コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第27回 奈良県
2003/05/19 20:29
週刊BCN 2003年05月19日vol.990掲載
過疎地域の情報網整備に3セクでCATV会社設立 県と町村との連係はこれから
■平野部と山間部の格差是正が課題山間部のネットワークインフラ整備のために、奈良県は総務省の補助事業である「新世代地域ケーブルテレビ施設設備事業」を活用して、県の鳥にちなんだネーミングの第3セクターCATV「こまどりテレビ」を3月に設立した。
「県内のアクセス回線としてのブロードバンドネットワークのほか、地上波デジタル放送開始後の難視聴地域の解消を目的にするのが狙い」と、廣橋清勝・奈良県総務部情報システム課長は、CATV会社設立の主旨を説明する。
事業の中心になるのは、近畿日本鉄道やソニーが出資し、奈良県や京都府南部をサービスエリアにする近鉄ケーブルネットワーク(KCN、生駒市)。こまどりテレビの資本金は9000万円で、奈良県の出資は21.4%の1250万円。そのほかはKCN、最初にサービスエリアとなる大淀町、奈良テレビ、南都銀行といった地元企業が出資している。
2003年度に大淀町からケーブルの敷設を始め、04年初めには約7300世帯を対象にサービスを開始するが、整備地域は22町村と広く、全ての町村にCATVが行き渡るのは08年度になりそうだ。
「奈良県の場合、面積でいうと3割程度しかない奈良盆地に人口が集中しており、それ以外は過疎地域。世帯数で見ると7.8%しかないだけに、民間通信事業者によるADSL網といった高速回線への投資を期待できない」(廣橋課長)という事情がある。
採算面では、どうみても厳しいと言わざるを得ないCATV会社の設立も、「県民全員が等しく情報通信環境を享受するにはCATVは必要だった」というやむにやまれない理由がある。まず、大淀町でのサービス開始に向けた事業費として5億円程度を計上しているが、全体の事業費は約83億円と膨大。しかし、そのCATVがなければ、同時に03年度中にNTTの回線を借り上げて構築する行政ネットワークと合わせた県内の情報ネットワークは完成しない 。
奈良県は大阪府、京都府などと接しており、有力ベンダーは、大阪など奈良県以外に本社があるシステムインテグレータが拠点を置いてカバーしている。
「自治体向けビジネス拡大を狙うベンダーで、奈良に本社を置く有力な企業は少ない」という指摘もある。
大阪府ばかりでなく大阪府内の自治体ではIT化を進めている市が多く、その中でも羽曳野市などは地理的に奈良県に近い。しかし、県内ではKCNの本社がある生駒市以外では進んでいないのが実情のようだ。「やはり県境を越えると事情が変わる」(来山康治・奈良県総務部次長IT推進担当)と、県外の影響を受けて独自にIT化を進める自治体はないという。
NECの大西秀明・奈良支店長は、「生駒市はもちろん、奈良市も大阪の通勤圏。行政の電子化に対するニーズはこれから高まってくる」とみている。しかし、「市町村合併による情報システム統合で、町村レベルでは情報システムのノウハウをもった人材が少ないということが浮き彫りになってきた」と指摘し、こうした問題を解決するソリューションが必要になると語る。
富士通の大浦達郎・奈良支店長も、「はっきり言ってしまえば、これからだろう」と、奈良県全体の電子化の遅れを指摘する。大浦支店長は前任地の岡山から転勤してきたばかりだけに、そのギャップの大きさを誰よりも実感しているようだ。
■世帯数7.8%の対応に「苦肉の策」
奈良県庁では、急ピッチで電子自治体構築を進めている。02年度末には約80%だった庁内LANの普及率を、03年度早期に100%とし、本格的にグループウェアの導入や文書管理・決裁システムの稼動を目指していく。さらに、セキュリティポリシーの構築、市町村の連係・共同化も検討課題に挙げている。
奈良県や県内自治体との連係を推進するために、今年度から市町村との「奈良県・市町村IT推進連絡会議」での検討を本格化させる。「共同化できる部分を見つけて進めていく。02年度は幹事町村と勉強会スタイルで行ったが、今年度は協議会の形でアプリケーション開発まで進め、来年度には導入していく」(廣橋課長)という方針は決めている。
ただ、「基盤整備を進めていくことにはめどをつけたが、コンテンツの開発となると、県民にメリットがあるコンテンツとはどんなものか、という点が難しいだろう」と、インフラ整備による地域格差の是正以上に難しい問題になると予想している。そうした難しさは、国の施策がはっきりしていないという見方にもつながる。
ここにきて、奈良県でも市町村との共同化を進めていくことにしたのも、各自治体で総務省の方針に沿って共同化ということを真剣に討議し、また他の地域の一部で実施していることに対応したという背景もある。
「IDC化も必要になるかもしれない。奈良県になければ大阪府にあるIDCを利用することがあるかもしれない」と、大胆なアウトソーシングを選択するケースがあり得るとしながらも、「何をテーマに共同化を進めるか。市町村も参加してできるのか」という前提条件も残されている。
奈良県は、地域情報インフラ構築のために国の補助金を利用するとともに、県や地元企業の出資で、採算面では非常に厳しくなりそうなCATV会社を設立した。それも面積で県内の3分の2を占めながら世帯数では10%を切る地域が対象だ。
しかし、CATV会社を今の段階で設立しなければ、これまで以上に過疎地域の情報網整備は遅れることになっただろう。それだけ、県だけでなく地元企業もある意味では県内の情報化のために“出血”を覚悟したといえるかもしれない。その上で、システムの共同化や「コンテンツ」づくりという負担も加わってくる。
「大阪府に近いといっても、奈良は大阪ではない」というのは当たり前の話。しかし、e-Japan計画のなかでは大阪も奈良もなく、全国共通での情報化が必要だ。過疎地の情報基盤整備ひとつをとっても、民間通信事業者には期待できなかった。
奈良県ばかりではなく、過疎地を抱える多くの県にとっては、それだけ負担が増大してくるというわけだ。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
イムラ封筒 ■日本IBMの支援を武器に 大阪市に本社を置くイムラ封筒の情報システム事業部門のヘッドクォーターは、奈良県橿原市にある。日本アイ・ビー・エム(日本IBM)の特約店である同社は、奈良県内の町村向けにAS/400ベースのシステムを提供してきた。
イムラ封筒の湊口護・情報システム事業部長は、「やはり市町村合併によるシステム統合で自治体ビジネスは難しくなってきている」としながらも、「行政システムの分野でLinuxが採用される可能性もあり、技術的にあらゆる要素に対応できる」と、日本IBMのバックアップもあり有利に展開できると予想している。
特に、AS/400ベースのシステムを基本とすることで、「合併自治体のIT統合でも、AS/400ならば論理分割が可能なため、2つの自治体のシステムを同時に活用できる。最終的には新市のシステムに移行するだろうが、それまでの移行期間にも対応できるうえ、ウイルスの問題やセキュリティも万全」とAS/400の特徴を強調する。
e-Japan計画で自治体の情報化ニーズが高まっていることで、「IBMからの支援も今まで以上に活発になっている」という。
「市町村合併に対応したソリューションも、メーカーが積極的にかかわってくることで顧客に対するインパクトも向上している」と、日本IBMとの連係で自治体ユーザー拡大を進めていく考えだ。
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