大航海時代
<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第71話 蒸気機関の発明
2003/02/24 16:18
週刊BCN 2003年02月24日vol.979掲載
水野博之 高知工科大学副学長
エンジニアの起源を尋ねれば、人類の始まりにたどりつくことになる。約500万年前の大旱魃(かんばつ)によってアフリカの森林は激減し、そのとき弱小の猿が森を追われた。いままで豊富な食物のあった安全な森から、猛獣が走りまわっている草原に降り立った猿は途方に暮れたであろう。うかうかしていると全員猛獣の餌食とされかねない。結果として彼らはツール(道具)を発明していく。それは非力な猿の防衛の手段ともなり、攻撃の力ともなった。エンジニアの始まりである。何もスローンの言うように20世紀だけがエンジニアの時代であったわけではない。考えてみれば、人類の歴史はエンジニアとともにあった、といってよいであろう。もちろん、わが家の愛犬三太も大いに工夫はする。「暑いなあ、エアコンでもつけるか」と言うと、素早く移動して最も涼しいところに座り込む、という才覚はある。しかし、それだけである。
とてもエアコンのよって来る原因に思いをめぐらせている気配はない。エンジニアとしては失格である。こう考えると、人類と他の動物を区別してきたのはエンジニアであるといえるだろう。あの壮大なピラミッドが如何にしてつくりあげられたのか?現在にいたるも謎であって、多くの仮説が立てられている。はっきりしているのは、あの時代にも名をこそとどめていないけれども、すばらしいエンジニアがいた、ということである。
確かに、人類を進歩させ、偉大と感ぜしめるのは、遙かなる未知の古代からエンジニアのやってきた遺跡、成果によってである。しかし、人類がその歴史を画して、近代といわれる文明の時代に入ったのは、ジェイムス・ワット(1736-1819年)による蒸気機関の発明による。したがって、ここでは「ワットの物語」から始めることにしよう。 (宝塚ホテルにて)
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