大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第80話 普通の人間

2003/04/28 16:18

週刊BCN 2003年04月28日vol.988掲載

 さて、いままでながながと人類の歴史を変えた「ジェームス・ワット物語」を続けてきたが、皆さん、どのような感想をお持ちであろうか。自分の書いた文章に対して感想を強要するのはあまり感心したことではないが、ここは大切な点であるのであえて厚顔を旨とすることにする。

水野博之 高知工科大学総合研究所 所長

まず、「なーんだい、そんなことか」と思われたに違いない。現に私のところにメールを寄せていただいた人がいて、これはよほど疑り深い人のようで、「なかなか面白かったが、本当ですか?こんなお話はあまり聞いたことがないので、ぜひ類書を教えてくれ」ということであった。いわば、種本を教えろ、というわけである。

 種本というのをいちいち教えていたのでは、この種の商売はあがったりになってしまうけど、信用のほうも大切である。「ミズノの奴、勝手に創作してホラを吹いているのではないか」と思われるのも心外なので、ちょっとだけこっそり漏らすとすると、種本の1つはライフ社出版の「人間と科学シリーズ」である。これは有名な物理学者ヘンリー・マーゲナウその他が編集協力した大変良心的な本(シリーズ)で、科学技術を大変面白く説明してある。

 この種の本が最近少なくなったのは残念なことだ。私の記述が面白おかしく「ワット」を作り上げたのではない、という証拠として、この本を挙げておく。いずれにしろ、ワットは普通の人間で、あなた方と全く違わない。「俺だって、私だって、人間の生き方を変えられるのかなぁ」。「その通りだ」。ワットがちょっとばかり皆さん方と違っていたとしたら、それは、「仕事に対する熱心さ」だ。いいかえれば、「自分が本当に好きな仕事にめぐり会えた」ということだ。毎日イヤイヤ仕事をやっていたのではない。その点、ワットは誠に幸運の人であった。(宝塚・中山寺山頂にて)
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