コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第24回 大阪府(下)
2003/04/21 20:29
週刊BCN 2003年04月21日vol.987掲載
IT企業の誘致・育成がカギ、インキュベーション施設の強化図る 福祉施設のICカード導入で分散発注
■大阪発のベンチャーを創出へ大阪市では、2001年12月に「大阪市地域情報化指針」を策定した。これは、(1)地域コミュニティと多様なパートナーシップの創出、(2)快適で豊かな暮らしを支援する行政サービスの高度化、(3)活力ある地域経済と文化の創造、(4)大都市としての都市機能の充実、(5)情報通信ネットワークの高度化――などの実現を目的に掲げ、地域ネットワークの整備や市内の産業活性化、住民サービスの強化などに取り組む。対象期間は05年度までとなっている。
大阪市の梶本武史・計画調整局計画部情報政策課長は、「IT化では、行政の業務効率化や住民サービスの充実はもちろんだが、ITを軸に地域を活性化することも重要」と語る。大阪地域は、企業が本社機能を東京にシフトするケースが目立ち、これが「地域が活性化しない要因につながっている」と指摘する。
そのため、大阪市ではIT関連企業の誘致・教育に力を注いでいる。03年度は、中小企業やベンチャーを支援する施設「産業創造館」をIT関連のインキュベーション施設として強化していく。「大阪発のIT関連企業を数多く創出し、地域全体のIT化発展につなげていきたい」(梶本課長)意向だ。
IT化への取り組みとして進んでいるのは、情報通信ネットワークの整備。梶本課長は、「情報発信は東京の一極集中型。大阪からの情報発信は10%にも満たないといわれている。そこで、まずはネットワーク基盤の整備が先決と判断した」と語る。
整備の進捗状況は3月末の時点で、大阪市が25%出資する大阪メディアポートにより、延べ2万5583キロメートルの光ファイバーを敷設。大阪セントラルケーブルネットワーク、シティウェーブおおさか、ジェイコム関西大阪局の3社を利用し、ケーブルテレビに加入可能な世帯数を約95万とした。これにより、「市内世帯数の95%以上をカバーする地域を整備したことになる」(梶本課長)と自信をみせる。カバーしていない地域は、「市が所有する下水管の利用を検討しており、市内全域でブロードバンドが使える」環境にしていく。
市庁内のインフラ整備は、02年度の時点で必要な部署に約1万1000台のパソコンを配置した。03年度中には、1万3000台以上の配置を予定している。
住民へのサービスで特徴的なのは、大阪市内の住宅情報を収集できる「住宅情報システム」を提供していることだ。「大阪に住んでもらうことをコンセプトに、大阪市のさまざまな情報も盛り込んだ」(梶本課長)としている。
文書管理システムや電子申請システムに関しては、構築に向けて検討中だという。当面は、市庁内インフラの整備が中心となりそうだ。
大阪市が地域情報化として02年度にかけた予算は約55億円。03年度は、約30億3300万円を予定している。
■IT化実現は発注者主導で
大阪市内の施設建設で特徴的な発注を行ったケースがある。市内最大級の福祉施設「大阪市福祉研修・情報センター」がそれだ。
この施設は、社会福祉における人材の育成や、福祉に関するさまざまな情報の発信を目的に、今年1月30日にオープン。大阪市が福祉行政サービスの高度化を目指し、99年から稼動している地域情報システムと接続した初の公共施設となる。
この施設をプロデュースしたのは、都市計画・建築計画のコンサルティング会社「R&D associates」の小山雄二代表取締役だ。小山代表取締役は、大阪府と京都府、奈良県が進めた街づくりプロジェクト「けいはんなプロジェクト」や、90年に開催された「大阪の花と緑の博覧会」跡地の活性化計画「花博記念公園活性化プロジェクト」、尼崎臨海開発と丸島計画(兵庫県尼崎市)を担当した経歴をもつ。
自治体のIT化について、小山代表取締役は、「自治体がシステム構築を行う場合、IT関連の大手メーカーに基本設計から工事、運営までを一括して請け負わせるケースが多い。本来は、発注者側である自治体が主導で行わなければならない」と指摘する。
そのため、今回の施設では、「メーカー1社に依存しない分散発注を実施した」(小山代表取締役)という。
具体的には、日立製作所、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)、NEC、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、沖電気工業、富士通などに分散発注した。
複数のメーカーによるシステムの場合、互換性が問題になる場合が多い。この点については、「施設に導入した情報設備や端末がすべてネットワークで一体化されており、施設の職員や利用者に発行する非接触型のICカードがシステムをコントロールしている」(小山代表取締役)と説明する。
ICカードは、IDカードの役割を果たしており、情報の整理・検索でネットワークやデータベースにアクセスする資格の認証、夜間休日の館出入口や入室制限の部屋の開錠などに活用。「ICカードがなければ建物に入れないし、システムを操作できない」(小山代表取締役)。建築費を含めて施設設立にかかった総費用は35億円。
自治体におけるIT化の課題について小山代表取締役は、「コストを削減して最適なシステムを構築する上で、分散発注をコントロールできるだけの管理者が行政側にいないこと」と強調する。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
NEC関西支社
■2府4県のシェアを40%に大阪府、京都府、滋賀県、奈良県、兵庫県、和歌山県の2府4県でビジネスを展開するNEC関西支社が、自治体ビジネスのシェア拡大に積極的だ。
今北良康・関西支社長は、「2府4県における自治体ビジネス市場でのシェアは現在34%。これを40%まで引き上げる」と鼻息が荒い。
関西支社では電子申請や電子調達、電子投票など、自治体向けソリューションを展示したショールームを昨年6月に設置した。今年2月末の時点で135自治体が同ショールームを訪れた。「デモなどで分かりやすく提案できることが強み」と自信をみせる。
これまでは、庁内インフラの整備を中心にビジネスを行っていたが、「今後は、フロント部分のシステム需要が高まる」と見る。最近では、大阪府に住民基本台帳ネットワークシステムを導入した実績をもつ。2府4県の売上高のなかでは、大阪エリアの売上比率が25-30%と高い。
市町村合併については、「2府4県で、今年2月末の時点で21、22の法定協議会が設置されており、合併の進行具合は各府県によってさまざま。合併の動きをみて、タイミングを図ってビジネス展開するのが重要になる」と語る。
自治体が連携して電子申請の共同運営システムを構築する動きもあり、ビジネスの仕方が従来と変わってくる可能性もあるが、「市町村に関しては、電子申請以外のシステムを提案するなど細かくアプローチしている。単独のシステムであれ、共同システムであれ、良いシステムを提案すれば受注できる」と強調する。
2002年度(03年3月期)の自治体ビジネスは、売上高が400億円強の見通し。今年度は、「10%増を目指す」構えだ。
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