e-Japan最前線

<e-Japan最前線>44.情報家電e-Life戦略

2003/05/12 16:18

週刊BCN 2003年05月19日vol.990掲載

 「2007年までに全ての世帯に複数の情報家電を普及させ、われわれの生活様式に変革を起こす」――。経済産業省が昨年9月に設置して検討を進めてきた「情報家電の市場化戦略に関する研究会-e-Life戦略研究会」の基本戦略報告書「e-Lifeイニシアティブ」が4月にまとまり、情報家電の普及に向けて具体的な目標が設定された。

IT活用のキーデバイスに

 昨年12月の経済財政諮問会議でも「情報家電・ブロードバンド・IT」分野の産業発掘戦略を策定して“ITライフスタイル革命”の実現をめざし技術戦略を推進する方針が示された。こうした流れに沿って情報家電に絞った具体的な戦略を策定。経済産業省を中心に本格普及に向けた施策が動き出す。

 「将棋に例えると、すでに手持ちの駒はたくさんもっているのだが、その駒をどう使ったらよいかがわからない」湯沢広吉・経済産業省商務情報政策局情報通信機器課情報家電企画調整官は、「個人的な感想」と前置きしながら、情報家電が置かれている状況をそう表現する。すでに家電製品は身の回りに氾濫しており、それらの製品にコンピュータを搭載しネットワークで結んでどう使うのか。昭和初期に家電が普及し始めたときのような“家事重労働からの解放”といった劇的な生活様式の変革がもたらされるとは現時点でなかなか想像できないのも確かだ。

 しかし、裏を返せば、すでに駒はかなり揃っているわけで、ユーザーのニーズに合わせて、駒の組み合わせを上手くコーディネートできれば、情報家電を一気に普及させることも可能と言える。まずはユーザーニーズを把握し、具体的な利用シーンを提示していくことが、情報家電の普及の鍵を握っているとの認識だ。今回の基本戦略では、情報家電の普及目標が設定されたが、そもそも情報家電をどう定義するか、で目標達成の難易度も大きく違ってくる。報告書では、情報家電が備えるべき条件として、(1)安心して使えること、(2)誰にでも使いやすいこと、(3)ユーザーから見て価格が適正であること、(4)時間・場所・空間の制約を受けずにつかえること――の4つを定義。普及率79%の携帯電話も、現時点で情報家電と呼ぶには(2)をクリアしていると言えないようだ。

 携帯電話、白物家電、AV機器、車載機器などのさまざまなジャンルのなかから、果たしてどのような情報家電が登場し、先陣を切って普及していくのだろうか。今回の基本戦略では、具体的な製品が想定されているわけではない。ただ、今後どのような情報家電が普及していくにしても、情報家電の市場と産業を育成していくのに必要と考えられる7つの行動計画を策定した。そのなかで最も重要なのが、技術の共通化・標準化の推進だろう。情報家電のプラットフォームとしては、Linuxやトロンなどオープンソース・ソフトウェアを推進していく方向性が改めて打ち出されたほか、共通化・標準化の推進が必要な28項目のリストを作成、取り組みを開始することになった。

 さらに、情報家電の利用シーンを提示する必要性の観点から、さまざまな実証実験を積極的に展開していくことも決まった。実験の具体的なテーマやスケジュールなどは今後検討を進めていく予定という。現在、見直し作業が進められているe-Japan戦略では、“ITの利活用”が前面に打ち出される方向だ。情報家電はまさにITを利活用するためのキーデバイス。世界最高水準のIT国家に向けて情報家電の普及は絶対にクリアしなければならない課題である。(ジャーナリスト 千葉利宏)

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