OVER VIEW

<OVER VIEW>構造的不況下、世界市場での米IT企業決算 Chapter7

2003/04/14 20:44

週刊BCN 2003年04月14日vol.986掲載

 2000年からのIT不況が長引く中でも、マイクロソフトの売上高は2ケタの伸びを維持し、相変わらず高い利益率を確保する。しかし、90年代後半に30-40%も売上高が伸長した頃と比べれば、同社は安定的な成長軌道に乗ったといえるだろう。マイクロソフトビジネスの中心は相変わらずデスクトップ関連であるが、Xbox、ソリューションなど新規ビジネスも、売上高は小さいが高い伸びを示している。また、同社はストックオプション費用を計上した仮決算を公表し始めた。これによって同社営業利益は30%弱減少する。(中野英嗣)

マイクロソフト、相変わらず伸長率高い売上高

■年率売上高の2ケタ伸長続き、安定成長期に入った

 世界的なIT不況が続く00年以降も売上高が大きく伸び続ける有力ITベンダーは、世界でマイクロソフトのみだ。Wintel連合の一翼を担うインテルも01年以降の売上高はピーク時の00年比で20%以上落ち込んだままだ。

 これに対しマイクロソフトの売上高前年比伸び率は01年が10.2%増、02年も12.1%増と2ケタ成長が続く。02年の売上高は283億6500万ドル、営業利益119億1000万ドル、純利益78億2900万ドルと好調な決算を続ける。

 98年以降、マイクロソフトの売上高の年平均伸び率は16.8%と高い。しかし、95-99年に同社の売上高伸長は30-40%に達していたので、これらの期間に比べれば、マイクロソフトの売上高も安定的な成長期に入ったといえるだろう。マイクロソフトは従来、ソフト製品販売のみであったため総利益率が85%以上と高かったが、01年よりXboxビデオゲームのハード販売を開始したことで、同率は80%強まで下がっている。

 しかし、売上高営業利益率は45%前後、そして30%以上の純利益率を維持し、相変わらず同社は世界のIT業界で最も利益の大きな企業だ。またマイクロソフトはIBMに次いで研究開発費が巨額な企業で、インテルを加えると83億ドル以上を投入する。このWintel連合の技術開発力がヒューレット・パッカード(HP)、デルなどWintel製品重点のシステムベンダーの技術を支えている。Wintel連合の標準技術だけを使うデルは、売上高比1%台と低い研究開発費投入で高い利益を稼ぎだす。

■デスクトップが売上高の3分の2、OEM比率も長期安定

 マイクロソフトの地域別売上構成比は、ほぼ世界のパソコン出荷台数の地域別比率を表すだろう。米国地域が36-37%、欧州・中東が20%前後、そして日本・アジアが10%強という地域別構成比で大きな変動はない。当比率が年別に大きく変化するのは、新ソフトバージョンの地域別の発売開始時期にズレが生じたためと推定できる。

 さらに、同社のソフトをハードにバンドルするOEM(相手先ブランドによる生産)比率は、長い間30%台で、マイクロソフトのハードバンドル戦略は極めて安定しているといえるだろう。

 直近の年間決算による同社のビジネスディビジョン別売上構成比は、デスクトップアプリケーションが33.8%、OSなどのデスクトッププラットフォーム32.8%で、デスクトップ合計は売上高の3分の2、66.6%である。

 また、これにサーバーソフトなどのエンタープライズ関連ソフト18.0%を加えたウィンドウズ関連の合計は84.6%で、同社主力ビジネスが相変わらずウィンドウズであることが分かる。しかし、Xboxの出荷が全世界で開始された02年、コンシューマ関連構成比は、前年の7.7%から12.6%へと上昇している。

 当然、今後はデスクトップ関連の構成費が下がり、コンシューマ関連の構成比が伸びると考えられる。興味深いのは、サーバー分野におけるウィンドウズとLinuxの競合である。サーバーでのLinux普及が進めば、当然同分野のマイクロソフトシェアは下がり、それとともに同社売上構成比にも影響が出てくるだろう。

■ストックオプション費用を計上、それでも高い純利益を維持

 02年7月からの03年決算より、マイクロソフトはビジネスディビジョンを再度改編しクライアント、サーバープラットフォーム、インフォメーションワーカー、ビジネスソリューション、MSN(Microsoft Networks)、CE/モビリティ、ホーム&エンターテインメントに分けた。

 このうち、インフォメーションワーカーまでの3ディビジョンは、いずれも従来のウィンドウズ関連である。インフォメーションワーカーはマイクロソフトOffice、マイクロソフトProjectなどである。これに対しビジネスソリューションズ以下の3ディビジョンはマイクロソフトにとって比較的新しいビジネスだ。

 直近6か月の決算によると、これら新ビジネスの売上高前年同期比はいずれも大きく伸び、ビジネスソリューションズは63.9%増、CE/モビリティが25.8%増、ホーム&エンターテインメントが47.7%増となった。

 今後マイクロソフトがXboxとともに大きな売上伸長を期待するのが、SMB(中小企業)向け業務アプリケーションを扱うビジネスソリューションである。その第1弾新製品がMS-CRMで、これは買収したナビジョン製品をベースに開発した。

 さて、マイクロソフトの決算で興味あるのは、公表した従業員ストックオプション(自社株購入権)の費用を計上した02年12月までの仮の年間決算書である。

 国際会計基準理事会(IASB)は、ストックオプションを人件費とみなして費用計上する新会計制度を05年から導入する方針を決定している。この方針にもとづき、マイクロソフトは仮決算比較を公表した。ストックオプション費用の算入で売上原価、研究開発費、販管費はいずれも高くなり、年間経費合計は22.2%も高くなる。

 これによって営業利益は費用未算入の134億8100万ドルから96億3200万ドルと28.6%も減少する。当然純利益も従来計算の95億4100万ドルから69億4400万ドルとなる。EPS(1株当たり利益)も従来の1.74ドルが、1.29ドルとなる。また売上総利益率も従来の80.5%から78.9%と同社として初めて70%台となる。

 マイクロソフトは総利益率が極めて高いため、ストックオプション費上を計上しても、22.6%と高い純利益率を維持できる。

 しかし米ハイテク企業はマイクロソフトを含めてこの費用計上義務づけに反対し、同社スティーブ・バルマーCEOも次のように強調した。「ストップオプション費用の計上を義務化すれば、米国の技術開発基盤が打撃を受ける」。

 しかし、ウォールストリートでは「未計上で済む会計基準によって企業収益が実態より膨らんでいる」との主張が強まり出している。
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