e-Japan最前線

<e-Japan最前線>45.電子申告・納税

2003/05/26 16:18

週刊BCN 2003年05月26日vol.991掲載

 国税庁が推進する国税電子申告・納税システム(e-Tax)がいよいよ来年2月から段階的に運用を開始することになった。国民・企業にとって最も関わりの深いシステムだけに、同システムの利活用が進むかどうかは、電子政府実現への試金石となりそうだ。電子申告・納税は、米国では1980年代半ばごろから一部スタートとし、G7に参加している先進7カ国では日本を除いた他の国ではすでに導入が始まっている。

来年2月から運用開始へ

 「世界的にも電子申告・納税が大きな流れとなっている。国民の利便性にも資するとの考えで、日本でもシステム開発を進めてきた」(森浩一・国税庁長官官房企画課情報技術室長)。e-Taxでは法人税、消費税、所得税の主要3税で電子申告を可能にするほか、電子納税はその他の間接税を含めて全ての税目で実施。電子申請も国税に関する全ての申請を電子化。欧米などでの電子申告はまだ所得税のレベルに止まっており、e-Taxの運用開始で一気に世界最先端の電子申請・納税が実現することになる。

 国税庁では、4月に導入スケジュールを公表するとともに、電子申告・納税のためのクライアント側の仕様を公開した。運用開始は名古屋国税局管内の愛知県、岐阜県、三重県、静岡県の4県からスタート、順次拡大していく。利用希望者は、セキュリティ対策のための電子証明書を取得するほかに、納税地の税務署長に対して本人確認書類を添付して届出を行い、利用者識別番号と仮暗証番号を受ける必要がある。その時に、無償でe-Taxを利用するためのクライアントソフトが提供され、これを自分のパソコンにインストールして使うという仕組みだ。

 しかし、企業であれば大手のほとんどは、独自の財務会計システムを導入しており、残る中小・零細など9割の企業は申告手続きを税理士に委託。税理士事務所でもコンピューター化が進んでいる。個人向けも確定申告用の汎用パッケージソフトが発売され、パソコン普及に伴って利用者も増えている。これら既存システムからもe-Taxが利用できるようになれば、利用者にとっても利便性が高く、利用拡大を図りやすい。国税庁がクライアント側の仕様を公開したのも、そうした狙いからだ。

 ただ、現在公開されている仕様だけでは情報が不十分との声も聞く。国税庁では、利用手続きなどの詳細を現在詰めており、今年夏ごろに詳細を発表すると表明しており、ソフトベンダーのバージョンアップ作業が本格化するのは、その発表を待ってからとなりそうだ。e-Taxの利用は今後どのように広がっていくだろうか。国税庁では、システムの普及拡大に期待しつつも、当初は安定的な運用に重点を置いており、現時点では普及目標などはとくに設定していないという。日本のような年末調整制度がない米国では、ほとんどの人が還付申告を行っており、電子化によって申告から還付金振込みまでが大幅に短縮されたため、一気に電子申告が普及したと言われる。そうしたインセンティブがあれば、確かに普及しやすいだろう。

 e-Taxの利用者メリットは、税務署に行く手間や銀行に振込みに行く手間が省けることや、国税庁が無償で提供するクライアントソフトを利用すれば自動計算して申告書作成の手間も軽減されることなどがある。申告受付を24時間制とするかなど利便性に関わる運用の詳細はまだ検討中だが、税理士事務所や企業などでは、e-Tax対応で業務効率が上がると判断すれば、一気に導入が進む可能性はある。

 一方、個人の場合、パソコンを使って確定申告書類を作成している人はまだ少ない。クライアントソフトが無償とは言え、電子証明書を取得し、税務署長に届出の手続きをしてe-Taxを利用する人がどれくらいいるかは未知数だ。電子申告・納税を、電子政府を推進していく原動力とするなら、何らかのインセンティブが必要になるかもしれない。さらにe-Tax導入による税務署内部の業務改革についても今後の検討課題となっている。当面は、電子申告と紙による申告とが並存するほか、添付書類もほとんどが紙のままで、むしろ業務の手間が増える可能性もある。IT化によって徴税コストを削減できるかどうかも、今後の大きな課題となりそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)
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