大航海時代
<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第75話 エンジニアの神髄
2003/03/24 16:18
週刊BCN 2003年03月24日vol.983掲載
メガチップス 取締役 水野博之
皆さんは言うかもしれない。「へぇー、そんな簡単なことなの。自分はワットが蒸気機関の1から10まで造ったのだとばかり思っていた」と。左様、物事はかくも簡単なことなのだ。ひちめんどくさい、数学や物理はどこにも見当たらない。大体、われわれ日本人はむずかしく考え過ぎるようだ。数式や公理がひっついていないと有難味が薄れるようで、これは日本の後進性をあらわしている。この悪い癖から脱却しないと、新しい日本の時代はなかなか来ないだろう。要は簡単なことなのだ。発想は得たものの、ワットにはそれを実験する金がなかった。普通の人間であれば、「金もないしなぁ。まあ仕様がないか」で終わるところである。ワットの凄さはそうならなかったことだ。貧乏のドン底のなかで、彼は今でいう“アルバイト”をしながら実験を続けたのであった。こうしてワットは破産寸前にまで追いこまれていく。
世の中というのはよくしたもので、ここまでくれば“拾う神あり”で、バーミンガムの金持ち、マシュー・ボールトンが救いの手をさしのべてくれることになった。こうしてワットの発想はようやく日の目を見ることになる。ワットが初めてワット機関を売り出した年に、アメリカ合衆国が誕生した(1776年)。まさにこれは象徴的な出来事で、新生アメリカ合衆国はワット・エンジンによって立国していくのである。
いうまでもなく世界最大の米自動車産業はその延長上にある。ワット機関によって世界は結ばれ、生産性は飛躍的に増大し、人類はまったく新しい時代を迎えることになった。機関(エンジン)はあらゆる産業の中心に座ることになった。このようにワットは世界のビジネスを根本的に変える偉業を成し遂げたにも関わらず、ワット自身はビジネスは大嫌いであった。エンジニアの神髄はここにあるといってよいであろう。(大阪・民族博物館にて)
- 1