e-Japan最前線
<e-Japan最前線>38.GIS公募型実証実験
2003/03/31 16:18
週刊BCN 2003年03月31日vol.984掲載
地域密着型サービスの基盤に
GISは共通の電子地図の上に、都市計画図、防災避難経路、人口分布図などの多種多様な地理データを重ね合わせてコンテンツを利用するための道具である。GISの上で利用できるコンテンツがなければ利用価値はないわけで、いかにコンテンツを整備・拡充していくかがGISの利用促進のカギを握っている。「カネはほとんど出さずに、データを出した」(塩本知久・国土計画局総務課国土情報整備室課長補佐)。今回の実験のユニークな点はここだ。GISのコンテンツ開発に必要なのは、カネよりもむしろ過去に蓄積された膨大な地理データ。その多くを、国や地方自治体、さらに電力会社、ガス会社などの公益企業などが保有している。国が音頭を取ることで、これまであまりオープンにされていなかったデータが提供されやすい環境をつくり、コンテンツ開発を促進する効果を期待したわけだ。
成果発表会では、大分県竹田市の事例が印象に残った。地場企業の豊西測量設計が、大分県、竹田市、JAなどの協力を得て、農業に幅広く利用できる共通地図データベースを作成したもので、森林基本図は大分県林業水産部から、中山間地域等空間地形データと航空写真を大分県農政部から入手。市販されているゼンリンの住宅地図、国際航業の市町村地図なども利用して作成した地図の上に、農地の所有者、作物、利用状況などデータを展開し、農地の状況が一目で判る地図をつくり上げた。
これを使えば、減反状況確認などの作業が簡単に行えるほか、農地所有者の年齢や後継者の有無などから農村の高齢化にともなう長期展望をシミュレーションするという使い方もできる。また、減農薬栽培の農地を表示することで農薬散布計画も立てやすくなり、作物栽培の履歴データなどによって土壌改良計画の策定にも役立つといった効果が期待できるという。すぐにでも実用化可能なコンテンツと言えそうだ。
竹田市の事例は、行政と民間がデータを出し合って共通地図データベースを作成することができたが、こうしたデータの相互利用がどこまで図れるかが今後の大きな課題だ。岐阜県では「岐阜県ふるさと地理情報センター」が設置され、今回の実験を通じて、今後県内の地理データ流通の総合窓口としての役割が期待されている。岐阜県以外のモデル地区でもデータ流通の方策について検討を行ったものの岐阜県のような流通窓口の具体化には至っていない。
政府が保有している地理データについては、その提供方法に関するガイドラインの作成が進められており、近く公表される予定である。これを参考にして地方自治体などでも地理データ提供のガイドラインを早急に策定する必要があるだろう。また、今回の実験で7つのモデル地区では確かにGISの普及が促進されたが、それ以外の地域でGISの普及をどのように進めていくかは今後の課題だ。GISは地域に密着したサービスの基盤となるだけに、地場産業の育成という視点からの対策も求められるだろう。(ジャーナリスト 千葉利宏)
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