OVER VIEW
<OVER VIEW>構造的不況下、世界市場での米IT企業決算 Chapter2
2003/03/10 20:44
週刊BCN 2003年03月10日vol.981掲載
利益の大半をノン・ハードで稼ぐIBM
■世界IT市場の縮図となるIBM決算IDCによると、02年の世界IT投資総額は前年比2.5%減、ピーク時の00年比では6%以上減少し、IT市場の縮小に歯止めはかかっていない。このIT不況でもエンタープライズシステムではIBM、そして、Wintel市場ではデルコンピュータの独り勝ちという業界構図が定着しつつあるという認識が強まった。
しかし、独り勝ちといわれるIBMも00年のピーク時から減収減益を続けている。02年のIBM売上高は前年比5.5%減、ピーク時の00年比では8.2%減の811億8600万ドル(9兆7400億円)、純利益はハードディスク事業の日立製作所への売却などにともなう損失17億5500万ドルなどもあったが、前年比53.7%減の35億7900万ドル(4290億円)にとどまった。
IBMは全世界に販売網をもつIT業界最大ベンダーであるので、マーケティング戦略に失策がなくても、市場縮小による減収減益は避けられない。同じ巨大ベンダーのヒューレット・パッカード(HP)がコンパックコンピュータを買収したが、コンパックを合算した売上高で2年間に20.6%減で、2年間赤字を続けていることと比べると、IBMの強さがわかり、同社の独り勝ちという評価になる。IBMの経営指標推移を見ると、まず売上総利益率がここ5年間37%前後で極めて安定していることが判明する。
IBMは01年まで特許料収入などをプラス要素として販管費に参入していたため、売上高販管費率が20%以下であったが、これを02年より分離したため販管費は実態を反映するようになった。また、IBMの強みである技術開発を支える研究開発費(R&D)は常に50億ドル(6000億円)程度を維持して、その売上高比も6%前後と高い。
さらに、売上高税引き前利益率も事業売却損計上のため9%台となったが、IT不況下では極めて高い数字だ。IBMのルイス・ガースナー前CEOは、「IBMの売上高は常にプラトー(高原)型で推移する。欧州アルプスの名峰『マッターホルン型』の上下激しい経営は株主、ユーザーもこれを歓迎しない」と述べた。減収減益でもIBMの業績低下は緩やかであり、IT不況下でもこの特徴がIBMの強さとなっている。
■ノン・ハード売上構成比が60%を越える
93年に瀕死の巨像IBMのCEOに就任したガースナー氏は、IBMをそれまでのハード一辺倒のベンダーから、ITサービス、ソフトなどノン・ハードを経営の柱に置き換える戦略を展開し、IBMを再び巨額利益を稼ぐベンダーへ再生させ01年、後任に現在のサミュエル・パルミサーノ会長兼CEOを指名した。このガースナー戦略の結果はIBM売上高セグメント構成比の変化が明確に示す。
98年、IBMの売上高に占めるハード比は43.4%で、これが02年には9.6ポイント下がり33.8%となった。逆にサービス構成比は35.4%から44.8%まで急上昇し、ソフト構成比も14.5%から16.1%となった。この結果サービス、ソフトを合わせたノン・ハードの構成比は98年の49.9%から02年には60.9%となった。
IBMハード売上構成比は全売上高の3分の1となり、IBMビジネスの中核はITサービス、ソフトであることが明確になった。しかし、IBMパルミサーノCEOは、「強力なサービスは強いハードによってもたらされる」との信念を述べる。そのためIBMは巨額R&D費を維持し、02年もオートノミック(自律型)コンピュータ、これをネットで結合しバーチャリゼーション(仮想化)技術で一元管理するグリッド・コンピューティング技術を他社に先駆けて発表した。
IBMのサービス構成比44.8%に対し、競合サン・マイクロシステムズは31.2%、HPは17.2%にとどまり、世界のITサービス市場でのIBMの強さを実証する。この構成比の変化はセグメント別売上高の推移が示す。ITサービスはプライスウォーターハウスクーパースコンサルティング(PwCC)の買収などもあって右肩上がりが続く。これに対しパソコン、サーバーやストレージなどエンタープライズシステム及び半導体やハードOEMビジネスのテクノロジーは、急速な右肩下がり現象となっている。
■利益の86%はノン・ハードが稼ぐ
IBMの売上高セグメント構成比より一層、IBMのノン・ハード依存の経営体質を明確に示すのが、セグメント別税引き前利益だ。
IBMハード最強のエンタープライズシステムの税引き前利益も98年の28億4200万ドルから、02年には45.1%減の15億6100万ドルまで低落した。テクノロジーは10億ドル以上の赤字、パソコンも赤字からは脱却したが、利益貢献はゼロ状態だ。
これに対し、グローバルサービス利益は前年より大きく落ち込み36億5700万ドルであるが、エンタープライズ利益の2.3倍だ。
さらに、IBMソフト利益の持続する右肩上がり現象に注目したい。メリルリンチによると、IBMソフト売上高の80%はミドルウェア、20%はメインフレーム用、OS/400、AIXなど独自OSだ。
IBMソフトビジネスの大きな特徴は02年で84.4%と極めて高い売上総利益率だ。これによって02年IBMソフト部門の売上高税引き前利益率は24.9%と極めて高くなった。
この結果、IBMソフト利益は売上高が2.7倍のITサービスとほぼ同額の35億5600万ドルとなった。IBM経営のノン・ハード依存を売上構成比以上に物語るのはノン・ハードの税引き前利益構成比である。
利益で唯一貢献するハードはエンタープライズ関連だが、その02年の利益構成比は18.5%に過ぎない。これに対しサービス構成比は43.3%、ソフト構成比は42.2%だ。
この結果、ノン・ハードのIBM全税引き前利益に占める比率は85.5%となった。これに対しハードは巨額赤字セグメントもあるため、わずか6.7%の貢献度にとどまる。IBMのファイナンスその他にはレンタルビジネスやエンタープライズ関連の中古再販が含まれる。
こうしてみると、IT不況下でもIBM独り勝ちといわれる要因は、売上高を支えるITサービス、利益で多大な貢献をするソフトビジネスが車の両輪の役割を担っていることだと理解できる。
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