コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第28回 京都府
2003/05/26 20:29
週刊BCN 2003年05月26日vol.991掲載
高校、大学、研究機関を結ぶ学校間連携ネットワーク構築へ 自治体のIT化を担う町村会
■すべての高校を100Mbpsでつなぐ京都府では、すべての府立高校、養護学校を光ファイバー(伝送速度100Mbps)で接続した。
高速インターネット接続環境や遠隔授業、動画像を使った教育用コンテンツを活用できる教育情報ネットワーク「新京都みらいネット」を構築。今年4月から運用を開始した。5月24日には開通を祝い、府立高校6校を中継した記念式典を開いた。
「すべての高校を100Mbpsでつないだのは京都府が初」(原田智・京都府企画環境部企画参事付(IT推進担当)主幹)という。
府内の小・中学校からも新京都みらいネットを利用できるほか、研究機関が数多く立地する関西文化学術研究都市の研究機関とも接続しており、教育関連の一大地域ネットワークとして機能し始めた。
このバックボーンにあるのが、府内情報ネットワーク「京都デジタル疎水ネットワーク」。
デジタル疎水ネットワークは、京都府内を結ぶ縦貫型高速・大容量ネットワーク(伝送速度2.4Gbps)で、学校に限らず、地域IX(インターネット・エクスチェンジ)や、121か所の府庁の出先機関、各市町村、52か所の防災機関などをつないでいる。
一方、京都市でも教育関連機関のネットワーク構築に注力している。市では産官学共同のIT推進プロジェクト「京都ONE構想」を推進。このなかで、京都市内の大学間ネットワーク化への取り組みが行われている。
全国に比べ大学の集積度が高い京都の特色を生かし、高速な情報通信ネットワークで結ぶことにより、大学間の連携、産官学の連携促進を図る。
現在、国公立、私立大学を含め約18大学が参加しており、すでに8大学が接続済みだ。
京都市の中村好宏・総合企画局情報化推進室情報政策課担当課長補佐は、「地域の複数の大学をブロードバンド回線で相互接続する取り組みは全国でも例がなく、多くの大学が集積する京都ならではの先駆的な取り組み」と自信をみせる。
すでに京都府では、全国に先駆けて、大学相互の結びつきを深めることを目的に、財団法人「大学コンソーシアム京都」を設立し、学生が取得する単位を大学間で互換できるようにするなど、さまざまな大学間連携の取り組みを行っている。
それらの取り組みが、この大学情報ネットワークを基盤に展開できるようになった。府と市がそれぞれ取り組む、新京都みらいネットと大学情報ネットワークを接続することで、京都府内に一大教育ネットワークが築かれているというわけだ。
また、今後の展開として、「関西をはじめとする各地域の大学との接続を予定している」(中村課長補佐)という。
■観光情報を携帯電話やPDAに
このほか、京都ONE構想では、京都という土地柄を生かした観光支援プロジェクトなども行っている。
すでに、携帯電話を用いた観光情報の提供サービスを行っているが、今後、各駅のキオスクに情報端末を設置したり、携帯情報端末(PDA)を利用したモバイル環境での観光情報支援システムの整備を行っていく。
行きたい場所を地図情報による確認だけでなく、現在の自分の位置が確認できるGPS(全地球測位システム)を用いて、観光客に現在地周辺の観光情報や市バスの接近情報などを伝える「京都界わい観光案内システム」を構築する予定。PDAを利用した観光情報支援システムは、富士通などの協力のもと今年2-3月の約2か月間、実証実験を行った。
「このところ観光客が減少傾向にある。簡単で便利に観光情報を提供する仕組みを整備して、集客力を高め、京都府内の主力ビジネスともいえる観光業復活に役立てたい」(中村課長補佐)というのが狙いだ。
一方、京都府内の電子自治体の取り組みは、市レベルでは各市が独自でシステムを構築しているが、町村レベルでは、「京都府町村会」の「町村会情報センター」が大きな役割を果たす。
京都府町村会は、行財政におけるさまざまな問題や、行政改革といった課題に対応するため、各町村間で連携強化を図りながら、地方公共事務の円滑な運営と、地方自治の振興発展を図ることを目的に組織化されている団体。
そのなかで、自治体IT化への推進部隊として、町村会情報センターを1997年に設立した。各町村が情報化を進めていくうえで必要な人材、技術、知識などの資源や情報を共有し、各町村主導による情報化を共同で進め、開発のための時間とコストを削減するのが狙い。
山城地区、丹波地区、丹後地区を中心に、32の町村が参加しシステムを共同開発。そのシステムを参加している町村が任意の判断で採用している。
こういった町村会を中心とした自治体のIT化に向けた動きは、小規模な町村レベルのIT化には、重要な役割を果たしているようだ。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
京都電子計算
■自治体向けビジネスを強化1964年に京都新聞社の全額出資を受けて設立されたのが京都電子計算(KIP)である。
独立系システムインテグレータとして、京都府、滋賀県を中心に、システム構築事業を手がけている。
売上高全体のうち、自治体向けビジネスが約60%、学校関連が約25%を占めている。
もともと民間需要は大きな比重を占めていたわけではないが、現在では全体の約5%にまで低下しているという。
森田駿・専務取締役(営業担当)第一営業本部長は、「今後も民需は期待できない」と景気に左右される民需は警戒しており、「市町村合併などに関連した自治体向けビジネスを、より一層強化していく必要がある」と説明する。
自治体向けビジネスでは、保険情報支援、法人住民税管理システム、自治体向けグループウェアなど、幅広くラインアップを揃えているが、主力商品としてパッケージ化を図った行政事務総合システム、人事給与システムの販売が好調だという。
これを受けて、このパッケージを京都府、滋賀県だけでなく、全国で展開していく戦略を打ち出した。
中国、東北、九州地方の地場の有力企業と提携し、パートナー企業を通じた全国展開を始めた。
森田専務は、「大手メーカーは高い視点からの提案が得意だ。当社としては、長い歴史からの現場を知り尽くした知識とノウハウを武器に、現場の視点に立った提案で挑む」と方針を話す。
今年度、来年度の売上高は、「民間需要の低迷を自治体向けビジネスでカバーできる」(森田専務)として、それぞれ前年度比5-10%増で推移すると予測している。
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