OVER VIEW
<OVER VIEW>構造的不況下、世界市場での米IT企業決算 Chapter8
2003/04/21 16:18
週刊BCN 2003年04月21日vol.987掲載
苦戦続く、エンタープライズ対象のEDS、EMC、ユニシス
EDS、EMC、ユニシスは、それぞれのビジネス分野は異なるものの、いずれもエンタープライズ市場を主対象とするベンダーである。IBMサービスを追う立場にあるEDSは、有力クライアントの破綻が相次ぎ、先行きは厳しい。ストレージで最有力のEMCは製品売上高が半減状態となっている。ストレージはサーバー以上に激しい価格デフレに襲われているからだ。名門ユニシスも2001年以降の売上高が大きく低迷している。同社ビジネスの80%近くがサービスで、ハードベンダーからは完全に脱却した。(中野英嗣)■売上高伸ばすも低迷し始めるEDS
ITサービス専業のEDS(エレクトロニック・データ・システムズ)は、世界サービス市場のトップであるIBMのグローバルサービス(IGS)を脅かす唯一のサービスプロバイダだ。とくに、EDSは各国政府機関のアウトソーシング受託では強く、英国、豪州の中央政府、米海軍などのアウトソーシングではIBMを破って受注した。EDSの売上高は01年に前年比12.0%伸び、IGSに迫る勢いを見せた(Figure43)。
同社純利益率は5-6%台を維持し、世界ITサービス市場が不況にも拘らず堅調であることを印象づけていた。しかし最近では、EDSの大口アウトソーシング・クライアントのエンロン、USエアウェイズなど破綻企業が多数発生し、02年秋にはニューヨーク株式市場で株価が暴落。これにつれて市場全体を巻き込んだ「EDSショック」を起こしてしまった。
それでも、02年のEDSの売上高は前年比0.2%の微減にとどまった。しかし、クライアントの破綻でEDSの受注残は不良債権化し、03年以降の同社売上高に影を落している。EDSの売上高が00年以降伸びていることは、サービス市場がハードウェアのような不況状態に陥っていないことの証だろう。02年、IGSの売上高も00年比で9.7%伸びており、これを裏づける(Figure44)。
IGSは02年にコンサルティング大手のPwCC(プライスウォーターハウスクーパース・コンサルティング)を買収し、ITサービスとコンサルティングのワンストップショップ体制を固めた。EDSとの差別化を明確にするためだ。これからのエンタープライズを対象にしたサービスメニューは、オンデマンド型のユーティリティ・コンピューティングに向かって多様化しつつある。
EDSはサービス専業であるためハード部門をもたない。このためEDSは「ハードウェア・インデペンデント」を標榜し、IBM以下のベンダー・サービス部門と競合してきた。しかし、この方針を貫いてきた同社のディック・ブラウン会長は、業績先行き不透明の責任を追及されて03年春に更迭された。
同時にEDSは、マイクロソフトとヒューレット・パッカード(HP)による買収工作の対象になっているとも米市場では噂されている。IT不況でハード、ソフトの価格デフレは激しい。このため、HPやサン・マイクロシステムズ、デルなどハードベンダーも、一斉にサービス力の強化に注力し始めている。EDSはこれから、IGS以外のベンダーサービス部門との激しい競合にさらされることになる。
■2年間で製品売上高が激滅したEMC
ストレージシステムの最有力ベンダーであるEMCが、01年以降、深刻な売上高低迷となっている。02年のEMCの売上高は前年比23.3%減。そして、同社売上高ピークの00年比では38.7%という大きな減少だった(Figure45)。この売上低落によってEMCは、01年から営業損益、純損益で赤字に陥っている。EMCの総利益の落ち込みは売上高以上に大きく、02年の総利益は00年比で58.8%減となっている。米国ではeビジネス時代に入ってからストレージ需要が大きく伸びたため、近いうちにストレージ市場はサーバー市場を上回ると期待されていた。
しかし、IT不況と価格デフレにより、サーバー価格の低落が激しくなり、これにともなってストレージ市場も大幅に縮小してしまった。サーバー、ストレージなどエンタープライズ製品市場はすべてが大きく落ち込んでいる。このため、IBMエンタープライズシステム部門の売上高も減少動向に歯止めがかからず、02年の売上高は00年比で10.9%も減少している(Figure46)。
コンパックを買収したHPのエンタープライズ部門の02年売上高も、前年比19.7%減と大きく落ち込んだ。EMCの売上高では、とくに製品の落ち込みが激しい。02年のEMC製品の売上高42億1900万ドルは、00年の79億6700万ドルから47.9%減という半滅状態である。これに対し、同社のサービス売上高は00年の9億500万ドルから、01年は11億7400万ドル、そして02年は12億1900万ドルと大きく伸び、同社の売上高減少幅を縮小する役割を果たしている。これによって同社の売上高サービス構成比は、00年の10.2%から、02年には22.4%と倍増している。
ストレージ市場は日立製作所なども世界で有力ベンダーの1つである。さらにストレージ需要はダイレクトアタッチト型から、SANやNASなどネットワーク対応型へのシフトが急速に進んでいる。また、ストレージはサーバー以上に強力なバーチャリゼーション技術が要請され、ストレージの安定稼動を保証する自己管理、オートノミック(自律型)機能開発の競合も激しくなった。これによりストレージベンダーは、巨額研究開発費を要求されるようになった。このため、ストレージ分野も専業ベンダーの生き残りが難しくなっているといえる。
■中堅ベンダーでありながらサービス特化のユニシス
メインフレーム全盛の60-80年代、ユニシス(当時のユニバックとバロースの合併会社)は、IBMに次ぐ有力メインフレーマで、エンタープライズでは同社メインフレームユーザーも多かった。このような名門企業のユニシスは、近年売上高の伸び率が小さく、売上高60億ドル程度の中堅ベンダーにとどまっている(Figure47)。
同社の売上高も01年以降大きく落ち込み始め、02年は00年比で18.6%減という大きな落ち込みとなっている。一方、ユニシスは従来のメインフレーマという企業イメージを一新するほど、ITサービスの売上構成比を高め、02年の同構成比は76.4%となっている(Figure48 A)。
同社の02年のサービス売上高42億8500万ドルは、IGSの売上高363億6000万ドルの8分の1以下と小さいが、利益率は遂次向上している(Figure48 B)。ユニシスITサービスの総利益率、営業利益率はIGSに及ばないものの、着実にその差を縮めつつある。
ユニシスITサービスは、これまでサービス力の弱かったサンやデルなどからの委託ウエイトも大きくなっていた。
しかし、これらハードベンダーは、自社内のインハウスサービス力強化に注力しており、ユニシスビジネスが従来通り他社ベンダーに依存し続けることは難しくなるようだ。
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