はNEC、富士通に比べれば明るい。ソニーはパソコンの不振で02年売上高は前年比若干減少となったが、松下は売上高、純損益ともに大きく回復した。

 松下は、営業利益が1265億円であったが株式評価損などの影響で最終赤字からは脱却できなかったが、DVDレコーダなど「V商品」と名付けた戦略商品群88品目の売上高が1兆円の目標を達成したことで業績回復した。

 現在、世界的にIT企業は売上高の大幅減少に見舞われるなか、黒字を確保するため人員削減、不採算事業売却などリストラクチャリングに挑戦している。

 しかし、これで黒字化はできても、「企業GDP」と国連貿易開発会議(UNCTAD)が定義する企業付加価値は減少し続ける。当然IT業界の擁する人員や支払い経費が減少するので、業界全体の国、地域経済への貢献は小さくなり、業界プレゼンスも弱まる。世界のIT産業はグローバル経済におけるプレゼンスが弱体化し始めているといえよう。

 これに対し、AVは「新・三種の神器」と呼ばれるプラズマTV、デジタルカメラ、DVDレコーダという有力商品をもち、これらはいずれも国内AVメーカーが独占する。例えば02年の世界デジタルカメラ出荷は前年比66%増の2455万台であった。このようにAV産業は有力商品によって本業の売上高を伸ばし、利益も回復しつつある。一方、パソコン、サーバー、ストレージなどITは出荷台数の低迷と、価格デフレの2重苦が重なり、IT業界の苦戦は続く。

■IT産業は成熟産業に転じ、パソコンの次が見えない

 米有力ITメーカーでは、HPとサン2社の苦戦が目立つ。この2社は01年以降売上高は大きく減少し続け、HPの赤字幅は小さくなっているが、サンは赤字が大きく拡大している。

 世界のIT不況を反映して、有力ハイテクメーカーの純損益の黒字、赤字企業数はほぼ拮抗している。

 売上高純利益率でもデルの独走状態で、これにIBM4.4%が続く。日本メーカーではソニーの純利益率1.5%がトップだが、デル、IBMに比べれば大きく劣る。また富士通の赤字は売上高比2.6で、5.0%のサンとともに苦戦組の代表格となる。

 世界的にハイテク企業はわが国を含めてリストラクチャリングによる縮小均衡策は限界に近づきつつある。従って顕著な縮小均衡戦略でも大幅赤字から脱出できないメーカーの経営環境は一層厳しくなる。

 しかし、新しい戦略商品が明確になり、しかも日本メーカーが強い国内AV産業は、今後一層本業の売上高、利益が大きくなる公算は大きい。それに対し、IT産業にはパソコンを代替する次世代の牽引商品が見えていない。

 このような市場を見て、米国ウォールストリートの機関投資家の多くは、「IT産業はこれまでの成長産業から、すでに成熟産業に転じた」と語り、IT業界は投資魅力が小さいともいう。ITに代わり、今後世界のハイテク牽引力はデジタルAVという見方も強まっている。米国はITでは図抜けた先進国であるが、有力AVベンダーは存在しない。

 わが国は世界ハイテク売上高ランキングで見られるように、IT、デジタルAV双方にそれぞれ多数の有力メーカーを擁する唯一の国である。この点にわが国のハイテク復権のキーがあると考えられる。
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