OVER VIEW

<OVER VIEW>構造的不況下、世界市場での米IT企業決算 Chapter9

2003/04/28 20:44

週刊BCN 2003年04月28日vol.988掲載

 欧米のパソコン出荷低迷と市場構成の変化によって、世界第1位、第2位の巨大ITディストリビュータのイングラム・マイクロ、テック・データの売上高が大きく減り続けている。メーカーの直販や直卸しが増えている米国でも、中小SIerやリテールは品揃えが豊富で、ロジスティクス(物流)も安定しているディストリビュータへの依存度は高い。一方、大型リテールの代表ベスト・バイも同業他社とのカニバリズリム(共食い)に勝利し、売上高を大きく伸ばしている。米国ではITリテールも一般消費財のウォルマートと同じように1社独占の状態になりつつある。(中野英嗣)

売上高大幅減の巨大卸売り、急増のベスト・バイ

■ディストリビュータの売上高が急落

 欧米のパソコン市場構造変化の直撃を受けているのが、同地域でパソコン主体に卸売りする巨大ディストリビュータ、イングラム・マイクロとテック・データである。

 1990年代後半、米国にはパソコン主体の有力ディストリビュータが約10社あったが、市場の低迷やパソコン産業構造の変革によって、00年以降の有力ディストリビュータはイングラム・マイクロとテック・データの2社に絞り込まれてしまった。

 とくにこの2社は売上高がピーク時に300億ドル(3兆6000億円)、200億ドル(2兆4000億円)を超える巨大企業である。00年にイングラムは全米全業種卸売り業のトップ企業となった。この両社の01年以降の売上高はともに急落している。ピーク時の00年に307億1500万ドルであったイングラム売上高は、01年に前年比18.0%減、02年は同10.8%減となり、02年はピーク比26.9%という大幅減少となった。テックの売上高も同様で、01年(決算は翌年1月)に前年比15.8%、02年も同8.5%と続けて減少し、02年はピーク比23.0%減となった。

 これに対し、全米最大の情報機器・家電量販店であるベスト・バイの売上高は01年以降も大きく伸び続け、01年にテックの売上高を抜き、02年にはイングラムの売上高を超えてしまった。全米の一般量販店ではウォルマートの独り勝ち状態となっているが、IT、家電も同じようにベスト・バイの独り勝ちとなった。これはコンプUSAなどの大手パソコン量販店が軒並み不振で、多くの店舗を閉じたため、コンシューマがベスト・バイに集中したことによる。

 また、米国のWintel関連有力企業の売上高総利益率を比べると、パソコン業界の利益構造が市場低迷時代になっても変化していないことがわかる。相変わらずマイクロソフト、インテルというソフト・ハードのコンポーネントを提供するWintel連合の総利益率が圧倒的に高い。

 ヒューレット・パッカード(HP)やデルのシステムベンダーの総利益率は18-25%、量販店ベスト・バイは22%台、そしてディストリビュータ総利益率は5%台となっている。ベスト・バイはパソコン以外の商品構成を高めることで、総利益率を毎年改善しているが、パソコン関連比重の高いディストリビュータ利益率は年ごとに厳しさを増している。

■経営指標が示す、イングラムとテックの厳しい経営

 イングラムとテックはともに01年以降は大幅な売上高減少に見舞われている。パソコン市場の低迷とともに、(1)ディストリビュータを介さないデルの出荷台数が大きく伸び、ディストリビュータ依存のHP(コンパックを含む)の出荷台数の大幅減、(2)量販店仕入先がディストリビュータからメーカー直卸しへ変化、という2つの要因によるものだ。

 売上減少のなか、イングラムとテックはともに大幅な人員削減など企業ダウンサイジングの施策を実行している。このため、一時費用を含めた経費上昇によりイングラムの営業利益は大幅に減少し、テックは営業赤字に陥った。イングラムの営業報告書によると、同社売上高の50%は米国、35%が欧州となっている。この両地域の売上高がそれぞれ前年比18%減、5%減となった。

 テックの02年の地域別売上減少幅は米国29%、欧州12%と報告されている。また、テックの商品別売上構成比は本体25%、周辺機器47%、ソフト、ネットワーキングがそれぞれ14%となっている。これら商品別の売上高減少率は前年比で本体26%、ネットワーキング35%、周辺機器18%、ソフト8%である。

 一方、テックのスティーブ・レイムンドCEOは、「02年に当社の全売上高に占める電子商取引の割り合いは31%に達し、これだけは前年比25%増と大きく伸びた」と語る。イングラム、テック両社ともにここ数年総利益率に大きな変化はなく5%程度にとどまっている。

 両社ともに経営が順調な時期でも総利益率と販管費などとの経費率は僅差で、営業利益率も高々1%台であった。さらに、両社とも販管費率をこれ以上大きく低減することは困難だ。むしろ経費率は企業のダウンサイジングにともなう一時費用発生で上昇しつつある。このため02年、イングラムの営業利益率も0.2%とプラス・ゼロ状態となったため、最終損益では赤字に陥った。

 また、テックは02年に人員削減にともなう一時費用が3億2800万ドル発生したため営業損益で赤字となった。両社の経営指標を見ると、巨大とはいえIT関連卸売り業の経営環境は極めて厳しくなった。これ以上の総利益率向上は望めない一方、一時費用を除く販管費率も4%を大きく下回ることは不可能であるからだ。

 しかし、米国パソコン業界では「ディストリビュータ必要論」が根強い。全世界でイングラムは約18万社、テックは10万社の卸売り先を抱える。これらの大半は中小のSIer、リテールでディストリビュータの豊富な品揃えと在庫量、そして満足度の高いロジスティクスシステムに依存してビジネスを展開しているからだ。卸売業の崩壊はパソコン流通の瓦解につながってしまうのだ。

■家電、エンターテインメントの比重を高めるベスト・バイ

 巨大ディストリビュータが大幅な売上高減少に苦しむなか、リテールで独り勝ちのベスト・バイは、多くの不振リテール客を奪って、リテール間でのカニバリズムに勝利し、売上高を大きく伸ばす。

 ベスト・バイは米国とカナダに571店舗を擁する。店舗のスクラップ・アンド・ビルドに積極的に取り込み、店舗開設後3年を経ても黒字化できない場合は自動的に閉店する。同社は取り扱い商品のウエイトも市場動向を睨んで即刻変更する。90年代後半にはパソコンを中心とするホームオフィス機器が40%近くを占めたが、02年はこれを28%まで下げた。

 代わってDVDなどのコンシューマエレクトロニクスを構成比32%まで増やした。また同社はゲーム関連のエンターテインメントソフトが着実に売上高を伸ばし、利益率も高いと報告する。同社が今後期待するのはハードディスクを内蔵した映像のホームサーバー、デジタルTVなどである。
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