コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第21回 兵庫県(上)
2003/03/31 20:29
週刊BCN 2003年03月31日vol.984掲載
ほぼ完了したネット基盤整備、県民のIT活用を重点的に推進
県、市町が一体となり、電子化に取り組む
■「兵庫情報ハイウェイ」で情報格差埋める「兵庫情報ハイウェイ」は、兵庫県内の各機関や市町、学校、公民館などを結ぶ高速・大容量の情報通信基盤として整備したもので、02年4月1日に運用を開始した。
安井宏・兵庫県産業労働部科学・情報局情報政策課主幹は、「南部と北部の地域情報格差が激しかったのは事実。この差を埋めるには、ネットワーク基盤を早急に整備することが先決だった」と話す。
基幹部回線容量は1.8Gbps。県内27か所にアクセスポイントを設置し、総延長約1400キロメートルを結んだ。「1平方キロメートルあたりのアクセスポイント数が3.3か所、敷設距離は167メートルになる。この数値は、全国でもトップレベル」と自信をみせる。
整備にかけた予算は01年度が22億1100万円、02年度が整備および運用で14億3200万円。03年度は、運用に11億7200万円の予算を見込む。
アクセスポイントは、小野市内に設置予定のまちづくりモデル「小野長寿の郷」(仮称)にも設置する計画。「現段階でも、兵庫県全域でブロードバンドが使える環境が整った」(安井主幹)という。
電子県庁の実現に向けた基盤整備については、県の各機関を結ぶ「県庁WAN」を整備した。02年度に9総合庁舎を含む11庁舎で運用を開始しており、他の庁舎も03年度に運用開始を予定する。これにより、県内のすべての機関でインターネットやグループウェアの利用が可能となるのに加え、税・財務会計のオンラインシステム回線の統合化や文書管理システムなどが全庁舎で展開できる。
電子県庁に向けこれまでかけた予算は、01年度が約4億7600万円、02年度が約7億5200万円。03年度は13億5100万円を予定する。榎本輝彦・兵庫県企画管理部企画調整局課長(電子県庁担当)は、「電子県庁への取り組みにより、05年には県民・企業の時間・交通費削減で約34億円、行政内部のコスト削減で約28億円、合わせて約62億円の経済効果となる」と、投資効果を試算する。
兵庫県では、IT国家の確立に的確に対応するための行政指針として、01年2月に「ひょうごIT戦略」を策定した。01年度から03年度までの3年間を重点的な取り組み期間として、「兵庫広域ネットの構築」、「県民生活の情報化」、「産業の情報化」、「行政の情報化(電子県庁の推進)」の4分野について、具体的な施策を打ち出した。
「地域のネットワーク基盤の整備や、電子県庁のための基盤整備は、ほぼ完成した」(安井主幹)という。兵庫県が比較的スムーズに基盤整備を進めることができたのは、産業労働部科学・情報局を「ひょうごIT戦略」の事務局とし、「各部局にも『IT主幹』を配置した」(同)ことが大きい。
予算は01年度が90億7900万円、02年度が93億9000万円をかけた。03年度は、107億4300万円を予定する。
■共同運用システムでコスト削減
今後は、「整備した基盤を最大限に生かすこと。県民の誰もがITを利活用できる環境を整えることが重要」(安井主幹)と強調する。
榎本課長も、「各市町との連携が最も重要。ネットワーク基盤が確立しても、電子申請など、さまざまなシステムで効果的に活用しなければ本当の意味でのIT化とはいえない」と指摘する。
兵庫県では、県と市町、兵庫県市長会および兵庫県町村会で構成する「電子自治体推進協議会」を02年5月に設置しており、県と市町による共同運営システムの構築やLGWAN(総合行政ネットワーク)の整備・活用について協議してきた。
共同運営システムについては、「複数の市町が共同で利用できるシステムを構築する」(榎本課長)ことを計画している。03年6月に参加意向の確定、04年4月に共同利用に必要な機能拡張、同年8月に県システムのデータセンターへの移設、同年10月に運用開始というスケジュールを組んだ。
「この厳しい経済状況のなか、単独でシステムを構築していくには難しい市町が多い」(同)ことが最大の理由であり、ITにかかる投資額を大幅に削減することで県全域のIT化を進めていく。
たとえば、20市町が10種類の手続きで共同運用システムを利用した場合は、初期費用が約6500万円、年間の運用費が約1億4261万円と試算する。1市町の初期費用は約325万円。年間の運用費は人口規模によって異なるが、3万人以下の市町が約360万円、50万人以上の市町が約1763万5000円になると弾いている。
共同運用システムを進めるにあたって重要なのは、参加する市町の数だ。共同運用システムに参加するかどうかは各市町の意思にかかってくる。電子申請システムの構築に着手する市町もあるため足並みが揃うかどうかが課題だが、「できるだけ多くの市町が参加する方向にもっていきたい」(榎本課長)としている。
システムの構築にあたっては、県が開発する電子申請システムをベースに、市町の共同利用に必要な機器の増設などを行い、民間企業のデータセンターに移設する予定。県内には、NTTグループや富士通、地元企業の中で自治体ビジネスが好調なさくらケーシーエスなどがデータセンターを持つ。今後、データセンター事業を獲得するための激しい受注合戦が繰り広げられることが予想される。
だが、データセンター事業のビジネス規模は、参加する市町の数で大幅に変わってくるのも事実だろう。
LGWANの整備・活用については、03年度末で88市町すべてにおいてネットワーク構築が完了することを計画するが、「02年度末でLGWANの構築完了が24市町」(榎本課長)という。88市町がすべて構築を終えるには時間がかかるため、「ASP化を進めていく」(同)意向だ。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
さくらケーシーエス
■IDCを武器に自治体ビジネス拡大狙うさくらケーシーエスは、兵庫県神戸市に本社を置く地元の有力システムインテグレータ。篠山市や高砂市、小野市、加西市などに基幹業務系システムの導入実績をもつ。
生駒憲二・公共システム事業部公共営業部長兼電子自治体担当室長は、「このほかにも、14町に基幹業務系のシステムを導入している。兵庫県の88市町すべてと取引がある」と胸を張る。
兵庫県以外では、大阪府の大阪市や堺市などでもシステム構築を手がけた実績がある。直接営業をかけるのは大阪府まで。他の地域については、新潟県の新潟SIネットや三重県の三重電子計算センター、岡山県の両備システムズなど各地元企業との連携強化を図っている。
さくらケーシーエスの強みは、神戸市にIDC(インターネット・データ・センター)をもっていること。兵庫県が進める電子申請の共同運用システム構築については受注を獲得したい意向で、「多くの大手ベンダーが参入したとしても、地元企業であるという信頼性と、これまでIDCを手がけてきたノウハウを武器にシステム受注に結びつける」と意気込む。
また、兵庫県が推進している「LGWANのASP化」に関しても、「ハウジングやホスティングを含めた形で提供する体制を整える」と、受注獲得に積極的な姿勢を示す。
今後は、ソフトウェア開発や情報処理サービス、ハードウェア機器の販売を一括して提供することに注力。
「コンサルティングサービスを含めたトータルソリューションとして提供していく」構えでいる。
2002年度(03年3月期)の自治体関連ビジネスは、売上高で約46億円を見込んでおり、01年度と比較して微増の見通し。「売上高の波が激しいわけではなく、確実に収益がとれるビジネスとして展開している」と強調する。
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