コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第29回 滋賀県
2003/06/02 20:29
週刊BCN 2003年06月02日vol.992掲載
地域情報ネットワークを整備、電子自治体への取り組み進む 県市町村間の連携を図るシステム構築へ
■「びわ湖情報ハイウェイ」で県内227か所を結ぶ滋賀県庁では、1999年に情報化推進計画「びわ湖情報ハイウェイネット計画」を策定。県内のネットワークの構築、電子自治体の土台作り、情報端末の整備などに取り組んでいる。
まず、昨年3月に県の全機関と県内全50市町村を結ぶ県内情報ネットワーク「びわ湖情報ハイウェイ」の整備にいち早く取り組んだ。
「びわ湖情報ハイウェイ」は、基幹回線とアクセス回線からなり、基幹回線は県内の7か所の中核通信拠点間を接続。アクセス回線は、各中核通信拠点と県・各市町村などの施設227か所を接続している。昨年4月から本格運用を開始し、今年4月に基幹回線容量を従来の30Mbpsから10Gbpsに大幅拡充した。これは、「全国の各道府県が整備する県内情報ネットワークの中で最大規模」(細野善夫・滋賀県企画県民部IT推進課課長補佐)だ。
細野課長補佐は、「この基幹回線容量の拡充にともなって、全体容量10Gbpsのうち2.5Gbpsを行政目的で利用し、残りの一部である4.2Gbpsを、中小企業の振興などの産業活性化や産官学の連携、大学間ネットワークなどによる学術振興などに、幅広く活用してもらえるよう、今後検討策を練っていく」と語る。
電子自治体への取り組みでは、県庁の職員全員に1人1台のパソコン整備が完了。昨年5月からは、「びわ湖情報ハイウェイ」を利用し、県と県内全50市町村などを結ぶ「おうみ自治体ネット」と呼ぶグループウェアシステムの運用を開始した。
電子メール、電子掲示板、電子会議室、会議出欠報告システムなど、情報共有を図る上での基礎的な機能をもっており、「電子自治体実現に向けての情報提供や情報交換など、県市町村間の連携を図るシステムとして幅広く運営している」(細野課長補佐)。
また、各種申請や届け出などをインターネット上で行なう電子申請システムも、実証実験を経て今年4月から本格運用を開始している。現時点では、自動車税に関する住所変更届け出や祭典行事に付随する食品類似行為届出などを対象業務としている。
さらに、公共情報端末の整備にも力を入れている。「IT体験プラザ」、「インターネット体験コーナー」と称して、ホームページ閲覧などインターネット利用を体験できるようにパソコンを県の機関などに配置。県内15か所には専用の情報端末を配置し、行政情報を自由に閲覧したり、県への申請書類の取り出しなども、この端末で行える。
■「大津市IT推進プラン」が最終年度迎える
県庁所在地である大津市役所では、01-03年度までの3年間のIT推進計画「大津市IT推進プラン」が最終年度を迎えている。
大津市役所では、IT推進を担当する情報政策課を情報処理専用棟に設けているのが大きな特徴だ。93年に建設した建物で、セキュリティ対策が十分に整っており、ICカードでの入出管理やログ管理などをはじめ、マシン室のモニタ管理設備なども整っている。
「大津市IT推進プラン」でも、県の計画と同様にネットワークインフラ作りに注力し、市内情報ネットワークである「以信伝心ネットワーク」を完成させている。市役所内のLANと31か所の出先機関、市の幼稚園、小中学校82か所をすべてつないだ。しかし、「電子自治体への取り組みや、市民サービスへの対応は計画よりも遅れている」(伊藤義樹・大津市企画部情報政策課主査)という。
伊藤主査は、「市役所内の1人1台のパソコン整備や電子文書管理システムの導入はほぼ計画通りに進んだが、ICカードシステムやGIS(地理情報システム)、電子投票システムなどは、ほとんど着手できなかった」と話す。
「インフラはこの3か年プランで整った。来年以降の新プランでは、その上に流すコンテンツ作りを重要課題として取り組む」(伊藤主査)と意気込んでいる。
自治体の取り組みの一方で、滋賀県の各市町村のシステムを手がけるベンダー勢力図は、NECと富士通の一騎打ちの様相を呈している。
現在、県内全50市町村のうち、富士通が21団体、NECが22団体、日立製作所が3団体、東芝が2団体、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)が1団体、日本ユニシスが1団体となっている。
市町村合併に向けた動きは活発で、「法定協議会の設立など、立ち上がりも他府県に比べて比較的早かった」(滋賀県庁の細野課長補佐)という。今年に入ってから合併の賛否を巡る議会での議論や住民投票、法定協議会の解散など、混乱状態の自治体もあったというが、現時点では17団体への統合が予定されている。
NECと富士通の両社がほぼ同じ数の市町村を手がけてはいるが、草津市や八日市市、彦根市、長浜市など人口規模が大きい市は、大津市、近江八幡市などを除きNECが手がけていることが多い。人口の多い市をNECが押さえている状況を考えると、今後、市町村合併により勢力図が大きく変わる可能性もある。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
滋賀富士通ソフトウェア
■システム統合案件を獲りにいく富士通、滋賀銀行などから出資を受け、金融、自治体関連向け事業を主力に置くのが滋賀富士通ソフトウェア(横木英明社長)だ。
滋賀銀行をはじめ、滋賀県内および周辺地域の金融機関システム構築の多くを手がけており、「金融機関向け事業では、他社に比べて大きなアドバンテージをもっている」(大隅一郎・代表取締役常務)と自信をみせる。しかし、「地方銀行の減少化が進んでおり、当然、金融機関向けのシステム関連事業も売り上げが減ってきている。民間需要は今後も期待できないので、自治体向け事業を強化するしかない」(同)という。
その中で大きな強みとなるのは、「富士通グループとの連携」だ。
同社が本社を構えるビル内には、富士通の滋賀支店、富士通製品の保守業務などを手がける富士通サポート&サービス(Fsas)の滋賀支店、ネットワークインフラ構築事業を手がける富士通ネットワークソリューションズ(FNETS)の滋賀支店と、富士通グループ3社も同ビル内に拠点を構えている。
大隅常務は、「市町村合併によるシステム統合の特需がやってくる時期は、短期間に集中する。そうなると、SE(システムエンジニア)不足が必ず大きな問題になる。その時に富士通グループ全体でシームレスな連携を取りながら事業を進めることができるのは大きな強み」と話す。富士通の上杉貴・滋賀支店長も、「システム統合案件は大きなビジネスチャンス。グループで力を合わせて取り組む」としている。
滋賀県内の各市町村のシステムは、「富士通とNECのシェアが拮抗しているが、多くの人口を抱える草津市や彦根市などのシステムは、NECが手がけているのが現状。よって、システム統合案件は富士通グループ全体で獲りにいく」(大隅常務、上杉支店長)と総力戦で臨む構えだ。
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