コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第20回 愛媛県
2003/03/24 20:29
週刊BCN 2003年03月24日vol.983掲載
既存のハード活用で、ローコストな情報化目指す 情報ネットワーク、来年度に第2次計画スタート
■約2000万円で文書管理・電子決裁システムを稼働愛媛県庁が導入を図る文書管理・電子決裁システムは、「これまでの紙文書との違いを最小にとどめ、違和感のないように工夫した」(村重了・愛媛県総務部行政私学課課長補佐)と、移行をスムーズにするための苦心がある。
システム構築を簡素化するために統一された文書フォーマットに切り替えてしまう方法も考えられるが、「あまりにも変化が大きいと、それだけで抵抗感が増大する」(村重課長補佐)ことを予想。「いかにもパッケージソフトそのまま、というのでは使えない部分もあり、移行を阻害する要因にもなりかねない」(平原拡・同課電子申請推進係長)という。
そのために、愛媛県仕様へのカスタマイズを加え、デモの結果「何とかいけるだろうと、各課の責任者も納得できるものになった」(村重課長補佐)のだという。
もっとも、これまで約2年間、職員全員がグループウェアを使用しており、「電子化への抵抗は少ないだろう」との見方もできる。新年度のスタートとともに、文書管理・電子決裁システムを稼動させ、本庁舎で働く約1800人の職員が使用するが、それでも「当面4か月間は移行期間として紙文書と並行させていく」(村重課長補佐)というのも苦心の1つ。
さらに大きな苦心は、財政状況の厳しい自治体にあって、「いかに安く、いかに効率的に新システムを導入するか」ということ。この文書管理・電子決裁システムの発注額は、約2000万円でNECが受注。もともとNECは、財務会計システムを愛媛県に納めており、その他の庁内システムについても、富士通など他のベンダーと並んで受注した実績がある。
そうした実績とともに愛媛県が、「既存のハードウェア資産を活用し、二重投資にならないようにしていこう」(村重課長補佐)との方針を立てており、その点でも実績のある業者は有利なわけだ。
文書管理・電子決裁システムの実用化を図りながら、2003年度からは電子申請についても本格的な開発作業に着手し、年度末には運用を開始する。「まずはハードルの低いもので、ということから許可証の発行など30件程度でスタートしたい」(平原係長)と考えており、システム開発を行う中で対象案件の絞り込みを進めていく予定という。
県の所管となる申請業務は、様式ベースでいうと約4000件にも上る。01年度初めから可能になったインターネットによる申請書類のダウンロードも、当初の570種類から約650種類まで増えた。電子申請についても30件からスタートし、汎用受付システムや共通認証基盤が実用化できるようになった段階で、さらに拡大していくことになる。
■2003年度から「第2次愛媛県高度情報化計画」
電子県庁化を進めていく一方で、課題として残るのが県内の地域情報政策。愛媛県では00年度からスタートして、02年度末までに第1次計画としてATM(非同期転送モード)ネットワーク「愛媛情報スーパーハイウェイ」を完成させた。回線は自設ではなくNTT西日本と四国電力子会社のSTNetのネットワークを回線ごとに入札し業者決定している。
両社それぞれに発注していることについては、「一括発注という計画もあったが、区間距離などに応じてそれぞれ入札発注した方が、全体的にはコストが安くなると判断した」(越智秀明・愛媛県企画情報部情報政策課情報計画係長)としており、コストを第1に考えたというのが理由だ。
県内にある各アクセスポイントから各市町村役場までは、それぞれの市町村の負担でネットワーク接続することになるが、70市町村のうち「市町村VPN(仮想私設網)としてネットワーク接続しているのは25だけ」という状況。もともと、市町村VPNもLGWAN(総合行政ネットワーク)接続を見越して計画してきた。LGWANの仕様が固まったことで各自治体も接続を迫られてはいるが、反応はいまひとつの様子だ。
愛媛情報スーパーハイウェイでは、公的利用に限定し25のアプリケーションと2200以上の機関がネットワーク化されている。情報として活発に利用されているのは、医療情報などいくつかに限られてしまう。
そこで、愛媛県が第2次計画として検討しているのが基幹情報網の民間利用。03年度から05年度に実施する「第2次愛媛県高度情報化計画」のサブタイトルは、「共に創ろうネットワーク愛ランド」であり、インターネット利用の促進がテーマだ。
「県独自の取り組みとして、DSLやCATVを含めてインターネット利用促進を図るための施策と、基幹情報網を将来的に大容量の回線ニーズにある事業者に開放するということも検討課題の1つ」(越智係長)。細かい部分では、島根県のようにプロバイダ開設の初期投資に対する支援なども盛り込む予定だ。
「第1次情報計画でははっきりしていなかったe-Japan戦略や市町村合併など大きく変わった要素もある」(越智係長)ことから、ネットワーク化が遅れている市町村への助言や支援、電子化による自治体業務の効率化、市町村間の情報格差の解消といった課題も、第2次計画で実現させていく考えだ。
愛媛県は、四国では香川県と双璧をなすほど、市町村合併が活発に検討されている。香川県に比べ面積も広く、市町村数も多いため、その動きはより大きい。コンピュータベンダーからみれば、市町村の住民情報システムでどこか1社が大きなシェアを占めているわけではないので、合併の動向は自治体ビジネス拡大に大きく影響する。
現在、愛媛県には70市町村があり、4月に合併する新居浜市と別子山村を含め法定合併協議会だけで14あり、さらに任意協議会が2つある。近い将来、愛媛県内の市町村数は半分以下になってしまい、それだけユーザー数が減ることになるわけだ。
その激しい市町村合併の動きが、県の情報政策にも大きく影響している。第2次愛媛県高度情報化計画にも、その合併の影響が加味されている。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
愛媛電算
■合併動向に右往左往合併の動きが激しい愛媛県。地元システムインテグレータ、愛媛電算の竹内顕也・統括本部取締役副本部長も開口一番、「市町村合併で、市町村数は3分の1以下になるとも言われている。ビジネス継続のためにも負けることは絶対にできない」と、合併の影響を深刻に受け止めている。
地元新聞社などの出資で設立され、電子計算センターとして県内ほとんどの市町村の受託計算を行ってきた同社だが、自治体が独自に情報システムを構築するようになって、「その頃はどんどん顧客を減らしてきた」という経験もある。現在の顧客は、70市町村の20%程度という。それだけに、市町村合併には危機感を抱いているわけだ。
市町村合併では、現在はシェアの小さいベンダーも勢いづくことが考えられ、さらにある程度のシェアを確保している大手ベンダーなら、シェアの確保だけでなくシェアアップを目指して攻勢をかけてくる。竹内取締役も、「これまでのようにメーカー色を出した営業と、そうではない営業を、顧客拡大のために使い分けていくことも必要だろう」と、あの手この手の営業戦略を練っている。
「合併のなかでも自治体ごとの力関係もあり、内容は複雑。対等合併のようなケースでは、どこかの自治体のシステムに統合するのではなく、新しいシステムを構築した方が時間も費用も少なくて済むという提案をしたい」としながらも、壁になるのは自治体のパワーバランスとか。
03年に合併するのは新居浜市と別子山村だけだが、多くの法定協議会が04年度内の合併を計画している。「それにしても時間がない」というのは、事情をよく知る地元の愛媛電算だけでなく多くのベンダーの心配事でもある。
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