コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第16回 高知県(上)

2003/02/24 20:29

週刊BCN 2003年02月24日vol.979掲載

 情報システムの全面的なアウトソーシングを決めているのは岐阜県だけではない。高知県もCDC(コミュニティ・データセンター)への移管という形で外部委託を行う考えだ。2002年度予算で、経済産業省の実証実験事業である「IT City構想」の事業地区に選ばれた高知県は、市町村も参加して県全体をあげてのアウトソーシング実現への歩みを進めている。それに歩調を合わせて、地元システムインテグレータ、大手ベンダーも大規模なアウトソーシングの受注を狙っている。(川井直樹)

情報システムのアウトソーシング、市町村との共同化を推進 CDC(コミュニケーション・データセンター)を設立

■「こうち情報化戦略2001」の総仕上げ

 高知県の情報システムのアウトソーシングは、岐阜県によるNTTコミュニケーションズへのアウトソーシングとはやや趣を異にする。

 今回、経産省の実証事業を獲得したのは高知電子計算センター。もちろん高知県と市町村も協力する。さらにベンダーとして松下電器産業、日立製作所も加わりソリューションの提供ではCDCソリューションズなども参加、「高知県コミュニティ・データセンター整備促進協議会」を結成している。

 CDCのモデル事業としては、公的分野で地域ポータル、電子申請、施設予約案内、情報提供、自治体支援業務などを含み、民間アプリケーションではICカードを使った診察券、小売ポイント連携、駐車場料金ポイント支払いなどがテーマになっている。

 CDCを設立する目的は、システムの構築・運用を共同利用し、アウトソーシングすることで、電子自治体を低コストかつ短期間で実現するための共通基盤と位置づけている。

 岐阜県のアウトソーシングが、県の基幹システムを中心とし、市町村との共同化が明確になっていないのに対し、高知県の場合、県内に53ある市町村のうち42団体がCDCのメンバーになることを明らかにしている点が大きな違いというわけだ。

「高知県の場合、高知市に人口の約40%が集中しており、高知市以外の市町村で大きなところがない」(伊藤博明・高知県企画振興部情報企画課チーフ)というのも市町村の参加を促しやすい要素だという。

 もともと高知県の電子自治体構築は、1997年度から「情報生活維新」を基本理念として「こうち2001プラン」を開始したことから始まる。当初は01年度までの5か年計画だったが、その間に行政のIT化の推進など政府の施策が大きく変化してきたことで、1年前倒しで終了し、新たに「こうち情報化戦略2001」として01年度からの3か年計画が進行中。

 02年度に実証事業に選定されたCDC構築は、いわばその総仕上げというわけだ。「特に高知版電子政府としてアピールするつもりはない」と情報企画課の伊藤チーフは笑うが、市町村との共同化というポイントはほかの自治体にも参考になるだろう。

 しかし、その一方で、大手ベンダーや地元のシステムインテグレータは、「CDC設立を獲得できなければビジネスチャンスは極端に小さくなってしまう」との危機感が増大している。

 02年度単年度で進められている実証事業を獲得した高知電子計算センターも同様だ。

 これまで、県の基幹システムを一手に引き受けてきたが、CDCともなれば話は別。

 高知県庁に隣接する四国電力のビルである「高知電気ビル」に高知県情報企画課が入居しており、このビルの別のフロアには高知電子計算センターと高知県の基幹システムが置かれている。

 伊藤チーフが、「高知電気ビルは、CDCとして必要なファシリティの条件を満たしているとは言えない」というように、新しい仕組みのためには、発生の恐れが高いとされる南海地震にも耐えられる堅固な施設が求められている。

 「そのファシリティを含めて、どういう形になるかは正式に決まっていない」ということで、大手ベンダーもCDC事業の獲得を虎視眈々と狙っているのである。

■富士通、南国市でIDC建設に着手

 高知県での取材を進めていた2月17日、富士通は高知市に隣接する南国市の南国オフィスパークに、IDC(インターネットデータセンター)「高知富士通テクノパーク」の建設を決定し、地鎮祭を行った。

 富士通は既存の施設を活用したIDCをすでに運営しているが、地方で一からIDCを設立するのは高知県が初めてになる。

 橋本大二郎・高知県知事も出席した地鎮祭で、秋草直之・富士通社長は「着工までに8年かかったが、これで橋本知事との約束を果たせる」と語り、「自治体業務の受注も課題の1つだが、高知には民間企業で富士通ユーザーも多いので…」と、高知県のCDC事業に対する意欲については明言しない。

 しかし、富士通高知システムエンジニアリングの三ツ橋四郎社長は、「IDCをもつことが強力な武器になる」という方向をはっきりみせる。

 富士通は、高知市をはじめ県内6市を基幹システムユーザーにもつが、市町村の情報システムを共同化したCDC設立ということになれば、それらのユーザーを失うことになるからだ。

「南国オフィスパークは堅固な岩盤の上にあり、地震がきても大丈夫」(三ツ橋社長)というのもセールスポイント。今年8月末に完成予定の施設には、富士通高知システムエンジニアリングも、高知市内のオフィスから引っ越すことになっており、高知県に対して強くアピールしていくことになるだろう。

 高知電子計算センターの山本茂和・情報事業本部システム部長は、「経産省に提出する報告書の取りまとめに忙しい」という。

 高知電子計算センターにしても、高知県のCDC受注は絶対に負けられない案件だ。「実証事業で培ったノウハウを無駄にはできない」という思いは強い。


◆地場システム販社の自治体戦略

四国情報管理センター

■テスト的にデータセンター事業も計画

 「町村レベルでいえば情報化に対する認識は低かったが、最近ようやく危機感がでてきた」。中城幸三・四国情報管理センター社長は語る。ユーザーである自治体の情報担当者が同社に出向き、「情報のスキルアップのために、急速養成を行っているところ」と笑っている。

  同社は高知県と徳島県内の45自治体で財務会計システムなどのユーザーをもつ。「高知県では市町村合併は盛り上がっていないが、徳島県ではこれから、ますます忙しくなりそう」と、合併による情報システム統合やアプリケーション開発の需要は広がると見ている。

 高知県が進めるCDC構想に対して、直接名乗りをあげるつもりはなさそうだが、「共同システム運用というのは必ず広がる」と語り、そのために、「24時間365日稼動や地震といった災害発生にも耐えられるデータセンターの構築を目指して、テスト的な事業には着手する」と、生き残りのための手は打っていく考えだ。

 自治体のIT化では、「大手ベンダーだけでなく、NTTグループや電力系、地銀系のシステム会社も需要開拓を狙っている。競争は激しくなる一方だ」という。

  そうしたなかで、高知県や徳島県だけでなく、山口県や静岡県でもビジネスを開拓した実績を生かし、「協力できる地元システムインテグレータとは積極的に提携するというのも1つの方策」とするほか、基幹系だけでなく、得意分野で商品力を高めていくことで、激しくなるサバイバルゲームでの勝ち残りを狙う。
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